ブラジル – エンターテイメント関連法

さて、ブラジルのエンターテイメント関連法ということで、前五回ほど連載というかブログを掲載してきた。ついに、エンターテイメント関連法と言う分野のなかの本丸のところについて掲載していく。といっても、たいした記載はないのだが…(汗)、たいした大きな規制はないというところを書きたいがために、規制があるメディア・広告関連といったところを書いていたところもあり、(大風呂敷を広げたにもかかわらず、おちの部分である本稿がたいしたものではないことにつき)どうかご容赦いただきたい。

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ブラジル – エンターテイメント関連法

さてさて、続きで、ブラジル法上のエンターテイメント関連法ということで、広告関連法についてとりあげたいと思う。なお、インターネットの広告に関しては、以前こちらで述べたこともある。以前述べた部分との重複もあるが、ここで広告全般について触れておきたいと思う。

  • I – メディア関連法(総論名誉毀損プライバシー
  • II – 広告関連法(総論(今回)・各論)
  • III – エンターテイメント関連法
  • IV – アート関連法

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ブラジル -エンターテイメント関連法

ブラジルのエンターテイメントといえば、サッカーを思い出すひとが多いかもしれない。サッカーのテレビ放送は毎日のように行われ、夕方からはサッカー観戦に走るひとも多い。バーやレストランにあるテレビで放映されているのもサッカーの試合であることがほとんどだ。仮に、家にテレビがなかった(我が家はテレビを契約していない)としても、外から聞こえる爆竹と叫び声で、「あぁ、今日もサッカー観戦があるのだな」と実感する。と言う流れで、本日は、ブラジルのエンターテイメント法関連について触れてみたいと思う。

  • I – メディア関連法(今回・次回)
  • II – 広告関連法
  • III – エンターテイメント関連法
  • IV – アート関連法

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ブラジル -大統領罷免手続きの現在(7月)

前回上院手続が採決された直後の様子について、このブログで触れた。弾劾裁判は始まったのか?オリンピック期間までには終わりそうにないという現状には変わりはないのか?そうだとすると、オリンピックで、誰がブラジルを代表した大統領として対応することになるのか?経済状況についてはどうなりそうなのか?これらについて、現地報道に触れる限り、また現地にて滞在する限り把握している情報をここで紹介する。

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ブラジル – 憲法:政教分離

ブラジルの宗教といえば、カトリックである。南米、いや2015年時点で世界でも最大の信者を抱えるとも言われ、歴史的にもラテンアメリカのカトリック教会の変容に重大な役割を果たしてきた。

政治と宗教の関係においては歴史が大事であることはいうまでもなく、ここで改めてブラジル・ポルトガルの歴史に触れながら、紐解いていくこととしよう。話は、ブラジルがポルトガル領であったころから遡る…

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ブラジル – 憲法(4):基本的人権とその保障(3)

憲法全体の目次はこちら。第2部:基本的人権とその保障の全体についてはこちら。今回は、第2部基本的人権とその保障のうち、信教の自由のうち政教分離・検閲の禁止・プライバシー権・住居の不可侵・情報へのアクセス権について触れる。

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ブラジル – 大統領の罷免手続きその後

ブラジル時間本日2016年5月12日午前6時前ほどに、ルセフ大統領(Dilma Rousseff)の罷免手続に関し、上院採決が終わった。前日午前10時から始まったこの手続は、81人の上院議員のうち出席した各員が15分ほど演説する形式(出席議員は71名で、50名が賛成、20名が反対、1名がどちらにも組しない意見・沈黙)を取り、なかなか遅々として進まなかったが、21時間にも及ぶ審議がなされ、また、夜通し行われ、今朝方ようやく結論が出た。

ご存知のとおり、ブラジル議会では、ルセフ大統領が政府会計の不正操作に関わったなどとして去年12月から弾劾に向けた手続きが進められてきており、この議会上院は、ルセフ大統領に対する弾劾法廷を設置するかどうかの採決だった。これは1992年のFernando Collor de Mello大統領時代に行われて以来の24年ぶりの大事件でもある。

その結果、賛成の議員が55人、反対が22人となり、賛成多数で弾劾法廷の設置が決まった。弾劾法廷の設置後、ルセフ大統領に正式に通知され、大統領の職務が180日間停止されることになる。弾劾法廷による裁判は、8月のリオデジャネイロオリンピックの時期(8月5日開幕)まで続くとみられ、この間、テメル副大統領(Michel Temer)が大統領代行を務めることになる。なお、テメル副大統領の所属するブラジル民主運動党(PMDB)は、今回の罷免手続最中の3月に連立政権を離れているものの、ブラジル最大の政党であることにはいまだ変わりはない。

I – 何が上院で議論されていたのか?

(上記のとおり、政府会計の不正操作が罷免手続の端緒であったものの)今回話されていたものは、もっぱら経済の状況についてであった。ブラジルはここ10年で最大の不況に陥っており、失業率は2015年には9%にも達していたし、物価上昇率(インフレ指数)も非常に悪化していた。

採決状況はテレビでも放映されていたところ、このうち、有名なサッカー選手でもあったロマーリオ(Romario)上院議員が出席し、(かなり太ったなと思いつつも)ブラジルは危機的な状況にあり、そのこと等を踏まえ、今回の弾劾裁判設置に賛成票を投じる旨述べたのが一番印象的であった。恥ずかしながら、知っている上院議員が彼しかいなかったのも、印象的であったことの一因というのはここだけの内緒としておこう。

II – 採決。そのとき国民は?

私自身はサンパウロ市に住む一般市民であったが、前日から深夜にかけてパウリスタ大通りを歩いて帰宅途中、政府側・反政府側双方がデモをしているのを見た。3月やその後あった大規模なデモに比べれば、大分小規模に落ちており、多くの人々は採決が可決されていることを想定しているようであったと感じた。

III – 今後は?

今後は弾劾裁判が始まり、最大180日間続き、オリンピック期間までには終わりそうもないというのが大方の予想である。これは最終的には表決により決められるが、2/3以上の賛成があればルセフ大統領はこれをもって正式的に罷免されることとなる。

ブラジル – 法規範の序列

ブラジルの法規範の序列は、(1)憲法・(2)補則法(lei complementar)・(3)普通法(lei ordinária)の順序である(憲法59条)。

  • 憲法修正のためには、両院での審議・表決により、5分の3の賛成が必要(憲法第60条第2項)
  • 補則法改正のためには、両院の出席議員にかかわらず、総議員数の過半数の賛成が必要(第69条)
  • 普通法改正のためには、議員の過半数の出席と出席議員の過半数の賛成が必要(第49条)

憲法上法律には一種類しかない日本と異なり、ブラジルでは法律に二種類があることに注意が必要である。

また、日本上、憲法および法律の改正手続は以下のとおりである。

  • 憲法改正には、両院の総議員の3分の2以上の賛成に加え、国民投票が必要(第96条)
  • 法改正には、原則として、両院での3分の1以上の出席で、出席議員の過半数の賛成が必要(第56条)
    • なお、衆議院で可決し、参議院で否決された場合、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で可決した場合も可能(第59条)

 

ブラジル – 憲法(4):基本的人権とその保障(1)

第2部:基本的人権とその保障は以下の第5章よりなる。憲法全体の目次はこちら

  • 第1章:個人的・集団的権利と義務(5条)
  • 第2章:社会的権利(6条から11条)
  • 第3章:国(12条から13条)
  • 第4章:政治的権利(14条から16条)
  • 第5章:政党(17条)

ここで、日本語の漢字の問題であるが、「ほしょう」と言っても、保障・保証・補償と複数の漢字がある。特に、保障と保証は意味合いも近いことから、(契約書でのドラフティングの注意事項というよりも、日本語の用法の問題でもあるが、)使用方法につき整理しておきたい。

  • 保障:実際に何らかの行動・措置をとることで、望ましい状態を実現・確保し、また侵害から保護すること
    • 使用例:安全保障・言論の自由の保障・老後の保障
  • 保証:将来に向けて約束するということで、保証の時点で何らかの行動をすることをせまられるわけではないもの
    • 使用例:品質保証・連帯保証

ブラジル – 憲法(3):第1部基本原則

憲法全体の目次はこちら

第1部基本原則(Dos Princípios Fundamentais)は、1条から4条にて構成されている。

Art. 1º A República Federativa do Brasil, formada pela união indissolúvel dos Estados e Municípios e do Distrito Federal, constitui-se em Estado Democrático de Direito e tem como fundamentos:

I – a soberania;

II – a cidadania;

III – a dignidade dapessoahumana;

IV – os valores sociais do trabalho e da livre iniciativa;

V – o pluralismo político.

Parágrafo único. Todo o poder emana do povo, que o exerce por meio de representantes eleitos ou diretamente, nos termos desta Constituição.

第1条 ブラジル連邦共和国は、各州及び各市町村ならびに連邦区の確固たる団結により構成され、民主主義・法治国家であり、以下の事項を根底とするものである。

  1. 独立国家
  2. 市民権
  3. 人格的尊重
  4. 勤労の社会的価値および自由の尊重
  5. 政治的多元

(付則)本憲法に従い、行使される全ての権力は、国民または国民より選ばれた代表により、正当化されるものである。

Art. 2º São Poderes da União, independentes e harmônicos entre si, o Legislativo, o Executivo e o Judiciário.

第2条 連邦国家の機関は、相互に独立であるとともに協調性を有する、立法府、行政府および司法府より構成される。

三権分立の定義を思い出す。権力が単一の機関に集中することによる権利の濫用を抑止し、権力の区別・分離と各権力相互の抑制・均衡を図ることで、国民の権利・自由を保障しようとするシステム。言い換えるならば、目的が国民の権利・自由の保障であり、手段が権力の区分・分離と相互抑制・均衡というシステムだ。日本は議院内閣制(憲法第66条第3項等)だが、ブラジルは大統領制といった違いはあるものの、三権分立・権力分立構造を取るということ自体は同様である。

Politics_Under_Constitution_of_Japan_02wikipediaより)

 

日本の議院内閣制の特徴としては、官僚内閣制や政府と与党の一元化がなされていないといった点、加えて参議院との関係(参議院は内閣不信任案を決議できず、政治的意味を有する問責決議のみ)といった点が挙げられる。ブラジルとの対比は、以後読み進めていく条文中に明らかにしていきたいと思う。

Art. 3º Constituem objetivos fundamentais da República Federativa do Brasil:

I – construir uma sociedade livre, justa e solidária;

II – garantir o desenvolvimento nacional;

III – erradicar a pobreza e a marginalização e reduzir as desigualdades sociais e regionais;

IV – promover o bem de todos, sem preconceitos de origem, raça, sexo, cor, idade e quaisquer outras formas de discriminação.

第3条 ブラジル連邦共和国の基本原則は以下のとおりである。

  1. 自由、公正かつ統一された社会であること
  2. 国家的発展を保障するものであること
  3. 貧困を根絶し、基本的生存権を確立しならびに社会的宗教的不平等を撲滅するものであること
  4. 出自、人種、性別、肌の色、年齢およびその他いかなる方法による差別等なく、全国民の福祉を促進するものであること

日本国憲法は、基本原則というと、①人権尊重、②国民主権および③平和主義である。個人の尊重といったことが第一に来る印象だったが、ブラジル憲法では、社会の発展や差別・平等に対する抑止が強く前面に出ている印象である。

Art. 4º A República Federativa do Brasil rege-se nas suas relações internacionais pelos seguintes princípios:

I – independência nacional;

II – prevalência dos direitos humanos;

III – autodeterminação dos povos;

IV – não-intervenção;

V – igualdade entre os Estados;

VI – defesa da paz;

VII – solução pacífica dos conflitos;

VIII – repúdio ao terrorismo e ao racismo;

IX – cooperação entre os povos para o progresso da humanidade;

X – concessão de asilo político.

Parágrafo único. A República Federativa do Brasil buscará a integração econômica, política, social e cultural dos povos da América Latina, visando à formação de uma comunidade latino-americana de nações.

第4条 ブラジル連邦共和国の国際関係は、以下の原則より構成される。

  1. 国としての独立性
  2. 人権の普及
  3. 国民の自己決定権
  4. 不干渉
  5. 各州の平等
  6. 平和維持
  7. 紛争の平和的解決
  8. 暴力行為(テロリズム)及び人種差別の根絶
  9. 人類の発展のための貢献
  10. 政治的亡命への擁護

(付則)ブラジル連邦共和国は、ラテンアメリカ圏構成への構想とともに、ラテンアメリカにおける人々の経済的、政治的、社会的、文化的融合を促進させるものである。

この付則は、日本国憲法であれば、おそらく維持できなかったであろう。大東亜構想というものがどういうものか具体的にリサーチできていないが、戦後の人々であればそのような構想または類似のものを連想させることにもなりかねないだろう。他方、ラテンアメリカと明示して、地域コミュニティを、世界規模で考えているということはすばらしいとも評価できるだろう(なお、1988年制定のブラジル憲法と、第二次世界大戦直後の日本国憲法と制定時期が全く違うことはあらためてここでも認識しておく必要がある)。