ブラジル企業等の買収において、ブラジルの企業結合規制はスケジュール等に大きな影響を与えることから当初のとっかかりとして、注意すべき点の一つである。
I – 企業結合規制の概要
新ブラジル競争法(法2011年12529号)は、2012年5月29日に施行された。本法律による大きな改正点は、企業結合規制が設けられたということにある。これは、CADE(「カジ」と呼ばれる – the Administrative Council for Economic Defense)による監視のもと、現在のM&Aの実務に大きな影響を与えている。
(1) 競争法上の届出義務が生じる事業規模
義務的に競争法上の届出書をCADEに対し提出しなければならない事業規模(filing thresholds)としては、以下の2要件を満たす場合である。
- 一つの経済グループの届出直近事業年度のグロス・レベニュー(粗利益)が750百万レアル以上の場合
- 他方の経済グループの届出直近事業年度のグロス・レベニュー(粗利益)が75百万レアル以上の場合
過去のCADEでの事件例等(Case No. 8700.004943/2013-59やCase No.0700.00258/2013-53)によると、売主・買主の双方がどちらかの要件を満たさなければならないとされている。
なお、最近日本企業が関与した案件としては、沖電気が買収側として関与した事案(Case No.0700.00258/2013-53)があり、沖電気がItautecの設立した新会社の70%の議決権を買収するという案件(2013年6月17日付けで官報にて公表されている)である。
「economic group」の意義は、CADEによる決議2012年2号によれば、以下のとおり定義されている。
- 支配権を有していること
- 共通の支配下にいること
- 直接・間接に共通の支配下に置かれ、20%以上の議決権を保有されていること
投資ファンドに関して、上記決議は、以下のようなものは一つの「economic group」に属するとしている。
- 当該ファンドのスポンサーまたはマネージャーであること
- 当該ファンドの株式等を直接・間接に20%以上保有していること
- 当該ファンドのスポンサーまたはマネージャーに運営されているファンドのすべて
- 当該ファンドのポートフォリオ内の会社であって、直接・間接に株式等を20%以上保有されているもの
2014年2月19日に出された公開協議録(Consulta Pública)第1号もこれに触れているので、あわせて参考にしていただきたい。
(2) 届出の対象となる「集中」させることとなる取引
競争法第90条によれば、「集中」とは以下のことをいう。
- 従前独立した二つ以上の企業体の合併
- 一つ以上の企業体の直接・間接の買収(株式取得か資産取得か否かを問わない)
- その他合弁契約等企業結合に関する契約。但し、行政機関より指定された一定の手続きを経るものはこれに含まれない
また、少数「株式の取得」に関し、2012年第2号決議は以下の取引に関しては、届出の対象となるとしている。
- 当該買収により、ターゲット会社の最大株主となる場合
- 単独株主からの20%以上の株式または議決権の取得であって、単独の買収者が少なくとも20%の議決権を保有することになる場合
- 単独株主からの20%以上の株式または議決権の取得であって、当該買収が支配株主によりなされている場合
- 20%以上の株式または議決権の取得であって、各当事者になんらの関連性がない場合
- 5%以上の株式または議決権の取得であって、各当事者になんらかの関連性がある場合(ここでいう「なんらかの関連性」というのは、各当事者が競合企業であったり、またはその事業が実質的に関連する同一市場内にて行われるものであった場合のことをいう)
また、「企業結合に関する契約」に関し、2013年、CADEは共同開発兼ライセンス契約を締結したMonsato Corporationに対し、届出の対象となる取引か否かはケースごとに検討されるべきといいつつも、当該契約当事者に各当事者が競合企業(同一市場での競争者か否か)であるか否かの確認および実質的に関連するか(各当事者の事業に密接関連する市場シェアが20%以上あり、当該市場が他の当事者の市場に関連するか否か)の確認をするよう等判断した。
ほかにも問題となりうる契約は種々ありうるが、いずれにせよ、競合企業間で行われる契約や、各当事者の事業に密接関連する市場シェアが20%以上ある場合には届出の要否について慎重に検討すべきといえるだろう。
(3) 届出等に関する違反があった場合の罰則
新ブラジル競争法(法2011年12529号)第40条によれば、CADEに提供すべき情報につき、適宜提出できなかった場合は、1日あたり5000レアルの罰金であり、虚偽情報の提出があった場合には、1日あたり5000~5百万レアルの罰金となる。
また、これに加え、虚偽情報に基づき、競争法上のクリアランスが出されたということが後日発覚した場合、60,000~6百万レアルの罰金が科せらるとともに、これに関与した当事者への調査が開始されることになるであろう。
II – 実務の概要
(1) 所要期間
2013年、CADEは比較的単純な事案に対しては平均して18日でその調査・レビューを終えている。これに対し、複雑な案件については、34日から217日でその調査・レビューを終えている。
(2) Merger Control Agreement
届出をした後、CADEより、Merger Control Agreement等の交渉がCADE(またはGeneral Superintendency – GS)よりもちかけられることがある。新競争法施行より、2014年5月までの間に、4つの案件がMerger Control Agreementの締結を条件に許可された。そのうち、二つの案件について、経過とともに紹介しよう。
最初の案件は、Ahlstrom CorporationとMunksjöとの案件(製紙分野)である。2013年4月26日、GSは、Administrative Tribunal for Economic Defenceに対し、Merger Control Agreement締結の条件を付けるべきとの意見を提示し、翌月5月22日、Tribunalはこの意見を受け入れた。
二つ目の案件は、Syniverse Holdings, Inc.によるWP Roaming III Sárlの買収(データ・エクスチェンジ市場分野)である。2013年3月3日、GSが意見を出し、翌々月5月22日、Tribunalはこの意見を受け入れた。
(3) ガンジャンピング
(スタートの前に飛び出してしまうという)フライングの意味をとるガンジャンピングだが、競争法との関連では、競争法上のクリアランスを取る前に企業結合が生じてしまっていることを意味し、競争法違反とされてしまう。たとえば、企業結合前にデューデリジェンスを行うことがあるが、それによる情報交換が競争法上の禁止する価格カルテル等価格に関する合意またはそれに類する行為としてとられてしまうことがあるというこである。
2013年8月に、CADEが判断した最初のガンジャンピングに関する事案が、OGX Petróleo e Gás SAとPetróleo Brasileiro S/A – Petrobrasの案件である、OGXはこの案件により、3百万レアルの罰金を支払っている。