ブラジル – 法規範の序列

ブラジルの法規範の序列は、(1)憲法・(2)補則法(lei complementar)・(3)普通法(lei ordinária)の順序である(憲法59条)。

  • 憲法修正のためには、両院での審議・表決により、5分の3の賛成が必要(憲法第60条第2項)
  • 補則法改正のためには、両院の出席議員にかかわらず、総議員数の過半数の賛成が必要(第69条)
  • 普通法改正のためには、議員の過半数の出席と出席議員の過半数の賛成が必要(第49条)

憲法上法律には一種類しかない日本と異なり、ブラジルでは法律に二種類があることに注意が必要である。

また、日本上、憲法および法律の改正手続は以下のとおりである。

  • 憲法改正には、両院の総議員の3分の2以上の賛成に加え、国民投票が必要(第96条)
  • 法改正には、原則として、両院での3分の1以上の出席で、出席議員の過半数の賛成が必要(第56条)
    • なお、衆議院で可決し、参議院で否決された場合、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で可決した場合も可能(第59条)

 

ブラジル – 環境法…はじめに

ブラジル環境法は、1960年代から1970年代にその規制が始まり、本格的な規制としては、1980年代に始まった。

これに対し、日本は、1949年ころの東京都公害防止条例をはじめとして、各自治体の条例作りが先行していたところ、国としては、1950年代ころの水俣病等の公害発生の対策を主な目標とした規制として、1960年代ころ以降より、公害対策基本法等いわゆる環境法を制定してきた(そういうこともあり、当初は生活の質の向上を目標とするよりは、むしろ健康に害が及ばないようにするといった視点に重きを置かれていた。)。

 

I – はじめに

環境法の検討においては、連邦・州・市区町村の各3レベルを考えなければならないということは忘れてはならないものの、1981年法6938号がその中心である。この法においては、環境問題に関する民事責任における、無過失責任および因果関係の拡大(直接・間接損害)という点に注意する必要がある。

また、環境法においては、民事責任のみならず、刑事責任、行政上の責任も問題となる。行政上の責任を考えるにあたっては、各種ライセンスとの関連も忘れてはならない。

加えて、ブラジルの環境法といった場合の面白い側面として、排出取引(Carbon emission trading)の問題がある。京都議定書により、締結国のうち一定の国間では、炭素クレジット(Carbon Credit)を取引することが認められている。炭素クレジットには4種類あり、初期割当量(Assigned Amount Unit)、各国が吸収源活動で得た吸収量(Removal Unit)、クリーン開発メカニズム事業で得られた認証排出削減量(Certified Emission Reductions)、共同実施事業によって得られた排出削減ユニット(Emisssion Reduction Unit)に分けられている。ブラジルには現在のところ、数値目標は課せられていないが、この排出権をめぐっての取引やその検討はかなり盛んである。

 

II – 法規制の概要

ブラジル憲法第225条は、環境を国民共通の資産として、良質な生活を送るため不可欠なものとし、当局等にこれを保護する義務を課している。

また、前記1981年法は、国の環境政策(National Environmental Policy)を組成し、このNational Environmental Policyの主な目的は、環境保護および生活の質の回復(ここでは環境に直接関連するものを指している)、加えて、社会経済の発展としている。

環境改善義務、環境に対する損害賠償義務、Natural resourcesの利用に関する利用料支払義務等といった重要な義務も同法により定められている。これら義務に対する考え方は、ブラジル環境法上の他の重要な原理・原則にもあらわれている。汚染者賠償・使用者賠償の原則もその一つだ(これは、他の環境法規である1998年法9605号(環境刑事法)や2009年法12187号(環境変化に関する国家政策法)にもあらわれている)。

これに対し、社会経済の発展という側面は、自然保護に関する経済的インセンティブを定めた2006年法11428号にも現れている。

 

III – 監督官庁

前記1981年法は、連邦・州・市区町村レベル全てに関連し、環境保護を促進する組織(National Environmental System – Sistema Nacional do Meio Ambiente or SISNAMA)も規定している。これにより、(1)上位機関であるConselho de Governo、(2)環境に関する意思決定機関であるConselho Nacional do Meio Ambiente or CONAMA、(3)中心機関であるMinistério do Meio Ambiente or MMA、(4)執行機関であるInstituto Brasileiro do Meio Ambiente e do Recursos Naturais or IBAMAおよびInstituto Chico Mendes de Conservação da Biodiversidade or ICMBioならびに(5)その他下位組織という構成が組み立てられている。

(1)は法令上規定されており、大統領へのアドバイザーとしての役割を果たすものとされているが、その役割はほとんど機能しておらず、(2)CONAMAが実質上もっとも重要な機関である。CONAMAが制定する決議は、環境法の実務を動かす重要な決定である。例えば、1986年CONAMA決議第1号1997年CONAMA決議第237号は、その重要な決定のなかでも取り上げるべき重要ものであろう。

(3)MMAは、環境政策の計画、調整および監督に尽力する機関である。(4)IBAMAは自然資源の安定的利用および保護に関する計画の執行に関する機関であり、ICMBioは2007年法11516号により設立された組織であり一定の保護区域に関する事項を執行する。

ブラジル – 2016年経済の見通し(2)

2016年1月20日、ブラジル経済の見通しについて、聞いてきたお話を紹介した。ここでまた、本日4月18日新たな情報のインプットを得たので、ここで改めて紹介したい。

I – ブラジル罷免の手続きと今後

ここでは、まず、ブラジル経済の見通しに大きく影響を与えることとなる、ルセフ大統領(Dilma Rousseff)の罷免(impeachment)のプロセスについて、再度、(自分のブログからの転載だが)掲載しつつ、2016年4月18日現時点の情報を整理しつつ、適宜訂正を加えておくこととしよう。

ルセフ大統領の辞任や罷免はほとんどありえないと言われているのが現状(注:1月20日時点の情報であった。4月17日の下院本会議での罷免決議が可決された現在、その可能性はかなり高まっているといえよう。)である。罷免のプロセスは以下のとおりである。

  • クーニャ下院議員が財政責任法違反を理由として罷免請求を受け入れ(2015年12月)
  • 下院特別委員会での審議(16年2月~3月ころを予定
  • 下院本会議で罷免の是非議決(16年34月17日ころかと言われる
    • これにて3分の2未満の賛成しか得られなかった場合、罷免は回避される
    • これにて3分の2以上の賛成が得られた場合、以下のプロセスが続行される
  • 上院で罷免の是非議決(16年3月ころかとも言われる5月10日~11日ころ予定
    • これにて半分以下の賛成しか得られなかった場合、罷免は回避される
      • しかし、現在口頭選挙裁判所が2014年大統領選挙での違反の有無を判断しており、(仮に罷免の是非議決において半分以下の賛成しか得られなかったとしても、)これに違反があったとされれば、90日以内に再選挙がなされ、ルーラ前大統領、シルバ元環境相、ネーベス上院議員の争いがなされるものと予想されている。
    • これにて過半数の賛成が得られた場合、ルセフ大統領の180日間職務執行停止(テメル副大統領による代行が開始される)がなされたうえ、以下のプロセスが続行される
  • 上院本会議で罷免の是非議決(遅くとも2016年9月ころ?とも言われる11月ころと言われる
    • これにて3分の2未満の賛成しか得られなかった場合、罷免は回避され、上記執行停止は解除される
    • これにて3分の2以上の賛成が得られた場合、テメル大統領代行が大統領に就任し、ルセフ大統領は8年間公民権を停止されることとなる。

また、ここで改めて、ブラジルの政党についても整理を加えておこう。かっこ内の数字は2014年10月総選挙結果の議員数を示す。

  • 下院(Câmara dos Deputados:513-州等行政単位による比例代表制(非拘束名簿式)による選出)
    • 与党連合 - 人民の力と共に
      • PT(労働者党:70)
      • PMDB(ブラジル民主運動党:66)
      • PSD(社会民主党:37)
      • PP(進歩党:36)
      • PR(共和党:34)
      • PRB(ブラジル共和党:21)
      • PDT(民主労働党:19)
      • PCdoB(ブラジルの共産党:10)
    • 野党連合その1 - ブラジルのための団結
      • PSB(ブラジル社会党:34)
      • PPS(社会人民党:10)
      • PHS(人権連帯党:5)
      • PRP(進歩共和等党:3)
      • PSL(社会自由党:1)
    • 野党連合その2 - ブラジルに変革を
      • PSDB(ブラジル社会民主党:54)
      • PTB(ブラジル労働党:25)
      • DEM(民主党:22)
      • SD(連帯党:15)
      • PTN(国家労働党:4)
      • PMN(国民動員党:1)
    • その他
      • PSC(基教社会党:12)
      • PV(緑の党:8)
      • PSOL(社会自由党:5)
      • PSDC(基教社民党:2)
      • PRTB(ブラジル労働改革党:1)
  • 上院(Senado Federal:81-各州等より3人ごと(26州+特別区)の選出)
    • 現状2014年10月の総選挙を踏まえた結果から、与党連合が下院と同じく多数となっており、いわゆるねじれ現象は生じていない。

II – 経済の見通し

上記政局変化を受け(すなわち、罷免がほぼ確実視されるようになってきたことを受け)、経済の見通しも明るくなってきているものと見る見方が通常とのこと。7月~11月に罷免が正式に決定し、テメル副大統領が大統領に就任。その後景気もV字回復となるのではないかとの見通しが強い。為替レンジは2.9~4.2レアル/ドル(年末は3.0レアル/ドル)、株価は37500~70000ポイント、とまで言われている。

ただ、何が起こるのかわからないのがブラジル。まだ、最高選挙裁判所(TSE)による選挙無効・再選挙の決定の可能性もゼロではないし、上院で罷免が否決される可能性もゼロではない・・・(限りなくゼロに近いと信じたいが・・・)

日本 – 保険業法:保険商品開発(そして、ブラジル…)

日本の生命保険会社が、保険新商品を日本で販売するに当たって、留意すべき法的規制には何があるか?

関連する法令:保険法・保険業法・消費者契約法

日本の生命保険会社(業法第3条第4項)となるためには、以下の書類を免許申請時に提出しなければならない(業法第4条)。そして、一般的にこれら書類の記載事項につき変更が生じた場合には、新たに認可の取得(法第123条第1項)またはあらかじめの届出(同第2項)をしなければならない。

  1. 免許申請書(商号、資本金の額、取締役及び監査役等の指名等記載)
  2. 定款
  3. 事業方法書
  4. 普通保険約款
  5. 保険料及び責任準備金の算出方法書

なお、ここでいう普通保険約款には、以下の事項を記載しなければならない。

  1. 保険金の支払事由
  2. 保険契約の無効原因
  3. 保険者としての保険契約に基づく義務を免れるべき事由
  4. 保険者としての義務の範囲を定める方法及び履行の時期
  5. 保険契約者又は被保険者が保険約款に基づく義務の不履行のために受けるべき不利益
  6. 保険契約の全部又は一部の解除の原因及び当該解除の場合における当事者の有する権利及び義務
  7. 契約者配当(法第百十四条第一項 に規定する契約者配当をいう。)又は社員に対する剰余金の分配を受ける権利を有する者がいる場合においては、その権利の範囲

なお、これに対し、ブラジルではほぼすべての場合において許可取得の対象となるといい、ブラジル人弁護士によれば、この規制は各国を比べてみても厳しい規制と言われるものの、さほど日本との大きな差はあるように思われない。ブラジル規制当局が、demandingであり、また、bureaucraticであることを除けば…。

雑感 – 一人のブラジル人弁護士・一人のアルゼンチン人弁護士

最近、サンパウロにて、それぞれ別個に話す機会を持った。

一人を見て、全体を把握しようとするのは、非常に危険な考え方で、私自身は好まず、今回の掲載も「ブラジル人弁護士とは」「アルゼンチン人弁護士とは」といったことを述べる意図は全くない。ただ、そのうちのこういう人に出会ったという記録と記憶は私個人として残しておきたいということもあり、ここではそれぞれをブラジル人弁護士(「B」)・アルゼンチン人弁護士(「A」)と呼んでいる。

海外にいくと、言葉の壁に悩むことが多いのだが、「これは私だけの問題なのだろうか」また「日本人特有の問題なのだろうか」と考え込むことが多い。ところが、BもAも、ポルトガル語はおろか、英語も相当流暢と来た。しかも、私よりも若い。私は海外に住むこと自体は現在で3年ほどで、英語の苦手意識もだんだん薄れてきたのだが、彼らと話すとまだまだ不足しており、ポルトガル語はもちろんのこと、英語も日々トレーニングしなければならないという思いに至る。

まだまだ満足のいくレベルに達していない私の英語力。日本語に引きづられて、母音の発音が強く出てしまい、アクセントの強弱もおかしかったりすることがある。知らない分野のことや予想外の質問を受け、焦って話した場合、単語ばかり先走ってしまい、文法が崩れてしまう。彼らとの違いを認識しながら、自分の英語力をどうやって引き上げられるのか考えてみる。

結論からすると、引き続きトレーニングし続けるほかはないのだが、良質の英語を大量に読み聞くというに尽きるような気がする。ということで、TEDBBC(ポルトガル語)を頑張って読み聞きしていこうと決意を新たにしたのであった。

弁護士間の国際競争の時代が近いうちにやってくる。日本法の資格やNY州法の資格やブラジル法(正確にいうとブラジルも州ごと)の資格といった違いではなく、国や資格を超えて、弁護士として、リーガルマインドを持つものとして、説得力という能力を競う時代が近いうちにやってくるのではないかと思うのだ。日本人として、日本法弁護士として、私はクライアントを一歩でも楽に前に進める優れたリーガル・サービス・プロバイダーになりたい。

  • B

ブラジル人弁護士(「B」)との弁護士のつきあいのはじまりは、とあるM&A案件である。Bは、コーポレートを専門とする弁護士で、日本プラクティスにも携わる。買収候補者である日本企業にアドバイスすることも多いBは、1年ほどの海外留学経験があり、日本での勤務経験もあり、多少の日本語が話せるうえ、英語は非常に流暢だ。20歳のころから、企業法務を営む大手法律事務所でインターンとして働き始めた彼は、2016年現在すでに10年のキャリアを持つ中堅・シニアアソシエイトであり、そこそこの規模のM&A案件であれば、彼が中心となって案件をハンドリングする。クライアントとの会議(ポルトガル語であっても、英語であっても)も、彼が、基本的に、議事進行を努め、クライアントの意図を汲み、事情を把握、分析していく。また、必要に応じて、パートナーの承諾を得ながら、事務所のリソース(他チームのアソシエイト等)を使いながら、クライアントのニーズに応えていく。

ブラジルの企業法務で、特徴的と感じたのは、各弁護士が、日本とは違って、高度に専門化されているということだ。コーポレートチームの弁護士は、コーポレートのことを中心に担当するということもあり、労務等ほかの問題が関連する場合は当該分野を専門とする弁護士のサポートが必要となる。もちろん、M&Aの場合は、コーポレートが中心的な問題点となるが、それだけでなく、労務・税務・環境等が入れ混じり問題となることも多いところ、(基本的には、労務弁護士等ではなく)コーポレート弁護士がある種の窓口担当者として問題点を整理し、クライアントに有益な情報を提供する。具体的にいえば、M&Aの案件において、コーポレート弁護士が詳しくない内容に関する会議であっても、会議中議事を進行し、法的用語を噛み砕く形でクライアントの理解をサポートする。

Bは、仕事が正確だ。正確なゆえに、機械的な処理なように感じることもある。たとえば、以前、クライアントが、ブラジルにおけるM&Aの複数スキームの違いについて、質問に来たことがあった。いずれのスキームもブラジルではよくある類型であるが、クライアントとしては、それぞれのタイプのメリット・デメリットを詳しく検討したいようであった。これに対し、Bは、「多少の違いはあるが、それぞれのメリット・デメリットについても、結局は買収の際の契約に手当てにおいて相当のカバーが出来、(この案件ではこちらのスキームを選ばなければならないといった)特筆すべきような違いはない」といった話に終始していたように思える。このとき、クライアントは、言葉としては「Understood」と言っていたが、表情から察するに腑に落ちていないように思えた(これではどちらのスキームにするのか彼で決められないといった表情)。結局、その会議後では、当該案件に即した形で、メリット・デメリットを記載するメモを作成するということで落ち着いたのだが、もう少し丁寧な接し方があってもよかったのではないかと思う。

とはいいつつも、彼の英語の説明・事情確認は丁寧だ。クライアントの英語がわからないと、かならず聞き返す。それも「What?」といった形ではなく、「ここまではこう理解したが、ここからが分からなかった。」という形だ。相手の言っていることの、自分の理解の確認。この作業を怠らないというのは大変勉強になる姿勢だった。自分よりも若いBだが、学ぶべきところは非常に多い。

  • A

Aは、アルゼンチンでは比較的大手の法律事務所に勤めるキャピタル・マーケッツを専門とする弁護士だ。年齢は分からないが、まだ独身で、エネルギッシュさ・フレッシュさを感じるのは、私が二児の父だからだろうか。彼は、サンパウロに来てから1ヶ月も経っていないという、それにもかかわらず、(母語でない)ポルトガル語で自己紹介が出来、ポルトガル語で自国の法制度等について説明ができる。

私はこれを見て衝撃を受けた。私などもう数ヶ月もブラジルにいるが、いまだにポルトガル語には悩まされることが多い。彼は、まだ数週間である。それなのに、あっという間に追い抜かれ、その差は明白である。私などは、レストランで決められないとき、「Ainda não decidí. Você pode recomendar alguma coisa?」とおすすめを聞くこと自体は出来る。しかし、これに対する返事が聞き取れないことが非常に多く、四苦八苦である。自国の法制度の説明も、必死で準備すれば、ポルトガル語である程度は話せるかもしれないが、質疑応答などは不可能だ。彼はこれをこなした。彼の母語であるスペイン語がポルトガル語に非常に近いというのもその理由にあるだろうが、非常に刺激を受けた。1ヶ月もあれば、母語以外の言語でプレゼンテーションが出来る力を身に付ける者もこの地球上にはいるのだ。

頑張ろう。