Latin America – M&A の状況 (2017年を振り返る)・M&A王者の法律事務所はどこか?

ブラジル大統領選挙を踏まえ、いささか動きが鈍いブラジルのM&Aリーガル状況を含む、ラテンアメリカのM&Aの状況について触れてみる。なお、本稿における事実関係については、Latin Lawyerの第2四半期のレポート(こちらから入手可能)に専ら依拠している。

ラテンアメリカのM&Aの規模でいうと、2017年でいうと、おおよそ年間130十億米ドル規模であり、その半分がブラジル関連である(Latin Lawyer Special Reportによる)。なお、全世界でいうと、Thomson Reutersの記事によると、(年間ではなく)2018年上半期で、2.5兆米ドル規模である。

Latin AmericaのM&Aのリーガル・アドバイザーを見ていると、1つ・2つのM&Aチャンピオン法律事務所とでもいうべき事務所が存在する。アルゼンチンでいうとMarval O’Farrell & MairalかBruchou Fernández Madero & Lombardi、ブラジルでいうとMattos Filho Veiga Filho Marrey Jr e Quiroga Advogadosか(最近若干2番手というイメージが強くなっているが、依然として日本企業に対するプレゼンスでは非常に強い) Pinheiro Neto、チリでいうとCarey、コロンビアでいうとBrigard & Urrutia、メキシコでいうとCreel García-Cuéllar Aiza y Enríquez、ペルーでいうとRodrigo Elías & Medrano Abogadosということになろう。これら法律事務所はいずれも外資系ではなく、国内独立系の法律事務所である。また、上記で挙げた法律事務所のM&Aにおけるリーガル・サービスが絶対No.1と言いきるつもりはないが、これら事務所は各法域においてM&Aの法分野における確固たる名声をいずれも築きつつある状況である。

なお、Latin Lawyerの確認した1000超の2017年のM&A取引において、外資系法律事務所の関与はおおよそ5分の1程度とされているものの、注意すべきは大型案件の多くにおいてそれらの関与が見られる点である。500百万米ドル超の大型案件においてはおおよそその73%において、外資系法律事務所が関与しているというのであるから驚きである。効率がよい営業活動をしているのか…。日本の法律事務所が、クロス・ボーダーM&A分野において、外資系法律事務所と闘っているのと、あわせてブラジルの法律事務所が、外資系法律事務所と闘っているのを見るのは参考になる。

 

 

 

 

ブラジル – 弁護士試験の内容(択一)

OAB(Ordem dos Advogados do Brasil)という機関が試験問題を作成し、弁護士となるための試験を運営している。弁護士となるためにはという一般論についてはこちら、また2016年初頭の弁護士状況についてはこちらで記載してきたが、ここでは、当該弁護士試験の内容の一部を紹介してみる。

なお、現行の法制度上、ブラジル法上の弁護士となるためには、ブラジルのロースクールに原則として5年間通学しなければならないことから、日本人弁護士が、日本の大学等を卒業した後、司法試験・司法修習をクリアした後に、ブラジルのロースクールに更に5年通学し、ここでの資格を取るのは、通常のキャリアに照らしてなかなか難しいといえるだろう。

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ブラジル – サンパウロ連邦州裁判所(連邦刑事・連邦民事)

さてさて、あまり企業法務と関係ないところだが、連邦刑事裁判と社会保障裁判を見学しに連邦州裁判所の見学をしてきた。Rua Ministro Rocha Azevedo 25にある連邦州裁判所だ。パウリスタ大通りに近いこの裁判所は、入り口が狭く、裁判所らしからぬ入り口と外見は窓がほとんど見当たらずコンクリートの塊のような建物である(10階までが連邦刑事で、11階から15階までが連邦民事で社会保障を取り扱う部署が含まれていた)。なお、社会保障裁判の制度については、こちらが日本語で書いてある文献としては比較的詳しい(Web上に公開されている書籍が、ページの順番が乱れていた…)。

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ブラジル – 消費者保護法制

2016年7月現在のブラジルは景気が悪い。しかし、日本の2倍近い人口、今後も見込まれる人口増大、購買力の強い中間層人口増への期待等から、ブラジルでの市場を期待する企業も少なくはなく、またいまも市場開拓に向けて日々行動を実施されている企業の皆様も多い。という皆様のお役に立てればということで、現在調べたところによる、ブラジルにおける製造物責任について説明をする。

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ブラジル – 認証不要条約への加盟(2016年8月より発効)

ブラジルは、2015年12月2日に「外国公文書の認証を不要とするハーグ条約」(認証不要条約)に111カ国目として加盟し、これにより、ブラジル連邦政府は2016年Decree第8660号を制定した。認証不要条約は、ブラジルに対し、2016年8月14日より効力を生じることとなる。今回は、この認証不要条約によりどのように実務に影響が出るかについて、記載したいと思う。

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ブラジル – ブラジルの裁判官・検察官

ブラジル法の弁護士になるための流れについては、こちら

ここでは、ブラジルでの裁判官・検察官のキャリアについて記載したいと思うが、その前に、「法曹一元」という言葉について説明をしておきたい。

I – 法曹一元

法曹一元とは、端的に言ってしまえば、弁護士経験者から裁判官・検察官を任用する制度、または弁護士に限らずそれに付随する法曹経験者から裁判官・検察官を任用する制度をいう。法曹一元は、在野法曹(もっぱら弁護士)が司法運営に責任を持つ(裁判官キャリアの一つ)ということが明確になり、円滑で能率的な司法運営が期待できるという点が長所として挙げられている。加えて、弁護士は、国民とより直接のつながりを持っており、裁判官を国民的基盤に基づいて任用することで、司法部の魅力が高まるとも言われている。


日本(大陸法系の国のひとつ)では、法曹一元(司法に携わる弁護士・裁判官・検察官の法理解)が、現在のところ、大学および/または法科大学院(日本版ロースクール)での法学部教育に加え、司法試験ならびに司法試験合格後の司法修習といったところで一部実現されている。なお、いわゆる純粋な法曹一元制は、英米法系(コモン・ロー)の国々で採用されており、大陸法系(シビル・ロー)の国々では、キャリア裁判官・キャリア検察官として弁護士経験を必要とせず、直ちに、裁判官・検察官に任用されるキャリア制度がとられていると言われている。

この点、日本は、(敗戦後、米国法の影響を強く受け、)裁判所法第42条第1項により、判事の資格は、10年以上の法曹・法律学者としての経験が必要とし、法曹一元を前提としているような規定ぶりを置くものの、同時に、裁判所法第43条は司法修習を修了したものから直ちに判事補を採用することができるとし、10年判事補として経験を積んだ者も判事の資格を有するとし、こちらのルートから判事になる者がほとんどであり、実質キャリア制度を採用しているといえる現状である。1988年に、弁護士任官制度が導入されたものの、実施件数は非常に少なく、2016年現在のところ、裁判官の人数の割合にし、数%にも満たない数字である。また、判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律に基づき、判事補及び検事が、在野に2年ほど出向し、弁護士として業務を営むという制度があり、法律事務所のみならず、一部企業がこれを受け入れるという体制が出来つつある。


 

II – ブラジルでの裁判官・検察官

ブラジルで裁判官・検察官になるためには、ブラジル法の弁護士となるためと同様、ブラジル国内の認められたロースクールを卒業する必要がある。もっとも、ブラジルには、法曹一元という制度がロースクール制度(5年間のロースクール)限りで担保されているに過ぎず、その余は、別個の試験を受ける必要がある(裁判官になるための試験と検察官になる試験は別個であり、これらを受けるためにも弁護士のための試験(いわゆる司法試験)の合格は必要条件ではない)。これら個別の試験に合格すること、所定の要件、例えば、裁判官の場合は数年以上の法律関連の業務に携わることが、ブラジルで裁判官や検察官になるために必要となってくる。

この点、ブラジルでは、一般的に公務員の給料は、民間のそれと比べて格段に良い。弁護士事務所と比べても良いといえよう。伝え聞いたところで、正確性には担保できないものの、裁判官の初任給で20,000レアル/月を超える金額をもらえるということを伺った(これは、時点がクリアでないので、比較の対象として正しいかどうかもよくわからないのだが、シニアの弁護士での月額の売上にも相当する!ブラジルでのシニアの弁護士での売上等についてはこちらで以前触れた)。また、何よりも、ブラジルでは、公務員に対する年金が非常に手厚いということも触れておこう(以前勤務していたときの給料と同額程度を死ぬまでもらえる、そしてその配偶者は仮に当該裁判官が先に死亡した場合にはその配偶者が死ぬまでその金銭を受領する権利は続くといったようなことを、ブラジル人裁判官より伺った・・・)。

これに対し、日本の裁判官の給料はさして飛びぬけてよいものではない。Wikipediaからの表の抜粋となり、申し訳ないが、(見やすいということもあり)ここで紹介しておく。

Judge Japan

初任の裁判官は、判事補12号として、そのキャリア(月額22万8700円)をスタートさせ、勤続10年で判事8号(月額52万6000円)となるのが一般的である。もちろん、日本の裁判官に対しては、福利厚生も手厚いと伺っており、その細かな内容については、しがない弁護士では知ることもないのだが、ブラジルのように飛びぬけて手厚い保護を受けているようではないように見受けられる。

また、ブラジルでは、一人の裁判官が非常に多数の裁判を抱えているということも珍しくなく、数千件単位で事件を抱えている。それを処理していくため、裁判官一人に対し、多くのスタッフ(20名を超えるような)が割かれているということも付け加えておこう。

同じ裁判官といっても、国を超えると状況も全然異なるようだ。ブラジル・日本の弁護士の差よりもその差は大きいような気がする。

ブラジル – 弁護士事情・州ごとの人数(2016年)

ブラジルの弁護士には、OAB(Ordem dos Advogados do Brasil)という監督官庁がいる。

  • なお、2011年10月26日のブラジル連邦最高裁において、同弁護士会が実施する弁護士資格試験が有効である旨の判断が下されている。これは、法学士のジョアン・ボランチ(João Volante)氏が、OABの試験に合格しなくても弁護士活動ができるべきとして、憲法の保障する職業選択の自由に反する旨主張し、訴訟を提起したものに対する判断だ。

ということで、OABによる司法試験が行われているのであるが、OABのウェブサイトに各州の登録人数が記載されており、同サイトによれば、2016年5月23日時点の各州の弁護士人数は以下のとおりである。現在ブラジル全土で97万6297人であり、サンパウロ州では30万人弱である。

  • なお、一部マニアのひとしか興味がないだろうが、1933年から1970年のブラジル弁護士の人数は以下のとおりである。1970年時点で、日本の近年2015年に相当するほどの弁護士数をかかえていることにも驚きだが、そこから、2016年の46年ほどで20倍以上にも人数が膨れ上がっていることにより大きな驚きがある。
    • 1933年:6796
    • 1934年:8161
    • 1942年:13000
    • 1950年:15566
    • 1960年:30066
    • 1970年:37719

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上記表下部に記載されているとおり、上記ウェブサイト上の表は毎日午前0時1分に更新される。

ブラジル – ブラジル国内弁護士模様

以前、「どうやってブラジル国法の弁護士になれるのか」ということについて記した。その際に、2016年時点でブラジル全土の弁護士数は80万人以上か?といったことを記した。4万人と言われる日本人弁護士と比べて

さてさて、今回は、ブラジル国内弁護士全体に関する情報を記載しておこう。

とあるブラジル人弁護士のブログ(2014年11月ころの掲載)によれば、2014年時点で、83万5千人ほどの弁護士が存在し、2018年には、100万人にも到達するといわれている。

この増加の最大の原因は、ロースクールの増加と言われている。

ブラジルでのロースクールの増加は、おおよそ1995年ころに始まったといわれている。1995年には全国で165ものロースクールがあったに過ぎなかったが、2001年には505ものロースクール、2014年には1284ものロースクールが設立されており、その増加はこの15年でおおよそ8倍近くにもなる(ブラジル国内人口はおおよそ2億人である)。その1284校という数がいかなるロースクールの乱立状況かというのは以下の数字と比べてもご理解いただけるだろう。

  • 米国:203ロースクール・人口3.1億人(2015年時点)
  • 日本:45ロースクール・人口1.2億人(2016年時点)

これをふまえておおよその数字につき、おおよそ28万人の新ロースクール生がブラジルでは誕生する。そして、毎年おおよそ12万5千人ほどが司法試験を受験している。(なお、この入学者数と司法試験受験者数の差異は、途中でドロップアウトする学生や司法試験受験の要件を満たせない学生が存在するためである)

そして、合格率が11%から30%の間の司法試験を年に2回受けるのであるから、年に新人弁護士は2万人ほどもしくはそれを大きく超えた人数誕生するということになる。これに対し、日本では年間おおよそ2千人ほど司法試験に合格し、2000人弱ほどの新人弁護士が誕生するのがここ最近4-5年のトレンドである。この2000人弱ほどであっても、法律家の需要が少ないと言われているのが、日本の弁護士市場である。

もっとも、ブラジルでは、そのようなことはさほど大きく聞かない。2015年・2016年・2017年と(人によっては30年来の大不況と言うほどの)大不況が来ているにもかかわらずだ。弁護士の人数を減らそうといった話はまるで聞かず、また、ブラジル国内の大手法律事務所は(一部例外はあるものの)年々その規模を大きくしている。

これはひとえに、ブラジルと日本国内の法曹需要の違い(訴訟の件数・本人訴訟の件数・法制度の多様・連邦制)といったところが大きい原因かとは思うのだが、それだけでは説明できないほどの差であり、今後も考えて生きたいと思う。それが、日本での法曹需要の拡大の何らかのきっかけになるかもしれない。日本社会のどこかで法律家を必要としているものがあり、それはいまは単に僕らの目に触れていないだけなのかもしれない、または眠っているだけなのかもしれないのだから。

 

ブラジル – ブラジル人弁護士の会議に関する雑感

ブラジルに来て早くもいくばくかが過ぎた。日本で弁護士業務を営んでいたころに比べて、M&Aに特化する形で数多くのミーティングに参加してきたが、日本の弁護士群と比べて、ミーティングの進め方に違いがあるような気がする。自分自身はブラジル人弁護士でもないし、数十年にわたって経験しているわけでもない。また、会議の進め方は案件によりも異なるし、弁護士またはそのクライアントの個性やその状況により進め方が異なるが、自分が感じ取った一般化できる限りの雑感ということで、ここに記録を残しておきたいと思う。

(1) 会議が時間どおり始まらない

ブラジル人弁護士とよく話していることのひとつなのだが、「例えば『午後2時から、○○の案件で、会議を行う』といったらば、午後2時ちょうどには会議室に全員そろっており、議題について会話可能であることを、日本人側は期待していることが多い(もちろん、ラテン・アメリカ文化に理解のある日本人やその個性上時間にルーズな日本人は例外として…)」と口をすっぱく伝えている。としても、なかなか時間どおりに始まらない、集まらない。

前の会議が押している、サンパウロの交通渋滞がひどい等理由はあるものの、ブラジル人側の時間に対する意識はかなり違うというところを日本人側も理解しておいたほうが、スムーズに会議が始められると思う。なお、クライアントとの会議でこれだから、内部での会議は…と思ってもらいたいところである…。ブラジル企業に出向される日本人駐在員の苦労は計り知れない。

時間にルーズな例をほかに挙げるとしたら、パーティの場合もだ。友人のホームパーティ(開催場所は同友人宅)に呼ばれ、午後6時スタートだからといって、午後6時に行ったら、自分しかいないなんてことは日常茶飯事だ。だいたい午後7時から8時ころにようやく全員がそろう。乾杯の挨拶なんて得にない。だらだらと始まり、いつの間にか盛り上がってきたなと思ったら、もうそろそろ一部のひとは帰り支度を始める。全員がそろう瞬間はあるにせよ、全員の集合を待ってから「いただきます」なんてことはない。

(2) 会議が始まっても、議題にいきなり飛びつくことはほとんどない

日本人同士の会議であっても、「先週どうだった?」とか「昨日の台風はひどかったね?」とかを会議の皆が集まり始める前に多少話すことはある。しかし、これに比べ、ブラジル人はそのような会議まえふりの話を長らくすることが多いように思う。会議開始時点で、全員がそろっていないこともその要因なのだが、議題の前に「議題に近い内容の一般的なこと」をカジュアルトークベースで話し合ったりもする。

(3) 終わりは比較的時間どおり

上記のとおり、パーティだとだらだら続くことが多いのだが、ビジネスの会議については、比較的時間どおりに終わることが多いように思う…。ならば、会議時間はそもそももっと短くてすんだのではないかと後から思うことも多々あるが、その旨話すと、「スムーズに終わって、いい会議だったね。」という返答が来る。こういう流儀なのだろうと思うしかない。

(4) 会議の進め方はディスカッションのような感じで進むことが…

大手法律事務所におけるブラジル人弁護士は各分野の専門家であることがほとんどだ。Aさんは労働法、Bさんは税法、Cさんは会社法といった形で会議に登場してくる。分野が横断する場合、クライアント・Aさんといった会話ではなく、Aさん・Bさん・Cさんの間で急に議論が始まったりもする。日本人の感覚からすると、誰が交通整理をするのか事前に決めておいてもらいたいと思うところがあるが、彼らからすると、会議での新規事実のインプットもあるし、ニュアンスも正確に伝えられるという思いがあるという。

ディスカッション形式だと、何が結論なのか、会議の結論が見えづらいことも多くあり、他方各種論点がいくつかあるということも分かりやすい。しかし、「次なる一手」に関する専門家アドバイスを求め、その専門家アドバイスを(鵜呑みにしているというではないが、専門家アドバイスを重要視するという意味で)鵜呑みに「しがち」な日系企業に対してはあまり得策ではないような気がしている。これに対し、欧米企業はディスカッションを行っている際にも、ぐいぐい割り込んでくる。ビジネス上の背景や案件担当者の思いというものをぐいぐいぶち込んでくるため、綺麗に会議が進み、弁護士側・クライアント側の役割分担が綺麗に見えてくることも多い。

日系企業側も専門家アドバイスをその言葉を慎重に検討し、その場で反応できる柔軟性をもった担当者を、ブラジル弁護士と当てることで、よりよい効率的な会議ができるように思う。会議は報告会ではなく、ディスカッションの舞台であることが多いということを念頭において。

 

ブラジル – 法体制(3)・司法制度概要

ブラジル – 法体制(1)・シビルロー・三権分立はこちら。なお、(2)・公証はこちら

今回は、政府の三権のうち、弁護士や法律家にとってなじみの深い司法権について触れてみたいと思う。

I – 概要(以前のお話の続きとして)

以前(1)・シビルロー・三権分立において、ブラジルには三権分立がある旨説明した(憲法第2条参照)。ここでは、その三権のうちの司法権について触れることとしたい。

司法は、三権分立がある以上当然なのだが、行政府・立法負より独立している。また、この司法は、連邦裁判所・特別裁判所(労働・選挙・軍事)に分かれる。

これらのエリアにおいて、(二種類という意味ではなく、概念として)それぞれ上級裁判所・下級裁判所というものが存在する。通常裁判を起こす場合は、下級裁判所に対し手続を開始することになる。下級裁判所の手続や判断に不服がある場合は、上級裁判所に申し立てることになる。この点、日本でも、制度面では、最高裁判所の裁判官と下級裁判所の裁判官に分けられているというのでは同様である(日本国憲法第79条・80条参照)。

II – 司法権の概要

上記のとおり、上位・下位等各種の裁判所があるところ、大要以下のような裁判所があることについて触れておこう。

連邦最高裁判所

  • 連邦最高裁判所(Supreme Federal Court – STF “Superior Tribunal Federal”)
    • STFは、司法府の最高機関である。憲法保護をその目的とし、憲法違反に関する訴追機能および司法機能を有する。11名の35歳から65歳の裁判官(Ministro・大臣とも訳すことが可能だが、行政府の大臣との関連性はなく、誤解を招くのを防ぐ趣旨でここでは裁判官と訳す)より構成され、上院の承認後、大統領の指名により選任される。
    • 日本の最高裁判所は、長官については内閣の指名に基づき、天皇が任命し(日本国憲法第6条第2項)、長官以外の裁判官については、内閣により任命される(同第79条第1項)。
    • STFは、大統領・副大統領および国会構成員(閣僚級)に対する訴追手続を取り扱う機関であるとともに、下級裁判所等を監督する任務を有する。
      • 「国会構成員等に関する特権」
        • 2016年ジウマ・ルセフ大統領に対する罷免手続が盛り上がるなか、(ラヴァ・ジャット作戦の対象とされそうとなった)ルーラ前大統領を通常刑事手続より除外し、同氏を保護するという目的のために、ジウマがルーラに対する官房長官への任命を行ったのではないか議論になった。
        • ここでは、さらに、そのようなことを示唆するジウマ・ルーラ間の会話が警察により傍受され、その会話内容が新聞各紙により公表されるという事例があった。
    • 2016年5月現在、最高裁長官はRicardo Lewandowskiである(1948年生まれ現在67歳・USPロースクール卒)。

 

高等裁判所

  • 連邦高等裁判所(STJ “Superior Tribunal de Justiça”)
    • ブラジルにおける連邦法の解釈に関する問題を取り扱う。上院が承認した後に大統領が任命する。
  • 高等労働裁判所(TST “Tribunal Superior do Trabalho”)
  • 高等選挙裁判所(TSE “Tribunal Superior Eleitoral”)
  • 高等軍事裁判所(STM “Superior Tribunal Militar”)
  • 地方裁判所(Justiças Estaduais)

第二審裁判所

  • 地方労働裁判所(TRT “Tribunal Regional do Trabalho”)
  • 地方選挙裁判所(TRE “Tribunal Regional Eleitoral”)
  • 地方連邦裁判所(TRF “Tribunais Regionais Federais”)

第一審裁判所

  • 労働裁判所(Varas do Trabalho)
  • 選挙裁判所(Varas Eleitorais)
  • 連邦裁判所(Varas Federais)