ブラジル – 法律事務所の事情(M&A・企業法務)

私は日本人の日本法資格の弁護士であるが、日本の法律事務所といえば、どこが名が通った法律事務所かある程度の土地勘はある。しかし、これが日本を飛び出るとあまりよくわからなくなる。突然野原に放り出されたかのように分からなくなる。誰を頼っていいのか、頼ってくる日本人がいいのか、聞こえてくる日本語を頼ればいいのか、少しは分かる英語をベースに情報を集めればいいのか。

少なくとも頼りになるのが、ChamberThe Legal 500、そしてLatin Lawyerである。

一般に、ブラジルにて大手法律事務所(海外案件にも対応するいわゆるフルサービスの法律事務所)というと、以下の7法律事務所を指すことが多いように思われる。各大手法律事務所は事務所ごとに採用しているカラー(チームカラー)が異なり、分かりやすいため、下記もその色に分けて記載してみた。また、各法律事務所の右側にパートナーの人数および弁護士人数の総計を記しておくが、2015年時点に調査した情報なので、本ブログ記載時(2016年2月)においてもすでに若干古くなっている情報の可能性がある。ブラジルの法律事務所は、アメリカの法律事務所と同じくして、人材の流動が非常に激しく、パートナーとなってからでも事務所を移転させることがある。

  • BMA – Barbosa, Müssnich, Aragão(パートナー54名・総弁護士数278名)
  • Machado, Meyer, Sendacz e Opice(47名・350名)

  • Mattos Filho, Veiga Filho, Marrey Jr. e Quiroga Advogados(61名・347名)

  • Pinheiro Neto Advogados(85名・361名)

  • Tozzini Freire Advogados(80名・453名)

  • Demarest Advogados(59名・278名)
  • Veirano Advogados(52名・246名)

Chamber(Latin America)にて、Corporate / M&Aの分野で、Band 1とされているのが、以下の法律事務所である。

  • BMA – Barbosa, Müssnich, Aragão
  • Lefosse Advogados
  • Machado, Meyer, Sendacz e Opice

  • Mattos Filho, Veiga Filho, Marrey Jr. e Quiroga Advogados

  • Pinheiro Neto Advogados

  • Souza, Cescon, Barrieu & Flesch Advogados

  • Tozzini Freire Advogados

Legal 500にて、Corporate / M&Aの分野で、Band 1とされているのが、(上記のうちLefosse Advogadosを除いた)以下の法律事務所である。

  • BMA – Barbosa, Müssnich, Aragão
  • Machado, Meyer, Sendacz e Opice

  • Mattos Filho, Veiga Filho, Marrey Jr. e Quiroga Advogados

  • Pinheiro Neto Advogados

  • Souza, Cescon, Barrieu & Flesch Advogados

  • Tozzini Freire Advogados

また、実際の近年のM&Aの取扱いを知るうえでは、Bloomberg Legal ranking 2015の資料が役に立つ。具体的な数値については、上記のリンクより確認してもらうとして、2015年の取扱い件数の順位としては順に以下のとおりである。

  • Pinheiro Neto Advogados
  • Mattos Filho, Veiga Filho, Marrey Jr. e Quiroga Advogados
  • Souza, Cescon, Barrieu & Flesch Advogados
  • Barbosa Mussnich & Aragao
  • Tozzini Freire Advogados
  • Machado, Meyer, Sendacz e Opice
  • Veirano Advogados

加えて、数字上ではなかなか現れないが、日本人対応が可能な法律事務所(「日本人対応が可能」という意味は、英語は通じるが、必ずしも日本語でのサービスが受けられるというわけではないことには注意が必要)として、日本企業のなかでよく話が出る事務所としては、以下の事務所がある。

  • 上記にもある大手法律事務所
    • Mattos Filho, Veiga Filho, Marrey Jr. e Quiroga Advogados
    • Pinheiro Neto Advogados
    • Tozzini Freire Advogados
  • 大手ではないが、日本人対応が可能な法律事務所として名前がよくあがる法律事務所
    • Motta, Fernandes Rocha Advogados
    • Trench, Rossi e Watanabe Advogados, associated with Baker & McKenzie
    • Advocacy Masato Ninomiya

    • Abe, Costa, Guimarães e Rocha Neto Advogados

    • Saeki Advogados
    • Tanaka, Oka e Izá Sociedade de Advogados

法律事務所の使い方はその案件次第であるが、具体的な案件があがってきた段階で、一概にM&Aと言っても、同種の案件の取扱いがあるか等個別に問い合わせを行ったうえで、費用の見積もりをお願いしつつ、各種確認していくのがいいであろう。見積もりの段階でも、見積もりとして聞くのか、キャップフィー(上限)を設けることが可能なのかその場合はいくらを上限として設定できるのか、M&Aの案件でいえば、レポートラインはどのようにするのか、レポート作成準備にはどのくらいの期間を要するのかといったところもあわせて確認していくのがいいであろう。

きめ細かいサービスを受けられるためにも、見積もり段階で細かめな情報を法律事務所にインプットしておくべきであろう。場合によっては、相手方の法律事務所や相手方とのM&Aに関する経験があるかもしれない。

ブラジル – 企業結合規制

ブラジル企業等の買収において、ブラジルの企業結合規制はスケジュール等に大きな影響を与えることから当初のとっかかりとして、注意すべき点の一つである。

I – 企業結合規制の概要

新ブラジル競争法(法2011年12529号)は、2012年5月29日に施行された。本法律による大きな改正点は、企業結合規制が設けられたということにある。これは、CADE(「カジ」と呼ばれる – the Administrative Council for Economic Defense)による監視のもと、現在のM&Aの実務に大きな影響を与えている。

(1) 競争法上の届出義務が生じる事業規模

義務的に競争法上の届出書をCADEに対し提出しなければならない事業規模(filing thresholds)としては、以下の2要件を満たす場合である。

  • 一つの経済グループの届出直近事業年度のグロス・レベニュー(粗利益)が750百万レアル以上の場合
  • 他方の経済グループの届出直近事業年度のグロス・レベニュー(粗利益)が75百万レアル以上の場合

過去のCADEでの事件例等(Case No. 8700.004943/2013-59やCase No.0700.00258/2013-53)によると、売主・買主の双方がどちらかの要件を満たさなければならないとされている。

なお、最近日本企業が関与した案件としては、沖電気が買収側として関与した事案(Case No.0700.00258/2013-53)があり、沖電気がItautecの設立した新会社の70%の議決権を買収するという案件(2013年6月17日付けで官報にて公表されている)である。

「economic group」の意義は、CADEによる決議2012年2号によれば、以下のとおり定義されている。

  • 支配権を有していること
  • 共通の支配下にいること
  • 直接・間接に共通の支配下に置かれ、20%以上の議決権を保有されていること

投資ファンドに関して、上記決議は、以下のようなものは一つの「economic group」に属するとしている。

  • 当該ファンドのスポンサーまたはマネージャーであること
  • 当該ファンドの株式等を直接・間接に20%以上保有していること
  • 当該ファンドのスポンサーまたはマネージャーに運営されているファンドのすべて
  • 当該ファンドのポートフォリオ内の会社であって、直接・間接に株式等を20%以上保有されているもの

2014年2月19日に出された公開協議録(Consulta Pública)第1号もこれに触れているので、あわせて参考にしていただきたい。

(2) 届出の対象となる「集中」させることとなる取引

競争法第90条によれば、「集中」とは以下のことをいう。

  • 従前独立した二つ以上の企業体の合併
  • 一つ以上の企業体の直接・間接の買収(株式取得か資産取得か否かを問わない)
  • その他合弁契約等企業結合に関する契約。但し、行政機関より指定された一定の手続きを経るものはこれに含まれない

また、少数「株式の取得」に関し、2012年第2号決議は以下の取引に関しては、届出の対象となるとしている。

  • 当該買収により、ターゲット会社の最大株主となる場合
  • 単独株主からの20%以上の株式または議決権の取得であって、単独の買収者が少なくとも20%の議決権を保有することになる場合
  • 単独株主からの20%以上の株式または議決権の取得であって、当該買収が支配株主によりなされている場合
  • 20%以上の株式または議決権の取得であって、各当事者になんらの関連性がない場合
  • 5%以上の株式または議決権の取得であって、各当事者になんらかの関連性がある場合(ここでいう「なんらかの関連性」というのは、各当事者が競合企業であったり、またはその事業が実質的に関連する同一市場内にて行われるものであった場合のことをいう)

また、「企業結合に関する契約」に関し、2013年、CADEは共同開発兼ライセンス契約を締結したMonsato Corporationに対し、届出の対象となる取引か否かはケースごとに検討されるべきといいつつも、当該契約当事者に各当事者が競合企業(同一市場での競争者か否か)であるか否かの確認および実質的に関連するか(各当事者の事業に密接関連する市場シェアが20%以上あり、当該市場が他の当事者の市場に関連するか否か)の確認をするよう等判断した。

ほかにも問題となりうる契約は種々ありうるが、いずれにせよ、競合企業間で行われる契約や、各当事者の事業に密接関連する市場シェアが20%以上ある場合には届出の要否について慎重に検討すべきといえるだろう。

(3) 届出等に関する違反があった場合の罰則

新ブラジル競争法(法2011年12529号)第40条によれば、CADEに提供すべき情報につき、適宜提出できなかった場合は、1日あたり5000レアルの罰金であり、虚偽情報の提出があった場合には、1日あたり5000~5百万レアルの罰金となる。

また、これに加え、虚偽情報に基づき、競争法上のクリアランスが出されたということが後日発覚した場合、60,000~6百万レアルの罰金が科せらるとともに、これに関与した当事者への調査が開始されることになるであろう。

II – 実務の概要

(1) 所要期間

2013年、CADEは比較的単純な事案に対しては平均して18日でその調査・レビューを終えている。これに対し、複雑な案件については、34日から217日でその調査・レビューを終えている。

(2) Merger Control Agreement

届出をした後、CADEより、Merger Control Agreement等の交渉がCADE(またはGeneral Superintendency – GS)よりもちかけられることがある。新競争法施行より、2014年5月までの間に、4つの案件がMerger Control Agreementの締結を条件に許可された。そのうち、二つの案件について、経過とともに紹介しよう。

最初の案件は、Ahlstrom CorporationとMunksjöとの案件(製紙分野)である。2013年4月26日、GSは、Administrative Tribunal for Economic Defenceに対し、Merger Control Agreement締結の条件を付けるべきとの意見を提示し、翌月5月22日、Tribunalはこの意見を受け入れた。

二つ目の案件は、Syniverse Holdings, Inc.によるWP Roaming III Sárlの買収(データ・エクスチェンジ市場分野)である。2013年3月3日、GSが意見を出し、翌々月5月22日、Tribunalはこの意見を受け入れた。

(3) ガンジャンピング

(スタートの前に飛び出してしまうという)フライングの意味をとるガンジャンピングだが、競争法との関連では、競争法上のクリアランスを取る前に企業結合が生じてしまっていることを意味し、競争法違反とされてしまう。たとえば、企業結合前にデューデリジェンスを行うことがあるが、それによる情報交換が競争法上の禁止する価格カルテル等価格に関する合意またはそれに類する行為としてとられてしまうことがあるというこである。

2013年8月に、CADEが判断した最初のガンジャンピングに関する事案が、OGX Petróleo e Gás SAとPetróleo Brasileiro S/A – Petrobrasの案件である、OGXはこの案件により、3百万レアルの罰金を支払っている。

 

 

 

ブラジル – 契約法(1):契約概論 – 6

契約概論 – 目次

  1. 概要
  2. 成立
  3. 基本合意書(MOU)
  4. 契約更改・契約譲渡等
  5. 契約の有効性
  6. 契約の終了
  7. 準拠法
  8. 裁判管轄
  9. 紛争解決
  10. 契約上の言語
  11. 相殺
  12. 損害賠償請求
  13. 違約金条項等
  14. 責任限定条項

X – 契約上の言語

ブラジル民法第224条により、契約等につき、ブラジルにおいて有効なものとするためには、ポルトガル語にて記載されなければならない。この観点からすると、非ポルトガル語話者からすれば、(1) 契約締結後、有資格のトランスレーターにポルトガル語に翻訳してもらうか、(2) 契約作成段階で、ポルトガル語を含む二カ国語以上で準備を進めるという二択になる。

XI – 相殺

原則として、相殺はブラジル民法上原則として許される。しかし、それにもまして注意しなければならないのが、通貨を違えた私人間の相殺は、ブラジル法上許されていないと考えられているところである(1946年規則9025号 – Decreto-lei 9025/46)。

XII – 損害賠償請求

ブラジル民法第186条によれば、過失・不注意の作為・不作為により、相手方の権利を侵害し、これにより損害を生じさせることは、不法行為とされる。更に、同法第927条によれば、不法行為を行ったものは、これにより損害を生じた者に対して、当該損賠の賠償の責めを負うものとされる。

XIII – 違約金条項

契約当事者は、一定の事情が生じた場合、不履行当事者が他方当事者に対し、一定の金額を支払う旨を定めた違約金条項を設定することが可能である。もちろん、どのような違約金条項であっても有効というわけではなく、一定の制限がある。

たとえば、一般的に言われていることのひとつとして、違約金条項で課せられる違約金の額は、当該契約の主たる債務の相当金額を超えてはならないとされており、ブラジル民法第413条によれば、違約金条項の違約金の額は、裁判官により、減額されることも可能とされている。

他方、ブラジル民法第416条によれば、債権者は、その受けた損害が違約金の金額を超えるものであったとしても、当該金額を超える部分については原則として請求できないとわれている。違約金の定めがあった場合で、このような金額を超える部分の請求が例外的に許されるためには、債権者側は、当該違約金条項がフロア(最低補償金額)としての意味を有するものとして当事者の合理的意思があった旨証明する必要がある。

VIV – 責任限定条項

ブラジル民法第402条によれば、損害賠償の範囲は、特に法令に定めがある場合を除き、当事者の損害に加え、当事者が合理的に得られたであろう利益も含まれるとされている。

ブラジル民法は、当事者の損害賠償の範囲を限定する旨の条項を設けることに対し、これを制約する規定は存在しない。もっとも、当該責任限定条項の有効性(特に、対消費者との契約)については、学者・裁判例を通じていくつも議論があるということについては留意しなければならない。

 

 

 

ブラジル – 契約法(1):契約概論 – 5

契約概論 – 目次

  1. 概要
  2. 成立
  3. 基本合意書(MOU)
  4. 契約更改・契約譲渡等
  5. 契約の有効性
  6. 契約の終了
  7. 準拠法
  8. 裁判管轄
  9. 紛争解決
  10. 契約上の言語
  11. 相殺
  12. 損害賠償請求
  13. 違約金条項等
  14. 責任限定条項

VII – 準拠法

ブラジル法4657/42号第9条は、ブラジルにおける法の適用に関し規定するものであるが、これによれば、契約の準拠法は、原則として、契約締結地の法令であるとされている。どこが契約締結地か否か判断が難しい場合のため、同条第2文は、契約上の義務の発生地をその場所とみなす旨の規定がなされている。

また、1996年のブラジル仲裁法(96年9307号以下)以来、国際間契約における国際間の契約における外国法の適用は比較的緩やかに認められつつある(一部の学者より反対説はあるという点には注意が必要)。当該法第2条において、仲裁に関する準拠法は原則として当事者の自由である旨謳っている(但し、慣習等に反する場合にはこの限りではない)。

また、消費者保護等に関する特別な法例がある場合は、当該準拠法の合意は無効とされる可能性があることにも注意が必要である。


(補則)日本法

日本では、Conflict of Laws やPrivate International Lawsに関連する法令として、「法の適用に関する通則法」というものがあり、旧法令は改正され、平成19年1月1日より施行されている。

旧法例第7条2項が、当事者意思が明らかでない場合には行為地法を準拠法とするとしていた規定内容が変更され、法律行為時における当該法律行為に最も関係の深い地(最密接関係地、the law of the place with which the act is most closely connected)を準拠法とするという規定になっています。「最密接関係地」をどのように決定するかについては、通則法第8条第2項および第3項の推定規定に該当しない場合には、解釈問題となる。

原則として、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地が「最密接関係地」と推定され(通則法第8条第2項)、不動産を目的物とする法律行為の場合は、不動産の所在地法が最密接関係地法と推定される(通則法第8条第3項)。なお、上記ブラジル法と同様、消費者契約や労働契約等においては、消費者・労働者保護の特例が設けられている(通則法第11条・第12条)。


 

VIII – 管轄

ブラジル法上、原則として、当事者は自由に管轄について合意することができる。ただし、ブラジル国内にある不動産やブラジル国内にある重要資産の譲渡等に関する事件については、ブラジルの裁判所が独占的にその裁判管轄を有する(2016年1月時点となっては、旧民事訴訟法となってしまったが、旧法第89条参照)。

なお、旧法第88条は、当事者の意思にかかわらず、(1) 被告がブラジルに住所を有する場合、(2) ブラジルにおいて債務が履行されねばならない場合、(3) 訴えがブラジルにおいて生じた事実又は行われた行為に基づく場合、ブラジル裁判所は管轄を有することを認めている(なお、独占的管轄ではない)。

IX – 紛争解決

ブラジルの裁判所が非常にビュレウクラティック(官僚的)ということもあり、また訴訟が10年以上かかるということもあり、仲裁等を含むADRは非常にブラジルで一般的な紛争解決手法となっている。ブラジル・サンパウロにおける仲裁機関としては、the Arbitration Chamber of the Brazilian-Canadian Chamber of Commerce、the Arbitration and Mediation Chamber of São Paulo (CIESP)、the Arbitration Chamber of the American Chamber of Commerce といったところがあげられる。

ブラジル – 法改正2016:知的財産関係

著作権に関する規範の議論が開始されたというアナウンスがあった。

2013年法12853号等により、文化省(MinC)はブラジルにおける著作権関連の監督官庁としての任務を行っているところ、2016年2月15日に、文化省は、インターネット上における著作権に関する問題につき、公の議論を行った。この議論における最重要課題は、インターネット上における音楽の放送やこれに関する著作権の取扱いについてであった。これに関連するものとして、2015年の上級審での裁判例が背景としてあるが、本件議論とは直接の関連はないので、当該裁判例については機会あるときに述べることとしよう。

当該議論は現在継続中だが、どのように義務を課すのか、はたまたこれら音楽を利用するインターネット・ユーザー側の義務としてはどのようなものがあるのか(2015年規則8469号第22条第3項参照)といった点に議論がある。

これら議論は今後も継続していき、2016年3月30日ころまで継続されるといわれている。私自身興味ある分野ということもあり、引き続き観察していきたいと思う。

 

ブラジル – 不動産法:外資規制

ブラジルにおける不動産取得につき、外資規制があることについては、以前その概略につき、本ブログに投稿した。今回は、もう少し詳しく触れることとしよう。

外資規制の対象となる土地は、以下のとおりであり、ここでは郊外と国境付近について触れることとしよう。

  • 郊外
  • 国境付近
  • 軍所有地(46年法9760号・第2章・第205章)(大統領より権限の委譲を受けた財務省による承諾が必要)
  • アマゾン地域(01年決定52号・Corregedoria Geral de Justiça do Estado do Amazonas)(原則として、郊外土地と同様の制限を受けるが、現在国会において特別な制限をかけることが議論されている)

I – 郊外

(1) 郊外土地規制の歴史

1971年連邦法5709号および1974年規則74965号により、外国人(個人および法人を問わない)による郊外の土地取得は、一定の制限が課せられている。同法第1章(セクション)の第一文には、ブラジル企業であっても、過半数の株式が外国人に保有されている場合は、この制限を同様に受けるとされている。数年後、1988年ブラジル憲法(第171章(セクション)を含む)が制定され、そのなかでも、ブラジル資本の会社との区別が明示するようになっていった。

また、1993年連邦法8629号により、郊外土地の賃貸借関係についても、同様の規制が課せられるようになった。

これらに関し、連邦政府のジェネラルカウンセル事務局は、意見書GQ-22号を出している。当該意見書によれば、連邦憲法は、ブラジル資本の会社に関して与えられている一部の特権については、外国人に支配されているブラジル企業に対し憲法上の制約を課すことを許すとしている。なお、この意見書は法的拘束力は有しないとされている(なぜなら、同意見書については、法的に正式な公告手続が経られていないからである)。

その後、1995年連邦修正憲法第6号(EC6/95)により、上記意見書に関する連邦憲法第171章(セクション)につき廃止されたのだが、1995年から2年後の1997年に、連邦政府のジェネラルカウンセル事務局は、新たに意見書GQ-181号を提出した。この意見書は、(上記連邦憲法第171章の廃止にもかかわらず)意見書GQ-22号をより強固にさせるものであり、外資規制の維持を謳ったものであった。当該意見書は、意見書GQ-22号とは異なり、法的拘束力を有するものであり、1998年12月17日大統領より認可され、1999年1月22日官報での公告がなされた。

その後、2010年8月19日大統領は新たに意見書LA-01号を認可し、当該意見書もまた2010年8月23日官報での公告がなされた。この意見書では、より外資規制が幅広にされており、直接・間接に外国人に保有されるブラジル企業であっても、郊外の土地取得に関する外資規制は適用される旨述べている。

なお、当該新意見書LA-01号は官報公告日に効力発生しており、2010年8月23日までに行われたことに関しては適用されない。

(2) 規制の概要

土地の取得であろうと、土地の賃貸借であろうと、外国人(個人、法人を問わず、また直接のみならず、間接保有するブラジル法人)の郊外土地に関しては、一定の制限があるということは上記に述べたとおりである。

まず、外国人投資家は、1人の外国人等の郊外土地所有については、最大一筆まで許される。但し、当該土地のエリアが、ブラジル都市計画機関(Instituto Nacional de Colonização e Reforma Agrária(INCRA))により定められている3つを超える区画(Módulos de Exploração Indefinida(MEI))を保有しないことが必要である。

前記新意見書LA-01号によれば、この3区画を超える場合、郊外土地の外国人投資家等による取得・賃借は71年法5709号により規制されることとなり、当該取得等に先立って、INCRAによる事前許可を受ける必要がある。

上記71年法5709号による規制の概要は以下のとおりである。

  • 郊外土地は、農業や酪農、産業・都市計画その他のプロジェクトの実行のために存するのであって、これらプロジェクトは国土省(Ministry of Land Development)および産業・外国取引省(Ministry of Development, Industry and Foreign Trade)の事前の許可を得なければならないのであって、また当該プロジェクトは土地取得等を行う会社の事業目的に則したものでなければならない。
  • 外国人投資家等に保有される郊外土地は、各自治体において4分の1を超えてはならない。
  • 同一国の外国人投資家等に保有される郊外土地は、各自治体において、上記外国人投資家等に保有される郊外土地のうちの40%を超えてはならない。
  • (外国人投資家等に保有される)50を超える区画(MEI)が、一続きの地域において存在してはならない(71年法5709号)。また、93年法8629号に従い、100を超える区画が存在してはならない場合もあるので、この法にも別途注意をする必要がある。

これらの規制は、外国企業が郊外土地を買収する場合にはもちろんのこと、外国企業が郊外土地を保有するブラジル企業を買収する場合にも同じように適用される。

なお、これらの法令の要求に従わない郊外土地の取得については、当該行為を無効とさせられうるので注意が必要である。

II – 国境付近

国境より150キロメートル圏内の土地については、ブラジルの国防上重要地帯とされている。郊外土地であって、国境付近である場合は、上記I郊外土地規制のほかに、この国境付近地帯に関する土地規制も重複してかかることとなる。

この点、外国人投資家等(ブラジルに本居を構える外国人、ブラジルにて事業を行う法人、過半数の資本が外国人による保有されているブラジル企業を含む)が、国境付近土地の取得、賃借、抵当権設定、地上権等の地役権の設定等を行うためには、Conselho de Segurança Nacionalの事前の許可を得なければならない。

この法令の要求に従わない場合、当該売買等の行為が無効とされうるのに加えて、当該取引価額の20%を罰金として科せられる可能性がある。

ブラジル – 契約法:全体目次

ブラジル・契約法関連の投稿の目次

I – 契約概論

  1. 概要
  2. 成立
  3. 基本合意書(MOU)
  4. 契約更改・契約譲渡等
  5. 契約の有効性
  6. 契約の終了
  7. 準拠法
  8. 裁判管轄
  9. 紛争解決
  10. 契約上の言語
  11. 相殺
  12. 損害賠償請求
  13. 違約金条項等
  14. 責任限定条項

II – 契約類型ごとの検討

  1. 売買契約
  2. 代理店契約
  3. コンセッション
  4. サービス契約
  5. 金銭消費貸借契約
  6. オンライン上の契約関係

M&A – Convertible Note(2)

Convertible Note等について契約するためには、大まかに何を定めなければならないのかということを事前に知っておく必要があるだろう(タームシートの作成等)。実際のタームシートの作成は、Wilson Sonsini Goodrich & Rosatiという米系法律事務所が、無償で提供してくれているWeb上のサービスを参考にするのも当初の案であろう(50以上の細かい質問に答えていくだけで、自動的にタームシートが作成されるという優れものである)。なお、Convertible Note等の概要については前回を参照されたい。

前回述べたとおり、Convertible Note等にはその発展系であるConvertible Equityというものがある。この二種類のタームシートについて、本稿では取り上げたいと思う。二つを読みとおすことで、Convertible Equityの位置づけというのもよりよく分かることを祈念して…。

I – Debtの性格を有するものの例として…Techstars

ここでは、一つの例として、Techstars(Y Combinatorと同じくして、カリフォルニア州での案件でよく登場してくるベンチャーキャピタルの一つ)が提案する例を取り上げたい。

[NEWCO, INC.]

SUMMARY OF PROPOSED TERMS FOR
CONVERTIBLE PROMISSORY NOTE (BRIDGE) FINANCING

The following is a summary of the basic terms and conditions of a proposed convertible promissory note financing of [Newco, Inc.], a [Delaware] corporation (the “Company”).  This term sheet is for discussion purposes only and is not binding on Company or the Investors (as defined below), nor is Company or any of the Investors obligated to consummate the convertible promissory note financing until a definitive convertible note purchase agreement has been agreed to and executed by Company and the Investors.

Financing Amount: Up to $__________[1] in aggregate principal amount of convertible promissory notes (the “Notes”).
Closings: The Company may close the sale of the Notes in one or more closings with one or more purchasers of the Notes acceptable to the Company (the “Investors”).
Definitive Agreement: The Notes will be issued and sold pursuant to a convertible note purchase agreement prepared by the Company’s legal counsel and will contain customary representations and warranties of the Company and the Investors (the “Note Purchase Agreement”).
Maturity Date: Principal and unpaid accrued interest on the Notes will be due and payable _____[2] months from the date of the Note Purchase Agreement (the “Maturity Date”).
Interest: Simple interest will accrue on an annual basis at the rate of _____%[3] per annum based on a 365 day year.
Conversion to Equity: Automatic Conversion in a Qualified Financing.  If the Company issues equity securities (“Equity Securities”) in a transaction or series of related transactions resulting in aggregate gross proceeds to the Company of at least $__________[4],  including conversion of the Notes and any other indebtedness (a “Qualified Financing”), then the Notes, and any accrued but unpaid interest thereon, will automatically convert into the equity securities issued pursuant to the Qualified Financing at a conversion price equal to [the lesser of (i)][5] ____%[6]  of the per share price paid by the purchasers of such equity securities in the Qualified Financing [or (ii) the price equal to the quotient of $__________[7] divided by the aggregate number of outstanding shares of the Company’s Common Stock as of immediately prior to the initial closing of the Qualified Financing (assuming full conversion or exercise of all convertible and exercisable securities then outstanding other than the Notes)].

Voluntary Conversion at the Maturity Date.  If the Notes have not been previously converted pursuant to a Qualified Financing, then, effective upon the Maturity Date, the Requisite Holders (as defined below) may elect to convert each of the Notes into shares of the Company’s Common Stock at a conversion price equal to the quotient of $__________[8] divided by the aggregate number of outstanding shares of the Company’s Common Stock as of the Maturity Date (assuming full conversion or exercise of all convertible and exercisable securities then outstanding other than the Notes).  Any election to convert the Notes pursuant to this paragraph will be made in writing and delivered to the Company at least five days prior to the Maturity Date.

[1] Insert anticipated amount of money that the Company intends to raise through the financing described in this term sheet.

[2] The typical term of a Note issued in a bridge financing is 6 – 12 months.

[3] The typical interest rate for a Note issued in a bridge financing is 7-12%.  Please check with counsel to confirm that the actual interest rate used is sufficiently high to avoid imputed interest income to the Company.

[4] This paragraph describes an equity financing that will result in the automatic conversion of the Notes into equity.  Because the conversion is automatic (as opposed to occurring at the Investors’ election) the Investors will want to see a dollar value here that represents a “real” round of equity financing.  For a typical pre-institutional-funding company, a real round of equity financing would raise $500,000-$1,000,000, but the number that represents a “real” round of equity financing will obviously vary from company to company.

[5] Sometimes Investors are concerned that notwithstanding that discounted conversion price provided for in this paragraph, the effective pre-money valuation in the Qualified Financing will still be too high given the risks involved when the Investors made their bridge investment.  This optional language allows the Investors to “cap” the effective pre-money valuation at which the Notes would convert in a Qualified Financing at some pre-agreed amount.  As a point of reference, most investors do not insist on this optional language, so we would not necessarily recommend offering it up unless specifically requested.

[6] Part of what incentivizes Investors to participate in a bridge financing is that their Notes will convert into Equity Securities at a discount to the purchase price paid by investors in a later Qualified Financing.  The typical range of discounts that we see is 10-30%.  As a general rule, the shorter the term of the Notes and the less risky the investment, the lower the expected discount.  Finally, please be sure to use the correct number here.  If, for example, the intent is to provide for a 10% discount to the purchase price paid by the investors in the Qualified Financing, then you would insert 90% into this blank (not 10%).

[7] See fn. 5.

[8] This is a pre-agreed pre-money valuation of the Company used for purposes of calculating the number of shares of the Company’s Common Stock to be issued to the Investors if the Notes are converted into equity outside the context of a Qualified Financing.  We would typically expect to see this valuation set anywhere from 10-50% lower than the pre-money valuation that the Company anticipates for the Qualified Financing.  For example, if, at the time of the bridge financing, the Company anticipates closing a Qualified Financing that would value the Company at $2,000,000, then the value range we would expect to see inserted here would typically be between $1,000,000 and $1,800,000.  As with the conversion discount described in fn. 6, as a general rule, the shorter the term of the Notes and the less risky the investment, the lower the expected discount.

(1) 転換価額の設定

  • 残余財産分配との関係

コンバーチブル・ノートの特徴としては、転換価額が、原則として、次回資金調達ラウンドの株式発行価額ということにある。上記タームシートによれば、この転換価額は、一定割合で割り引かれることになるが、この場合、次回資金調達ラウンドで二つの種類の株式が発行されることになり、それぞれについて残余財産の優先分配権が異なることにもなりかねない。

このところ、シリコンバレーでは、転換後に発行する株式を優先株式と普通株式の組み合わせとすることで、優先株式の価額を次回資金調達ラウンドの株式発行価額と同額に維持するといった工夫をし、残余財産分配権が異なり、会社の資本政策をなるべくシンプルなまま維持するよう工夫される例が多々見られる。

  • 転換株式の対象の検討(前回?次回?の株式、普通株式?それとも優先株式?)

上記例では、次回資金調達ラウンドで発行される株式への転換を想定している。もっとも、例えば、初回ラウンドと第二回ラウンドのつなぎの融資として、コンバーチブル・ノートが利用される場合、第二回ラウンドが行わなかった場合であっても、前のラウンドの優先株式等が発行されるアレンジとすることもあることに留意しよう。なお、この場合は、前のラウンドの優先株式の希釈化防止条項に該当してしまう可能性や、(優先株式ではなく)普通株式に転換できるものとしてしまうと、当該価額が普通株式の「公正な価格」(会社法第116条第1項柱書)と見られてしまう可能性があることにも注意しよう。

(2) 転換条項(強制転換・任意転換)

上記のとおり、転換のトリガーは次回資金調達ラウンドが行われた場合であり、その際には、当該投資家サイドの意向は関係ない。任意転換条項も設けられているが、一定期間までの間に、次回資金調達ラウンドが行われなかった場合のことを指している。

(3) 既存株主間契約との関係

対象会社の株主状況いかんにもよるが、株式に転換される時点で、投資家にも株主間契約に入ってもらうことが通常必要であろう。

[Sale of the Company:[1] If a Qualified Financing has not occurred and the Company elects to consummate a sale of the Company prior to the Maturity Date, then notwithstanding any provision of the Notes to the contrary (i) the Company will give the Investors at least five days prior written notice of the anticipated closing date of such sale of the Company and (ii) the Company will pay the holder of each Note an aggregate amount equal to _____[2] times the aggregate amount of principal and interest then outstanding under such Note in full satisfaction of the Company’s obligations under such Note.]
Pre-Payment: The principal and accrued interest may not be prepaid unless approved in writing by Investors holding Notes whose aggregate principal amount represents a majority of the outstanding principal amount of all then-outstanding Notes (the “Requisite Holders”).
Amendment and Waiver: The Note Purchase Agreement and the Notes may be amended, or any term thereof waived, upon the written consent of the Company and the Requisite Holders.
No Security Interest: The Notes will be a general unsecured obligation of the Company.
Fees and Expenses: Each Investor will bear its own fees and expenses incurred in the transactions contemplated by this term sheet.

[1] If the Company is sold prior to the Maturity Date, the Investors will want the Notes repaid at the closing of the sale.  Furthermore, given the risks involved with lending the Company money in the bridge financing, the Investors will want more a nominal interest rate of return in the sale.  This optional paragraph gives the Investors the ability to get equity-like “upside” in a sale of the Company by requiring the Company to repay a multiple of the principal and interest actually outstanding under the notes at the time of the sale.

[2] When this provision is employed, we typically see a range of multipliers from 1.5X – 3X.

II – Equityの性格を有するものとして…Wilson Sonsini Goodrich & Rosati

上記のとおり、同法律事務所には、Web上で無料かつ自動作成させてくれるサービスがあるのだが、数々の質問事項を入力しなければならず、あらかじめその全貌を知ることが(少なくとも私にとっては)難しいので、以下のとおり、Termsheetをここに引用することとする。こちらは、Equityの性格を有するので、その点を考慮しつつ、読み進んでいこう。

Issuer [Name] (the “Company“)
Type of Security: Up to $[Amount] worth of convertible securities (the “Convertible Securities“)
Target Closing Date: [Date]
Minimum Investment: $[25,000] per in investor.
Qualified Financing: Preferred Stock financing of at least $[1,000,000]
Conversion Price: Lower of

[80]% of the price per share paid by other purchasers in the Qualified Financing or

a $[4,000,000] valuation cap (obtained by dividing $ [4,000,000] by the Company’s fully-diluted capitalization) (the “Valuation Cap“)

Automatic Conversion:
In the event the Company consummates a Qualified Financing prior to a change of control, the amount invested by an Investor for the purchase of such Investor’s Convertible Securities (the“Investment Amount”) shall automatically convert into shares of the Company’s Preferred Stock sold in the Qualified Financing and Common Stock at the Conversion Price. The total number of shares of Preferred Stock and Common Stock that a holder of Convertible Securities shall beentitled upon conversion of such Convertible Securities shall be determined by dividing (i) the Investment Amount by (ii) the Conversion Price (the “Total Number of Shares”). The Total Number of Shares shall consist of (i) that number of Preferred Stock obtained by dividing (a) the Investment Amount by (b) the price pershare paid by other purchasers in the Qualified Financing (theNumber of Preferred Stock”) and (ii) that number of Common Stock equal to the Total Number of Shares minus the Number of Preferred Stock.
[Optional Conversion]
In the event the Company does not consummate a Qualified Financing prior to [date], then at the election of the holder, the entire Investment
Amount shall convert into shares of the Company’s Common Stock at the [Valuation Cap]/[valuation of $2,000,000].]
Change of Control:
If the Company consummates a change of control prior to a Qualified Financing, then the entire Investment Amount shall convert into shares
of the Company’s Common Stock at the Valuation Cap.
[ALTERNATIVE: If the Company consummates a change of controlprior to a Qualified Financing, then, upon the election of the holder,either (i) the holder shall receive a payment equal to two times the Investment Amount, or (ii) the entire Investment Amount shall convert into shares of the Company’s Common Stock at the Valuation Cap.]
Amendment: The Convertible Securities may be amended with the consent of theCompany and holders holding a majority of the aggregate outstandingInvestment Amount of the Convertible Securities.

この例では満期および利率の記載がないというところがポイントである。加えて、上記にある「Optional Conversion」があることで、Converssible Noteというか、Equityに近い性格をより持つようになる。

(補則) 株式と借入の基本的な違い

そもそもの理解として、株式と借入の基本的な違いをここで整理しておこう。なお、これらの間のような存在(優先株式や劣後ローン)も内容次第で組成することが可能だということを忘れずに。

株式 – Equity 借入 – Debt
調達資金を返済する義務なし 調達資金を返済する義務あり
利息を払う必要なし 利息を払う必要あり
株主総会の議決権 株主総会の議決権なし
アップサイドを取れる 当該対象会社が成長した場合のアップサイドを取れない

 

ブラジル – 労務(2):雇用関係 – 2

II – 雇用関係(続):前回はこちら

(6) 和解等による雇用契約の終了

(前記 労務(2):雇用関係 – 1における)雇用契約(変更)にて、書面でなされたとしても、原則として従業員の不利益な変更は許されないと記載した。このことから分かるように、放棄(Waiver)や免除(Release)を書面等の形をもって(解雇・退職済み)従業員より取得したとしても、このこと自体は元従業員からの労務訴訟の提訴等を妨げることにはならない。労務・雇用等に関する権利は、原則として、裁判所による命令のみによって、その権利行使を妨げることができるのである。

(7) 従業員登録

ブラジルにおいては、従業員を雇用する場合には、従業員ブックレット(Carteira de Trabalho e Previdência Social – “CTPS”)が必要とされる。このブックレットには、雇用主の名前、雇用日、報酬、作業内容、昇給条件、有給の内容、労働組合等に関する事項が記載される。なお、このブックレットは、労働省により発行され、個々の従業員がこれを保管する。

(8) Economic Group理論

労務債務等の問題を検討する際に忘れてはならないのが、Economic Group理論である(独占禁止法分野や税法、はたまた環境法分野でも同様の理論が出てくるので、同じように忘れないように注意しよう)。

この理論は、従業員と直接の契約関係を持っているか否かによらず、同一の経済利益を共通にするグループ(当該グループ内の会社が、ブラジル法準拠の会社か否かを問わない)は、労働関連の義務について、連帯してこの責任を負うとされるというものだ。

この理論は、上記のとおり、他の法分野でも登場してくるものの、これらの分野で出てくる、「Economic Group理論」とは異なり、また幅広い概念を有していることに注意していただきたい。例えば、この同一の経済利益を共通にするグループ内か否かが争われた最近の裁判例において、「支配権をどの程度有するか」についてはこの有無を判断する直接の考慮要素にはならないともされているのである。

(9) 報酬・給与

労働法は、報酬(Compensation)と給与(Salary)を明らかに区別している。

「給与」は、従業員が受け取る報酬の一部である。

「報酬」は、「給与」に比し、より広い概念を有しており、「給与」のほか、ボーナスや手当て等当該就労にあわせて付随する利益を含む概念である。

「給与」は、少なくとも月に1度、(就労が行われた翌月)5日間出に支払われなければならない。

就労にあわせて生じる税金(Social Security Contributionや社会保障関連(FGTS))は、「報酬」に基づいて算出される。

(10) 報酬・給与以外の権利の具体例(書面に基づく合意が必要)

  • 年次の義務的昇給(労働協約のなかに定められている必要がある)
  • 年次のクリスマス・ボーナス(月次に従業員に対し支払われる金銭のほかのものであって、二回に分けて支払うことが可能である。具体的には、2月から11月までの間の1回と12月の1回の計2回である)
  • 有給休暇(年次30日)
  • 失業保険:従業員に対する月額「報酬」の8%を、特定の銀行(Caixa Econômica Federal)に積み立てなければならない。当該積立金は、従業員の退職時および一定の特殊な事例(例えば、従業員が解雇事由なき場合に雇用関係を終了させた場合であって、当該従業員は3年以上の雇用関係にないにもかかわらず、住居を購入するときや、重篤な病気にかかっているとき)の場合において、引き出せるようにしていなければならない。
    • 従業員が解雇事由なき場合に雇用契約を終了させた場合において、従業員は当該積立金を受領できるのに加えて、雇用主は、当該金額の50%に相当する金額を支払わなければならない(40%分につき従業員へ、10%分につき監督官庁へ)。
  • 週次の休憩時間(24時間の休憩時間)
  • 15日間の病欠等
  • 120日間(最大180日に延長可)の産前産後休暇

(11) 勤務時間

原則として、最大1日8時間・週44時間とされている。一定の職業(電話オペレーター等)については、一日の就労時間が最大6時間とされている。

労働法によれば、1日8時間の労働を行う日であっても、2時間の延長は許される。

残業代については、超過金を支払う必要があり、(時給にして)通常50%の上乗せを支払う必要があり、日曜日と祝日の残業については、通常100%の上乗せを支払う必要がある(なお、労務協定や個別契約等において、それよりも高額な残業代支給が取り決められていた場合はそちらによる)。

また、そのほかにも深夜勤務手当・危険手当等が労働法上定められていることにも注意が必要である。

 

ブラジル – M&A:全体目次

ブラジル・M&A関連の投稿の目次

(1) ブラジル – M&A全般

(2) 日本とブラジルのM&Aの比較

(3) ブラジルに投資するに当たって

(4) 外国為替・対内直接投資等規制