ブラジル – 環境法…はじめに

ブラジル環境法は、1960年代から1970年代にその規制が始まり、本格的な規制としては、1980年代に始まった。

これに対し、日本は、1949年ころの東京都公害防止条例をはじめとして、各自治体の条例作りが先行していたところ、国としては、1950年代ころの水俣病等の公害発生の対策を主な目標とした規制として、1960年代ころ以降より、公害対策基本法等いわゆる環境法を制定してきた(そういうこともあり、当初は生活の質の向上を目標とするよりは、むしろ健康に害が及ばないようにするといった視点に重きを置かれていた。)。

 

I – はじめに

環境法の検討においては、連邦・州・市区町村の各3レベルを考えなければならないということは忘れてはならないものの、1981年法6938号がその中心である。この法においては、環境問題に関する民事責任における、無過失責任および因果関係の拡大(直接・間接損害)という点に注意する必要がある。

また、環境法においては、民事責任のみならず、刑事責任、行政上の責任も問題となる。行政上の責任を考えるにあたっては、各種ライセンスとの関連も忘れてはならない。

加えて、ブラジルの環境法といった場合の面白い側面として、排出取引(Carbon emission trading)の問題がある。京都議定書により、締結国のうち一定の国間では、炭素クレジット(Carbon Credit)を取引することが認められている。炭素クレジットには4種類あり、初期割当量(Assigned Amount Unit)、各国が吸収源活動で得た吸収量(Removal Unit)、クリーン開発メカニズム事業で得られた認証排出削減量(Certified Emission Reductions)、共同実施事業によって得られた排出削減ユニット(Emisssion Reduction Unit)に分けられている。ブラジルには現在のところ、数値目標は課せられていないが、この排出権をめぐっての取引やその検討はかなり盛んである。

 

II – 法規制の概要

ブラジル憲法第225条は、環境を国民共通の資産として、良質な生活を送るため不可欠なものとし、当局等にこれを保護する義務を課している。

また、前記1981年法は、国の環境政策(National Environmental Policy)を組成し、このNational Environmental Policyの主な目的は、環境保護および生活の質の回復(ここでは環境に直接関連するものを指している)、加えて、社会経済の発展としている。

環境改善義務、環境に対する損害賠償義務、Natural resourcesの利用に関する利用料支払義務等といった重要な義務も同法により定められている。これら義務に対する考え方は、ブラジル環境法上の他の重要な原理・原則にもあらわれている。汚染者賠償・使用者賠償の原則もその一つだ(これは、他の環境法規である1998年法9605号(環境刑事法)や2009年法12187号(環境変化に関する国家政策法)にもあらわれている)。

これに対し、社会経済の発展という側面は、自然保護に関する経済的インセンティブを定めた2006年法11428号にも現れている。

 

III – 監督官庁

前記1981年法は、連邦・州・市区町村レベル全てに関連し、環境保護を促進する組織(National Environmental System – Sistema Nacional do Meio Ambiente or SISNAMA)も規定している。これにより、(1)上位機関であるConselho de Governo、(2)環境に関する意思決定機関であるConselho Nacional do Meio Ambiente or CONAMA、(3)中心機関であるMinistério do Meio Ambiente or MMA、(4)執行機関であるInstituto Brasileiro do Meio Ambiente e do Recursos Naturais or IBAMAおよびInstituto Chico Mendes de Conservação da Biodiversidade or ICMBioならびに(5)その他下位組織という構成が組み立てられている。

(1)は法令上規定されており、大統領へのアドバイザーとしての役割を果たすものとされているが、その役割はほとんど機能しておらず、(2)CONAMAが実質上もっとも重要な機関である。CONAMAが制定する決議は、環境法の実務を動かす重要な決定である。例えば、1986年CONAMA決議第1号1997年CONAMA決議第237号は、その重要な決定のなかでも取り上げるべき重要ものであろう。

(3)MMAは、環境政策の計画、調整および監督に尽力する機関である。(4)IBAMAは自然資源の安定的利用および保護に関する計画の執行に関する機関であり、ICMBioは2007年法11516号により設立された組織であり一定の保護区域に関する事項を執行する。

ブラジル – 環境法関連(1)

ブラジルにおいて環境法の適用を受けるか否かは、その場所、建設、施設等の設置・拡張・修繕等事業の実施において異なり、その確認は手間がかかる。もっとも、これに遵守できない場合には、行政上、民事および刑事上の処罰等一定のサンクションを受けることになるため、容易に看過できない問題である。

I – 許認可関連(具体例とともに)

例えばということで、ここでは、セメントに関する問題を取り上げてみることとすると、Ceará州とSergipe州とでセメント事業を行っている場合、双方の州法における許認可を必要とされる。ブラジルでは、連邦のみならず、州法の許認可、はたまた市区町村レベルの許認可も必要とされる場合があるので、ひとつひとつの段階について丁寧な調査が必要である。

また、許認可についても、初期段階・機材設置段階・事業段階と3段階で別々の許認可があるので注意が必要である(連邦規則99274/90号および連邦環境委員会(National Environmental Council – CONAMA)決議237/1997号)。

  • 初期段階(LP):フィージビリティ・テスト段階で必要とされる許認可である
  • 機材設置段階(LI):これにより事業の開始またはプロジェクトの始動が許可される。詳しくはこちら(ポルトガル語)。
  • 事業段階(LO):事業活動に関する許認可と等しく、上記二つの許認可条件に従っていることが、本許可の条件となっていることがほとんどである。

これら三つの許認可に加えて、特定の事項に関しては、スポットで許認可を与えられていることがあるので、これについても目配せしておく必要がある。

また、全ての許認可については期限があることにも要注意である。一度許認可が与えられたとしても、事業主は定期的にこれら許認可を更新しなければならない。CONAMA決議237/1997号によれば、LOに関しては、期限が切れる120日前に更新を行わなければならないとされている。CONAMA決議04/2012号によれば、LPやLIに関しては、期限が切れる60日前に更新を行わなければならないとされている。

II – 環境法上の責任

故意または過失(”dolo” or “culpa”)による環境法違反は、行政法上・刑事法上の処罰の対象となりうる。

故意等か否かにかかわらず、環境法違反による責任は、民法上は連帯責任となることについても注意が必要である(無過失責任 – regardless of fault)。加えて、環境法上の問題については、法人格否認の法理が幅広く適用されうる関係もあり、環境法上の責任問題は他の法人格に及びうるということにも注意しなければならない。