ブラジル -相続

人の死には、大事なイベントの一つである。

私の大好きな映画の一つであるキングスマンでも、コリン・ファース演じるスパイであるハーリー・ハットが「紳士の名前が新聞に載ってもいい日は、生まれた日、結婚した日そして死んだ日の三回のみである」(A gentleman’s name should appear in the newspaper only three times: When he’s born, when he marries, and when he dies.)と述べている。そのうち、「死」には相続としてその財産分配方法等に法律が関連するのである。

ということで、(キングスマンの映画は英国スパイで、リオデジャネイロのシーンは出てくるものの、ブラジルにはほとんど関係ないが…)ここではブラジルの相続について触れてみたいと思う。なお、相続の問題といっても、個人企業がまだまだ多いブラジルではM&Aの文脈でもよく問題になる。当該保有している持分等が両親からの相続による取得だったものの、当該相続手続が適切に行われていなかったといった具合にだ。ということで、企業法務のことを中心に記載しているこのブログだが、相続についても触れていこう。食わず嫌いせずに。

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ブラジル – 家族法:ブラジルでの結婚

ブラジルの契約書を見ると、契約当事者の特定に、契約当事者が個人である場合、住所氏名はもちろんのこと、財産分与(regime de separação total e absoluta de bens)があるか否か、婚前契約(prenuptial agreement)の締結の有無まで記載されるほか、既婚・未婚の有無、職業、RGの番号、CPFの番号まで記載される。

例えば、

XXXX, Brazilian, divorced/married undere the separation of property regime (regime de separação total e absoluta de bens), in accordance with articles 1,678 and 1,688, as well as article 1,647 of the Brazilian Civil Code, and Prenuptial Agreement, drawn up in Book XX, Page XXX of the Civil Register of Natural Persons and Notary Public of XXX, court of XXX/XX, and Declaratory Public Deed drawn up in Book XX, Page XXX of the same registry, business manager/enterpreneur, bearer of the Identity Card RG XXXXX and enrolled with the Taxpayer Registry of Individual (CPF/MF) under No. XXX, with office at XXX.

といった形で記載される(英訳版)。日本の実務では、契約書における記載は、そこまで書かない場合がほとんどであり、なかなか興味深い。現地の弁護士に聞くと、必ずしも記載せずとも無効とはならないだろうが、通例であり記載しておいたほうが法的有効性にかんがみ安全だという。

というなか、ここで記載されている婚前契約や結婚について、本稿では触れてみたいと思う。

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ブラジル – 家族法の歴史とその背景

ブラジル人は陽気だ。サンバが好きだ。サッカーが好きだ。コーヒーが有名だ。バルバッコアにあるシェハスコはブラジル料理だということは知っている。ブラジル人の家族状況が日本と似かよっている部分(戦後は3人・4人兄弟が当たり前だったが、現在は一人っ子又は2人兄弟が主流という事情等)があるということも知っている。だが、どこが同じで、どこが違うのか、そして、どこが似ているのかということについて、常々正確に分析しなければプロにはなれないということを実感する毎日ということもあるので、自己の備忘録また自戒の念を込めて、太文字にしてこの想いを本日のブログ冒頭に記す。また、ブラジル文化の正しい理解の一環として。

I – ブラジルの社会・人口

ブラジル地理統計院(IBGE)のウェブサイトによれば、ブラジル人の人口は2016年現在約2億人ほどであり(女性約51%・男性約49%)、合計特殊出生率は2016年時点で1.69である。同ウェブサイトで現時点で予測されている2030年までの間に、人口減少の予測は見られないものの、少子高齢化が進んでいることは、合計特殊出生率の低下(2000年:2.39)・65歳以上の高齢者人口率の増加(2000年:8.1%・2016年:11.82%)より、容易に伺える。このように少子高齢化に伴い、日本と同様、ブラジルでも年金の財源問題が生じているのであるが、その問題の質は日本のそれと異なる。

世界最大ともいわれたカトリック教国ではあるが、年々減少傾向にあると伺っている。また、法律上の婚姻をせずに、いわゆる事実婚を選ぶ風潮が強まっており、2013年には、事実婚が法律上も一部保護されるようになった(その例として、ブラジル民法1631条(a união estável・安定した結合)の規定)。

II – 家族法の歴史

(1) 1916年民法(旧民法)

旧民法では、家父長制(patriachy)が確立されており、妻は法的には権利無能力者とされていた。夫のみが親権者であり、親権を示す表現としてpátrio poder(父権)という用語が用いられていた。婚姻している夫婦であっても裁判上の別居をすることはできたものの、再婚は認められていなかった(なお、1977年以降、裁判離婚制度が認められるようになった)。日本の明治民法においても、家長権は戸主権として法的に保証されていた。なお、日本では、旧民法時点から協議離婚が認められていた(なお、妻側からの離婚請求が認められるようになったのは、明治6年の太政官布告よりと言われている。)。

このように、婚姻関係は、男性上位のもとに女性の地位は虐げられていたものの、1960年代ころから序所に改善され始められる。1988年の新憲法のもと、男女平等が確立され、2002年にはこれを実現するべく民法典が大きく改正されることとなる。

(2) 2002年民法(現行民法)pátrio poder(父権)からpoder familiar(家族権)へ

上記のとおり、1977年以降、裁判離婚制度により裁判によらなければ離婚はできなかったものの、2007年に民事訴訟法が改正され、未成年(18歳未満)の子がいない、財産等が特にない等の条件を満たし、一定の手続を踏まえれば、裁判によらずして離婚ができるようになった。なお、日本では、子の有無等にかかわらず、協議離婚は自由に行える。