最近、サンパウロにて、それぞれ別個に話す機会を持った。
一人を見て、全体を把握しようとするのは、非常に危険な考え方で、私自身は好まず、今回の掲載も「ブラジル人弁護士とは」「アルゼンチン人弁護士とは」といったことを述べる意図は全くない。ただ、そのうちのこういう人に出会ったという記録と記憶は私個人として残しておきたいということもあり、ここではそれぞれをブラジル人弁護士(「B」)・アルゼンチン人弁護士(「A」)と呼んでいる。
海外にいくと、言葉の壁に悩むことが多いのだが、「これは私だけの問題なのだろうか」また「日本人特有の問題なのだろうか」と考え込むことが多い。ところが、BもAも、ポルトガル語はおろか、英語も相当流暢と来た。しかも、私よりも若い。私は海外に住むこと自体は現在で3年ほどで、英語の苦手意識もだんだん薄れてきたのだが、彼らと話すとまだまだ不足しており、ポルトガル語はもちろんのこと、英語も日々トレーニングしなければならないという思いに至る。
まだまだ満足のいくレベルに達していない私の英語力。日本語に引きづられて、母音の発音が強く出てしまい、アクセントの強弱もおかしかったりすることがある。知らない分野のことや予想外の質問を受け、焦って話した場合、単語ばかり先走ってしまい、文法が崩れてしまう。彼らとの違いを認識しながら、自分の英語力をどうやって引き上げられるのか考えてみる。
結論からすると、引き続きトレーニングし続けるほかはないのだが、良質の英語を大量に読み聞くというに尽きるような気がする。ということで、TEDやBBC(ポルトガル語)を頑張って読み聞きしていこうと決意を新たにしたのであった。
弁護士間の国際競争の時代が近いうちにやってくる。日本法の資格やNY州法の資格やブラジル法(正確にいうとブラジルも州ごと)の資格といった違いではなく、国や資格を超えて、弁護士として、リーガルマインドを持つものとして、説得力という能力を競う時代が近いうちにやってくるのではないかと思うのだ。日本人として、日本法弁護士として、私はクライアントを一歩でも楽に前に進める優れたリーガル・サービス・プロバイダーになりたい。
ブラジル人弁護士(「B」)との弁護士のつきあいのはじまりは、とあるM&A案件である。Bは、コーポレートを専門とする弁護士で、日本プラクティスにも携わる。買収候補者である日本企業にアドバイスすることも多いBは、1年ほどの海外留学経験があり、日本での勤務経験もあり、多少の日本語が話せるうえ、英語は非常に流暢だ。20歳のころから、企業法務を営む大手法律事務所でインターンとして働き始めた彼は、2016年現在すでに10年のキャリアを持つ中堅・シニアアソシエイトであり、そこそこの規模のM&A案件であれば、彼が中心となって案件をハンドリングする。クライアントとの会議(ポルトガル語であっても、英語であっても)も、彼が、基本的に、議事進行を努め、クライアントの意図を汲み、事情を把握、分析していく。また、必要に応じて、パートナーの承諾を得ながら、事務所のリソース(他チームのアソシエイト等)を使いながら、クライアントのニーズに応えていく。
ブラジルの企業法務で、特徴的と感じたのは、各弁護士が、日本とは違って、高度に専門化されているということだ。コーポレートチームの弁護士は、コーポレートのことを中心に担当するということもあり、労務等ほかの問題が関連する場合は当該分野を専門とする弁護士のサポートが必要となる。もちろん、M&Aの場合は、コーポレートが中心的な問題点となるが、それだけでなく、労務・税務・環境等が入れ混じり問題となることも多いところ、(基本的には、労務弁護士等ではなく)コーポレート弁護士がある種の窓口担当者として問題点を整理し、クライアントに有益な情報を提供する。具体的にいえば、M&Aの案件において、コーポレート弁護士が詳しくない内容に関する会議であっても、会議中議事を進行し、法的用語を噛み砕く形でクライアントの理解をサポートする。
Bは、仕事が正確だ。正確なゆえに、機械的な処理なように感じることもある。たとえば、以前、クライアントが、ブラジルにおけるM&Aの複数スキームの違いについて、質問に来たことがあった。いずれのスキームもブラジルではよくある類型であるが、クライアントとしては、それぞれのタイプのメリット・デメリットを詳しく検討したいようであった。これに対し、Bは、「多少の違いはあるが、それぞれのメリット・デメリットについても、結局は買収の際の契約に手当てにおいて相当のカバーが出来、(この案件ではこちらのスキームを選ばなければならないといった)特筆すべきような違いはない」といった話に終始していたように思える。このとき、クライアントは、言葉としては「Understood」と言っていたが、表情から察するに腑に落ちていないように思えた(これではどちらのスキームにするのか彼で決められないといった表情)。結局、その会議後では、当該案件に即した形で、メリット・デメリットを記載するメモを作成するということで落ち着いたのだが、もう少し丁寧な接し方があってもよかったのではないかと思う。
とはいいつつも、彼の英語の説明・事情確認は丁寧だ。クライアントの英語がわからないと、かならず聞き返す。それも「What?」といった形ではなく、「ここまではこう理解したが、ここからが分からなかった。」という形だ。相手の言っていることの、自分の理解の確認。この作業を怠らないというのは大変勉強になる姿勢だった。自分よりも若いBだが、学ぶべきところは非常に多い。
Aは、アルゼンチンでは比較的大手の法律事務所に勤めるキャピタル・マーケッツを専門とする弁護士だ。年齢は分からないが、まだ独身で、エネルギッシュさ・フレッシュさを感じるのは、私が二児の父だからだろうか。彼は、サンパウロに来てから1ヶ月も経っていないという、それにもかかわらず、(母語でない)ポルトガル語で自己紹介が出来、ポルトガル語で自国の法制度等について説明ができる。
私はこれを見て衝撃を受けた。私などもう数ヶ月もブラジルにいるが、いまだにポルトガル語には悩まされることが多い。彼は、まだ数週間である。それなのに、あっという間に追い抜かれ、その差は明白である。私などは、レストランで決められないとき、「Ainda não decidí. Você pode recomendar alguma coisa?」とおすすめを聞くこと自体は出来る。しかし、これに対する返事が聞き取れないことが非常に多く、四苦八苦である。自国の法制度の説明も、必死で準備すれば、ポルトガル語である程度は話せるかもしれないが、質疑応答などは不可能だ。彼はこれをこなした。彼の母語であるスペイン語がポルトガル語に非常に近いというのもその理由にあるだろうが、非常に刺激を受けた。1ヶ月もあれば、母語以外の言語でプレゼンテーションが出来る力を身に付ける者もこの地球上にはいるのだ。
頑張ろう。