ブラジル – M&A事例(新日鉄住金・ウジミナス)

ウジミナス(Usinas Siderúrgicas de Minas Gerais S.A.)は、ブラジル・ミナスジェライス州(サンパウロ州北部)にある(高炉メーカーと呼ばれる)鉄鋼メーカーである。ブラジル内鉄鋼メーカーでは、粗鋼(Crude Steel)生産第2位の規模を有する(2014年時点・年間600万トンほど)。2014年第1位はGerdau S.A.で1900万トンほど・第3位はCompanhia Siderúrgica Nacional (CSN)で540万トンほどである(そのほかに年間300万トンを超える規模の業者はブラジルにはいない)。(Worldsteel Associationによる)

1958年1月に日本とブラジルの合弁で設立されたこの会社(旧新日本製鉄の技術援助も含む)は、1962年に高炉創業を開始し、1991年に民営化。2016年現在はブラジルのほか、ニューヨーク・スペインの証券取引所に株式を上場している。

I – 取引の概要等時系列

2006年

  • 12月:新日鉄が日本ウジミナスの株式を追加取得し、子会社化し、その影響でウジミナスは新日鉄の持分法適用会社に

2011年

  • 11月27日:アルゼンチンのテルニウムが、ウジミナスに27.7%出資すると合意した旨発表
    • 計26%を出資するブラジル現地財閥のボトランチン(セメント大手)、カマルゴ・コレア(建設会社)の両グループの全株式を取得のほか、ウジミナス従業員の年金基金保有株の一部の買取
  • 11月28日:新日鉄も出資比率を1.7ポイント引き上げて、29.2%にすると発表
    • 当時、新日鉄とテルニウムは、メキシコ合弁事業を通じて協力関係にあった
      • 2013年8月には、メキシコで自動車用鋼板の合弁工場立ち上げ
    • なお、当時、CSNによるウジミナス買収が報道されていた(同社は2011年1月以降、段階的に議決権付株式11.7%・優先株20.1%を市場で取得していた)

2012年

  • 1月ころ:ウジミナスの経営にテルニウムが参画。株主間契約においては、新日鉄住金を含む日系側が46%・テルニウム側が43%・従業員年金基金保有が10%超を保有していた

2014年

  • 4月:役員改選時期だが、新日鉄・テルニウム間で人事につき、合意できず、エグレン氏が暫定CEO
  • 7月~9月:EYとデロイトの2社により、報酬問題に関する社外監査実施
  • 9月:パウロ・ペニード議長裁定でエグレン氏等3役員(いずれもテルニウム側役員)の解任を可決(役員審議会で、「不正な役員報酬の受領があった」として議論)
    • テルニウム側はこの解任に関し、仮処分を申請(のち棄却)
  • 10月:テルニウム、年金基金から10%超を取得し、筆頭株主に浮上。
  • 10月:上記解任された3役員が、パウロ・ペニード議長に対し、訴訟を提起

2015年

  • 4月6日:臨時株主総会
  • 5月5日:ミナスジェライス州裁判所は、解任を妥当とし、テルニウム側の訴えを退ける形で判決を下した

2016年

  • 3月12日:新日鉄が10億レアル(約300億円)の増資を最大で全額引き受ける旨発表

II – 今後と雑感

ブラジル経済の動向もあり、ウジミナスの収益状況は芳しくなく、テルニウムとの主導権争いはなかなかチキンレースといった状況のもようだ。上場会社でありながらも、株主間契約の実効性が幅広く認められるブラジルならではの、主要株主間の争いとして、非常に興味深い案件の一つである。

ブラジル -不動産法(4):不動産に関する権利関係等

ブラジルでの不動産買収は、郊外土地に関する外資規制があるもののほか、その制度自体が日本とは異なることから、日本人からすると「あれ?」と思わせることが多い。ここでは、その不動産の買収に関して、おおまかに整理を加えていきたいと思う。

I – 不動産登記局(Cartório de Registro de Imóveis)

日本にも法務局(商業登記法や不動産登記法に関する登記を管理する部署があり、総称して登記局と言われることが多い)があるが、そのうち不動産登記を扱う部署がブラジルにもある。それがここでいう不動産登記局であり、1973年12月31日法6015号に基づくものである。

所有権の登記は、少なくとも、(1)当該対象不動産の概要(土地・建物)、(2)所有者の氏名および特定できる情報、(3)当該不動産に付着する権利(抵当権・質権等)の記載がなされる。

II – 不動産に関係する権利関係

(1) 地上権(Direito de Superfície)

地上権は、所有権の一種であり、土地所有者が、一定の期間につき、他者に土地に建物を建てる等土地の使用権原を与える内容を含むものをいう。地上権の性質としては、大要以下のとおりである。

  • 約因(consideration)は不要
  • 地上権者は、当該土地に侵入する第三者に対し、立ち退き等請求することができる
  • 地上権者は、当該土地に発生する税金等に対し、責任を負う
  • 地上権者と地上権設定者は、相互に先買権を有する
  • 地上権自体に対し、抵当権等設定することは可能

日本の地上権設定

  • 最長最短の期限の制限なし
  • 第三者対抗要件のため・日本民法177条(地上権設定の登記必要)
  • 地主の承諾の有無に関らず譲渡可能(譲渡禁止特約を設けたとしても、債権的効力のみ-永小作権との違い)
  • 地代は地上権の要素ではない
  • 地主の買取権・地上権者の収去権(日本民法269条第1項)
  • 地上権につき担保することも可能だし、賃貸することも可能

 

(2) 永小作権(Enfiteuse)

永小作権は、所有権の一種であって、土地所有者が、小作人に対し、一定の土地をしようする権原を与えるとともに、一定の小作料を対価として支払うよう義務付けるものである。

  • 有償が原則であり、永続とされている
  • 小作料の支払いは、小作人より土地所有者へ直接なされる必要がある
  • 当該永小作権の内容にもよるが、一般的には、永小作権により、小作人は耕作等を行い果実を収受することが可能

日本の永小作権設定

  • 地代が要素である
  • 永代小作権は不可
  • 譲渡禁止特約を設けることができるが、その場合登記必要(日本民法272条)
  • 賃貸借の主な規定の準用(日本民法273条)

 

(3) 地役権(Servidão)

一定の目的に従って、ある土地の便益のために、他人の土地を利用する権利をいう。永久のものも、無償であっても設定可能である。

(4) 果実収受権(Usufruto)

当該土地の果実等を収受する権利をいう。その一代限りのものも、また一定の期限のものも、また無償であっても設定可能である。果実収受権者の死亡または権利放棄、期限の徒過、当該不動産の滅失または当該果実収受権に関する不履行等により消滅する。当該権利は譲渡不可である。

(5) 使用権(Direito de Uso)

上記果実収受権に似ているが、当該果実収受権者の生活の必要のために供される点が異なる。

(6) 居住権(Habitação)

一時的に無償で誰かの居住区または施設に居住することのできる権利。

(7) 不動産質権(Anticrese)

制度としてはあっても、ブラジル法ではあまり利用されることがないとのこと。

 

 

 

 

ブラジル – M&A事例(キリン・スキンカリオール)

2015年12月21日、キリンHDは、2015年12月期において、ブラジル子会社の暖簾代等1140億円を特別損失として計上すると発表した。これは、1949年の同社上場以来初の赤字ということで、現地ブラジルにいる日本人駐在員の心に、ブラジルでのビジネスの難しさを(更に)強く印象付けた。これ以降、安易なM&Aによる規模拡大が必ずしも良いものではないといった印象をよく聞くようになり、特に事業会社を中心に慎重論を耳にするようになった。

I – 経緯

キリンは2011年に約3000億円を当時、ブラジル大手のスキンカリオールを買収した。これは必ずしもキリンが考えていなかったシナリオであろう。

  • 2011年8月2日(キリンHDによる2011年8月2日付プレスリリースより)
    • キリンHDによるスキンカリオール(Schincariol Participações e Representações S.A.)の発行済株式総数の50.45%を買収
      • 具体的には、同株式を保有するアレアドリ社の発行済全株式を取得する株式契約を8月1日深夜開催の取締役会で決議し、同契約を翌日2日に締結
      • アレアドリ社の発行済株式のすべてを、同社の株式を保有するアレシャンドレ・スキンカリオール氏及びアドリアーノ・スキンカリオール氏(両氏がそれぞれ50%ずつ保有)から総額39.5億レアル(約1,988億円)で取得。株式取得完了は8月2日。なお、資金は手許現金及び外部借入。
        • 1レアル=50.35円(2011年8月1日当時の為替)
        • フィナンシャルアドバイザーは、シティグループ証券株式会社
    • 2011年11月11日時点の週間ダイヤモンドによる報道では、「スキンカリオールの連結売上高は、2010年12月期時点で1437億円、総資産は2247億円、連結EBITDA(税引き前利益に減価償却費、支払利息、税金を加えたもの)は256億円である。対してキリンが買収に投じた金額はEBITDAの13倍に達する。5~10倍が相場といわれるなかでは、『高い買い物』になった。」との評価
    • 2011年11月11日付Bloombergによる報道によれば、キリン側にTozzini Freire Advogados、アレアドリ社側にMattos Filho Veiga Filho Marrey Junior & Quiroga Advogadosがそれぞれリーガルカウンセルとして着いていたものと推察
  • 2011年8月4日
    • スキンカリオールの少数株主より、(先買権行使に関し)キリンHDによるアレアドリ社株式取得の差し止めを求める仮処分の申立てが提起され、サンパウロ州イトゥー市裁判所が、8月4日に当該仮処分を部分的に認める旨の決定を下す
    • 2011年11月11日付Bloombergによる報道によれば、この訴訟に関し、キリン側にTozzini Freire Advogados、アレアドリ社側にMattos Filho Veiga Filho Marrey Junior & Quiroga Advogados、少数株主側にTeixeira, Martins & Advogadosがそれぞれリーガルカウンセルとして着いていたものと推察
  • 2011年8月15日
    • キリンHDによる、上級審サンパウロ州裁判所への異議申立て
  • 2011年9月2日(キリンHDによる2011年9月16日付プレスリリースより)
    • 少数株主による本案訴訟の提起
  • 2011年10月11日(キリンHDによる2011年10月12日付プレスリリースより)
    • キリンHDによる、上級審サンパウロ州裁判所への異議申立てが認められ、市裁判所による命令を取り消す旨の決定が下される。
  • 2011年11月4日(キリンHDによる2011年11月4日付プレスリリースより)
    • キリンHDは、スキンカリオールの発行済株式総数の49.54%を保有するジャダンジル社の全持分を取得する持分譲受契約を締結
      • 具体的には、上記アレアドリ社からの取得を含め、これら株式の保有のみを目的とするキリンホールディングス・インベストメンツ・ブラジル(SPC)を通じ、ジャダンジル社の株式を保有する3人のマネージング・パートナー(ダニエラ・マリア・スキンカリオール・メディナ、ジョゼ・アウガスト・スキンカリオールおよびジルベルト・スキンカリオール・ジュニア)からその保有株式を総額23.5億レアル(約1,050億円)で取得
      • 正確にいうち、アレアドリ社売主2名及びジャダンジル社売主2名による直接保有分の取得(0.01%未満)とあわせて、キリンHDがスキンカリオール社株式を100%保有することとなる。

  • 2015年12月21日
    • 減損発表
      • ブラジル経済の悪化を背景とした消費の停滞及び競争の激化、現地通貨安の更なる進行、当年度の大幅な販売数量減少、及び足元の利益水準の低下を反映し、ブラジルにおけるIFRS(国際会計基準)に基づき資産価値の再評価を実施。
      • 21日現在、監査手続き中、ブラジルキリン社取得に伴い生じたのれん等につきまして、減損損失の発生の見込み - 3,881百万レアル(約1,412億円、為替レート:36.38円)
      • 2015年12月21日の毎日新聞Websiteによると、「21日に記者会見した溝内良輔常務執行役員(ブラジル事業担当)は「買収時はブラジル市場が伸びると見ていたが、楽観的だった。景気が減速しても拡大戦略を続け、アクセルを空ぶかしする状況だった」と対応が後手に回ったことを認めた。

        今後は生産縮小などで19年までの黒字化を目指す。ただ、ブラジルは、中国の景気悪化で鉄鉱石などの輸出が低迷。経済成長率はマイナスが続いており、キリンの狙い通りに改善が進むかは見通せない。会見に同席した伊藤彰浩取締役は「売却や撤退も選択肢として全く考えないわけではない」と述べた。

        キリンHDは15年12月期の営業利益予想も従来の1300億円から1220億円に下方修正した。ブラジル子会社の販売不振が主因だ。ただ、15年の国内のビール販売数量が21年ぶりに前年実績を上回る見通しで、国内主体の営業利益は大きくは落ち込まない。

         しかし、国内市場全体が縮小傾向にある状況は変わらず、海外市場の重要性は高まっている。キリンHDは東南アジアなどで企業買収、投資を積極的に進めてきたが、海外事業のリスク管理が今後問われそうだ。」とされる。

II – 考察:どうすればキリンHDの損失は免れることができたのか?または少なく出来たのか?

先買権の行使の機会を与えなかったとも争われた本件一連の取引であったが、結果としては、キリンHD側が全てを引き取る形で、一旦の訴訟自体は収まっている。

外部にいるものとして、当該取引がどのように進んでいったのか、外部公表資料以上の事実はないのだが、キリンと第一売主群・第二売主群の3グループ間で、第一売買までの間に十分な議論があったのかが疑わしい。もちろん、この案件はビッド案件(入札案件)だったと推察され、一定の情報が遮断されたまま行われたこともあるのだろうが、第一売主・第二売主間の関係性を疑う事情はなかったのだろうか、先買権行使のリスクについてどれほどまで理解してこの案件が進まれていたのか(後付で物事を判断するのは楽なのだが…ブラジル経済がある種ピークに近かった2011年に行われた案件ということもあり)、現地法律事務所に確認しているとの記載は各プレスリリースにあるものの、現地法律事務所との関係も含め、押せ押せドンドンで進んでいたのではないかと邪推してしまう・・・。

日本 – 法律事務所の内部から…

日本には大手法律事務所と言われる法律事務所がいくつもある。

法律事務所内での利益配分ということはあまり話されることが多くない。法律事務所がどういう組織なのか、またどういう分配をされているのか、あまり対外的に公開されている情報が多くないことから、ここに自分が、日本の法律事務所・アメリカの法律事務所・コロンビアの法律事務所・ブラジルの法律事務所と渡り歩いてきた経験から、また、現地で知り合った弁護士等を通じて話し合った結果、ここで話せる限りの内容をシェアできればと思う。

I – 大手法律事務所のなかの弁護士とその役割分担

大手法律事務所では、パートナーとアソシエイトという弁護士がいる。大雑把に言ってしまえば、パートナーは案件を責任をもって担当できる弁護士、アソシエイトはそのパートナーをサポートする弁護士だ。当然のことながら、責任が伴う分、パートナーの報酬が多いことがほとんどである。

そのパートナーのなかにも二種類のパートナーがいる。エクイティ・パートナーとノン・エクイティ・パートナーの二種類だ。エクイティ・パートナーは、当該法律事務所のビジネスのオーナーである。日本法にそくしていえば、当該ビジネスが(民法上の)組合契約(*1)に基づき成立しているのであれば、組合持分権を保有しているパートナーということである。

*1 西村あさひ法律事務所のサイト上に、西村あさひ法律事務所は、弁護士法に基づく西村あさひ法律事務所と組合契約に基づく西村あさひ法律事務所の共同事業である旨の明記がされている。(2017年12月追記:上記サイトはリンクが切れている)

組合持分権を保有している場合、組合利益の配分を受け取ることができるということになる。もっとも、事務所の利益が上がった場合、それに応じて、ノン・エクイティ・パートナーの報酬もあがるとされているのが通常である(もっとも、これも個々の組合契約の内容によるので、一概には言えない)。

徐々に弁護士人数が増えるに連れて、どの国でもパートナーになる年次(アメリカはあまり年次を意識させないが…少なくとも経験年数はどの国でも意識させられる)は遅くなっているものの、おおよそ10年から15年ほどでアソシエイトからパートナーになっていくのが、通常のキャリアのように思われる。

II – エクイティ・パートナーの配分

エクイティ・パートナーという立場が、法律事務所内における「ある種」の最高の地位にある。少なくとも、事務所経営が右肩上がりとなっている状況においては、事務所の成長が自分への利益に直結するので、美味しいポジションともいえよう(この右肩あがりというのもなかなか一概に言えないので、どう表現するのかは難しいのだが…)。

エクイティ・パートナー間の配分方法は、各種事務所で異なるのだが、大きく分けて二つの配分方法がある(なお、小規模法律事務所では、組合持分権割合に応じて、固定の割合)。一つはロックステップ方式(Lockstep)、もう一つが自己稼ぎ優先方式(Eat What You KillまたはSource of Origination)とも言えよう。

ロックステップ方式は、新パートナーが組合契約に加入するときに、当該新パートナーに一定のポイントを付与する。時間が経つに連れ、新パートナーも、次の報酬レベルに到達するまでに、追加のポイントを取得する必要がある。ここでの最大の報酬レベルに到達するまでの期間を指して、ロックステップピリオドといい、10年ロックステップといったり、7年ロックステップといったりする。イギリス系の法律事務所に多い。

自己稼ぎ優先方式は、パートナーは事務所全体の利益のほかに、自身が案件を開拓した場合その開拓した案件からあがる一定の利益も受け取ることができるという方式である。これは、アメリカ系の法律事務所に多い。ブラジル系の法律事務所もこの方式による事務所が多いと伺っている。日本もどちらかといえば、こちらが主流派のように感じるが、日本の法律事務所に関する統計はもちろん、それに類する情報は入手していないので、筆者の肌感覚に過ぎない。

 

 

 

 

 

ブラジル – M&A:エスクロー

ブラジルでは、米国に習う形で、M&Aの契約時において、エスクローを結ぶことが多いと聞いている。ブラジルにおいては、売主は創業者一族等個人であることが多く、当該株式自体が売主の最大の資産である事例も少なくないことも、エスクローがよく用いられることの原因のように思う。

エスクロー(escrow)は、端的にいうと、商取引の決済に際して、当事者が、取引代金や譲渡の目的物を直接相手方に交付せず、中立的な第三者(主に金融機関)を通じて決済を行うことにより、売買代金の支払や調整等を円滑に行う仕組みのことをいう。

  • 第三者預託とも訳すことが可能だが、エスクロー制度は、米国では法定されている制度であって、これを日本語のように単に「第三者」に「預ける」という制度と誤解されるということを避けるため、ここでは、敢えてカタカナ読みのエスクローということで整理をする

エスクローの一例をここに示す。なお、エスクローは売買代金の支払いと密接不可分であるので、売買代金の一例ともあわせてここに記すので、いささか長めの説明となること、ご理解いただきたい。加えて、下記は、エスクローの大要を示しているものに過ぎないので、契約書の文言としてそのまま利用するには不適切な部分があることに注意されたい。

  • 売買代金
    • 本件株式売買の「売買代金」は、[100万]レアルとする。「売買代金」は、以下の「資本評価」によるものとする。
      • 「資本評価」=「企業評価」-○年末時点の「ネット負債」
      • 「クロージング時資本評価」=「資本評価」-「差分ネット負債」+「差分ワーキングキャピタル(運転資金)」-「CAPEX(いわゆる設備投資・不動産の価値や耐久年数を延ばすための経費)」-「その他取引費用」
      • 「差分ネット負債」=クロージング時の「ネット負債」と○年末時点の「ネット負債」の差分
      • 「ネット負債」=借入金-現金等
      • 「差分ワーキングキャピタル」=クロージング時のワーキングキャピタルと平均ワーキングキャピタルの差分
      • 「差分売買代金」=「クロージング時資本評価」-「資本評価」
    • 対象会社は、「クロージング時資本評価」をクロージング後[60日]以内に算定する。売主および買主はそれぞれこれら算定に関する会議等にいつでも参加させることができる。「クロージング時資本評価」につき、疑義がある場合は契約上記載の一定の手続を踏まえて、これを修正することができる。
  • 支払期日
    • クロージング日において、買主は(1) 「売買代金」から「エスクロー代金」および「売買調整代金」を差し引いた金額を所定の売主の銀行口座へ振り込むとともに、(2) 「エスクロー代金」および「売買調整代金」をエスクロー口座へ振り込むものとする。
      • 「エスクロー代金」および「売買調整代金」はあらかじめ決まった一定の金額。ここでは例として、エスクロー代金を20万レアル・売買調整代金を5万レアルとする。
    • 両当事者は、下記内容を有するエスクロー契約を締結することに合意する。
      • 「差分売買代金」が正の値の場合、「クロージング時資本評価」決定後○営業日以内に、「売買調整代金」は直ちに売主に渡されるとともに、買主は当該「差分売買代金」を所定の売主の銀行口座に対し、振り込むものとする。
      • 「差分売買代金」が負の値の場合、「クロージング時資本評価」決定後○営業日以内に、売主は「売買調整代金」と調整のうえ「差分売買代金」を所定の買主の銀行口座に対し、振り込むものとする。
      • 買主が、補償条項にトリガーする事情により損害を被った場合、両当事者は、エスクロー・エージェントに対し、書面による通知(当該損害発生の事実および損害額の記載を含む)を行う。当該通知の受領より○営業日以内に、前記損害額と同額をエスクロー口座より引き落とすものとする。
      • 毎年エスクロー契約締結日において、エスクロー・エージェントはエスクロー代金の△%に相当する金額を売主に渡すものとする。ただし、ここで売主に渡される金額から、買主から売主に対し補償に関する通知が既に行われているものの金額は除かれるものとする。
      • エスクロー契約締結後○年後、エスクロー・エージェントはエスクロー代金の全額を売主に渡すものとする。ただし、買主から売主に対し補償に関する通知が既に行われているもののうち、両当事者間で合意済みなものまたは本契約に従い訴訟・仲裁等により最終的な判断を受けているものについてはこの限りではない。
        • ここでいう「○年」は時効の期間等を考慮し、5年とされる事例が多いと伺っている。

Capture

上記例を前提とした事例の説明

  • クロージング日において、買主は、100万レアルからエスクロー代金20万レアルおよび売買調整代金5万レアルを差し引いた75万レアルを売主の銀行口座に振り込み、25万レアルをエスクロー口座に振り込む。
  • クロージング後、「クロージング時資本評価」が定まった場合、「資本評価」との差分である「差分売買代金」につき、売買調整代金5万レアルと調整のうえ、買主・売主間で清算する。
  • クロージング後であっても補償等問題が生じるが、これはエスクロー口座を通じ、売主による補償を担保させる。エスクロー口座を通じた支払関係と契約上の補償手続はリンクすることが多いので、これらの整合性をきちんと整えておくことも肝要である。
  • エスクロー口座に振り込まれた一定金額は、毎年調整されていく。

雑感 – 私が英語とポルトガル語とスペイン語を学ぶときに考えること

私は、日本人である。大学を出て、社会人になってから、初めて海外で暮らす機会を得た。英語圏とスペイン語圏とポルトガル語圏と。

I – 現状の課題とこれまで

当然の話になるが、日本以外に出た場合、日常生活における日本語の重要性はがくんと落ちる。もちろん、異国の地での日本人との出会いにも格別の思いがあるものの、異国の地では異国の人との出会いが多い。また、日常生活に必要な連絡をするためには、現地語が必要不可欠である。アパートの契約、電気・水道・ガスの契約、インターネットの開設、銀行口座の開設、(もし子どもがいるならば)学校との契約、日々の学校の先生とのやり取り、電気等にトラブルがあった場合の連絡等々。

私は、(日本の法律事務所と会社に加え、)アメリカの法律事務所とコロンビアの法律事務所とブラジルの法律事務所に在籍した経験がある。仕事では、いずれも英語を基本的に使っていた。

(アメリカの法律事務所は当然のことだが)コロンビアの法律事務所とブラジルの法律事務所の職員は大方英語が上手である。スピーキング・リスニングという観点からすれば、並みの日本人よりは遥かにできる。思ったことをきちんと順序立てて話す・聞いたことに対しきちんと応えるという会話能力は(少なくとも私が知る限り)日本人より出来るように思えた。なぜ、ここまで違うのだろう。もちろん、コロンビアの法律事務所とブラジルの法律事務所の職員の多くは、いわゆる上流階級かアッパーミドルと言われる階級に属しており、いい教育を受けていることは間違いない。しかし、それだけではなく、日本語と英語の違いに比べ、スペイン語・ポルトガル語と英語の違いは大きくないといったところや、日本での英語教育環境に問題が大きくあるような気がする。

(今は違うが、私のころは、)日本人は中学から英語を習っていた。中学3年間・高校3年間・大学2年間と習う。その後、私は大学院に進み、社会人に入り、(業務の100%というわけではないが、それなりの割合において)英語を仕事でも使い、海外留学を経て、ニューヨーク州司法試験を合格し、日本人ひとりという職場環境を2年ほど体験しているものの、いまだに全て英語でうまく話せるわけではない。緊張すれば、てんでばらばらの文法を話してしまうこともままある。相手の言っていることを聞き間違えたりもする。書面では確実性が重要視されることもあり、また、時間を取って反応することができることが多いため、間違える可能性はグンと減ってくるものの、完璧な英語かと言われるとまだまだ自信がない。発音は日本人英語で、母音が強くまた長く発音してしまう癖はなかなか抜けない。英語を読むと、カタカナをあててしまう癖もなかなか抜けきらない。”strong”を「ストロング」と考えてしまうのでは、英語を英語として認識できない脳があることが分かる。ストロングでは”sutorongu”であって、”strong”ではないのだから。子音の発音(とその違い)を意識するとともに、アクセント以外の母音の発音は意識的に小さくまた短くしていかないとだめだろう。英語に比べると母音の発音が比較的強めなポルトガル語においても、同様に注意していく必要があるだろう。

というところで、いまはブラジルに住んでいるので、家族の生活を支えるため、また生活を楽しむためにもポルトガル語の上達は喫緊の課題なのだが、英語もまだ引き続き課題でもある。

II – ではどうやって今後を伸ばしていくのか

語学は筋肉トレーニングのようだとよく言われるし、自分自身もそう思う。トレーニングすればするだけ、その部位は強くなり、条件反射も早く、また正確なものになっていく。この2年間で、英語の自己紹介の回数は格段に多く、それはTPOを踏まえたいくつかの通りが出来るようになってきたようにも思う。色々な機会で話す機会・英語で思考する機会は今後も積極的に持ち続けたいと思っている。

加えて、自分で自発的にするトレーニングの機会も大事だ。相手のレベルにあわせなければならないリスニングの強化は非常に大事。また、相手の発言を聞き取ったうえでの会話ができるようになることも大事(相手の発言の要約を英語で行うこと)。

単語で覚えるのではなく、一つのセットで反応できるようにする。簡単な具体例でいえば、”I think that”というよく使う一連のフレーズのストックを増やしていく。カジュアル・トーキングであるが、「常識だよ」といった言い回しは、”Everyone knows.” といった形にしたほうがニュアンスは近いとか。また、think・believe・hopeといった単語の使い方、in・at・from・toといった前置詞類の語句の使い方の間違いを減らす工夫も必要だろう。よくある間違いのひとつが、I go to shopping. (“to”は要らない)といったものが挙げられる。

いずれにせよ、母国語以外の多くを読み込み、せっかくいまは個室の執務室があるのだから、声を出して読み、また、よく会話をしていくべきなのだろう。ある道でプロになるためには、1万時間という話がある。1週間に20時間だと500週(10年ほど)もかかってしまう。1週間に30時間でも330週ほど(それでも7年)。いずれにせよ、「継続は力なり」ということで、お酒を飲んだときでも、友達と旅行にいるときでも、家族とともに過ごすときでも、ちょっと頭の片隅に母国語以外の言語を置き、日々考えるしかないだろう(シャドウ・リスニング・スクリプトを長めつつつぶやきつつの映画鑑賞・洋書の読み込み)。勉強時間を記録していくのも、いいだろう。と、とにかく頑張ろうと。

 

 

日本 – 担保物権総論

担保物権においては、さまざまな用語が出てくるので、ここで自身の頭の整理もかねて、記載しておきたいと思う。

I – 担保物権の性質

日本法上、留置権や先取特権、抵当券、質権等存在するが、多くのものがこれら性質の理解のもとに整理することが可能である。

  • 付従性:担保物権は、被担保債権があって初めて存在し、被担保債権が弁済等により消滅すれば消滅するという性質をいう。
    • 将来債権に対する担保等で問題となる。
  • 随伴性:担保物権は、被担保債権が他人に移転すれば、それに伴って移転するという性質をいう。
    • 債権譲渡や元本確定前の根抵当保証等で問題になる。
  • 不可分性:担保物権者は、債権全部の弁済を受けるまで目的物の上に権利を行使しうる(民法296条、305条、350条、372条)という性質をいう。
    • 留置権者が留置物の一部を債務者に引き渡したとしても、残部に留置権を行使しうる。
  • 物上代位性:担保物権者は、目的物の売却・賃貸・滅失・毀損等により債務者が受ける金銭その他の物に対しても権利を行い得る(304条、350条、372条)という性質をいう。
    • 債権譲渡後の物上代位の可否(304条にいう「払渡し又は引渡し」に債権譲渡が含まれるか否か):(判例)含まれない
      • 例えば、抵当権の賃料債権に対する物上代位に関し、抵当権者は、債権譲渡後であっても、当該債権を差し押さえて物上代位できるとする。
    • 保険金請求権や、共同抵当・弁済による代位等でも問題になる。

II – 担保物権の効力

  • 優先弁済的効力:債務の弁済が得られないときに、目的物を換価したうえで、他の債権者に先立って弁済を受けうる効力
  • 留置的効力:担保物権者が、目的物を手元に留置し、債務者に心理的圧迫を加えることにより債務の弁済を促す効力

III – 整理

法定担保物権

約定担保物権

留置権

先取特権 質権 抵当権 確定前の

根抵当権

確定後の

根抵当権

付従性

×

随伴性

×

不可分性

物上代位性

× 原則○ *3

優先弁済権 ×*2

留置的効力*1 × × ×

×

*1 担保物権中、留置的効力を有するのは留置権と質権のみ

*2 留置権は他の担保物権と異なり優先弁済権を有しない(間接的に弁済を強制する)

*3 一般先取特権の目的物は債務者の総財産であるため、物上代位は問題にならない(なお、特別先取特権は物上代位性を有する)

 

 

ブラジル – 担保概論

日本でも担保権設定については、各種案件によりさまざまな手法がとられるが、ブラジルでの担保権設定においても同様のようである。ここでは、各担保設定に関する細かい議論には立ち入らないものの、全体を俯瞰するような記載を残しておきたいと思う。

I – ここ最近2-3年の担保権設定に関する話題

2014年8月7日に連邦政府が規則656号により、不動産担保設定に関する新たなルール(Letras Imobiliás Garantidas – LIG)が設けられたということである。この規則は、法2015年13097号に含まれている。

LIGは、ヨーロッパ圏のcovered bond(カバード・ボンド・社債のうち住宅ローン債権等の資産の裏づけのあるもの)に類似するといわれており、主に以下の性質を有する。

  • 金融機関により発行されるものであること
  • 不動産に関する債権(平たくいえば、住宅ローン)に関するものであること
  • 先順位(senior)無担保債権者と同順位に取り扱われること(パリパス)

上記に加えて、カバード・ボンドとの違いとしては、以下の特徴が挙げられる。

  • LIGに関する資産プールにつき、第三者への関与がないこと
  • 一定の政府発行証券(Titulos do Tesouro Nacional)による裏づけが得られる場合があること

II – 資産に対する担保権設定の手法

(1) 不動産に対する担保権設定

不動産は土地およびその定着物であるが、これらに関連する主な担保権設定手法としては、抵当権設定および信認関係(フィデューシャリー)に基づく譲渡である。

  • 抵当権設定:ブラジル法上、抵当権は不動産上に存するリーエンであり、その付着物も当該土地に抵当が付された場合にはこれに含まれる。
    • 「リーエン(英語:lien)」は、一般に先取特権と訳されることが多い。但し、英語でいうLienは、一般に「法定」と「約定」の先取特権双方を意味することが多いことに対し、日本法の先取特権は、通常「法定」の先取特権を意味する。抵当権は法定で付されるというものよりは約定で付されるものが多いイメージということもあり、上記一般の翻訳と異なり、また単にカタカナをあてていること自体は私の主義(翻訳には出来る限り、日本語の語彙をあてる)には反するのだが、仕方なくLienの訳語として、リーエンを採用している。
    • もちろん、ブラジル法上の抵当権と日本法上の抵当権も似ているものの、概念が必ずしも一致しているわけではない。
  • 信認関係(フィデューシャリー)に基づく譲渡:期限までの支払いを約したうえで、債務者から債権者への一定期間の所有権の移転を行う。当該支払い後、債務者は当該不動産や資産の所有権を取り戻すことができることとなる。
    • 日本法上の不動産質権(第356条)とは違い、所有権の移転も行う。
    • ある種所有権留保特約付売買契約(Purchase agreement with title retention)と似ているのではないかとも思われる。

これら担保権設定においては、双方とも、書面(債権額・支払期限・利率および担保物を特定するに必要な情報の記載があることが必要)によることが必要であって、不動産登記局への登録が必要である。

また、信認関係に基づく譲渡の場合は、更に、強制執行手続および対象不動産の価値も記載する必要がある。

(2) 動産に対する担保権設定

  • 質権設定:一定の例外はあるものの、動産に担保権を設定することができる。なお、これを設定するためには、占有を移転させる必要がある(この点、日本法の質権設定と同様)。また、担保物の種類により異なる質権がある(農作物質権・工業/産業質権・証券/債権質権・車両等質権等)。
  • 信認関係(フィデューシャリー)に基づく所有・譲渡:代替可能資産に関する法的所有権の移転は、金融資本市場において可能とされている。これらは第三者対抗要件のため、登録されなければならず、書面にて作成されなければならない。

これら担保権設定においても、書面(債権額・支払期限・利率および担保物を特定するに必要な情報の記載があることが必要)によることが必要である。加えて、債権者・債務者双方による契約締結が必要とされている(加えて、二人の証人があれば望ましい)。

設定に加えて、対抗要件具備(Perfection)のためには、関連登記局への登記が必要である。加えて、質権は、占有移転も必要な点は重ねて注意されたい。

 

日本 – ディストレストM&A

昨今の日本では、倒産・事業再生の実務において、スポンサーの資金を利用した事業価値の現金化が頻繁に行われており、これを利用するためのツールとしてM&Aは欠くことができないものといわれている(柴田義人・The Lawyers July 2015・26頁以下『M&Aによる企業価値の現金化と債権者の権利』参照)。

ディストレストM&A・すなわち、財務面の窮地に陥っている会社を対象会社とするM&Aは、(1)事業価値を現金化し、そして、(2)債権者への弁済原資を確保するための手法の一つといえよう。

I – 一般のM&AとディストレストM&Aの違い

一般のM&Aは、時間を買うともよく言われる。事業を拡大するための局面において、それに必要なノウハウ・技術・人材・施設の取得等を可能にする手法だ。ディストレストM&Aにおいても、買主の意向としては、それを含むものであろう。しかし、売主(株主または対象会社)としてはどうか、対象会社の債権者としてはどうか、従業員や取引先はどうだろうか?また、裁判所等の法的機関の関与が含まれる以上、手続が同じように進むわけはない。よく言われる違いをあげると以下のとおりである。

  • 契約時に負債が確定していない
    • ディストレストM&Aを行う際には、対象会社は債務超過に陥っており、この減免の交渉を行わざるを得ない状況である
  • 失権効がある=簿外債務・偶発債務
    • 所定期間内に債権の届出をしなかったら、当該債権は、「原則として」消滅(会社更生法第204条第1項、民事再生法第178条第1項)
      • 例えば、再生債権者の責任に帰することのできない事情により届出ができなかった場合には、その事由が消滅した後1ヶ月以内に限り、追完が可能(民事再生法第95条第1項)。届出機関が経過した後に発生した債権については、その権利が発生した後1ヶ月以内に届出をしなければならない(同条第2項)。
  • アーンアウト等ポストクロージングの価格調整は、通常使いにくく、また、売主への表明保証責任や補償義務を負わせることが難しい
    • 債権者への配当後売主が無資力になることになりやすい
    • 100%減資と増資を組み合わせて債務者対象会社の法人格を生かす場合は、最終的には売主自身が買主の子会社になる
  • 評価基準日からクロージングまでの期間が比較的長くあくことがある
    • 裁判所による手続関与
  • 買主と債権者との利害対立が明確になることが多い
    • 上記ポストクロージングの価格調整等が実効しにくいこともあり、価格が買主にとって最大のリスク管理となる

II – 手続

上記ディストレストM&Aを日本でやろうとした場合、考えられる手続は以下のとおりである。

  • 私的整理手続
    • 事業再生ADR
    • 私的整理に関するガイドライン
    • 中小企業再生支援協議会
    • 地域経済活性化支援機構
    • 特定調停
  • 法的整理手続
    • 会社更生手続
    • 民事再生手続
    • 破産手続
    • 特別清算手続

いずれも各種特徴があるが、手続が多数決による権利変更なのか全員同意なのか、失権効は、法定の民法や会社法の適用を受けるのか、裁判所の関与の度合いや、事案の公表の有無、対象債権者(私的整理手続においては、原則として金融債権者のみが対象)といった違いを考慮していく必要があろう。

雑感 – 人生は他人から教えられることの方が遥かに多い

私は白陵高校の卒業生でもないが、また、本ブログは、アメリカ法およびコロンビア・ブラジル法といったラテン・アメリカの諸国に関する情報を掲載する目的であったので、目的にも反するのだが、同高創設者の三木省吾先生の「同窓会のみなさんへ」のことばがすばらしかったので、ここに紹介する。

外延道路に高く聳(そび)える欅の並木は樹冠を空にさし伸ばし、すでに巨木の風格を備えて見えます。

私は、どうか皆さんのひとりひとりが、それぞれの場でこの欅のような巨木になられることを祈ってやみません。

今、自分の人生の中で、多少かげるのある時期にある人も、逆に高揚の頂点におられる人も、これは長い人生の一時期に過ぎないと観じて、新しい目標に向かって、一歩一歩。真摯に生きて行こうではありませんか。

人生は他人から教えられることの方が遥かに多い。良き先輩を持ち、また良き後輩に恵まれる。これが白陵の同窓会の特色でありましょう。

どうか、卒業生のみなさんが、相い寄り、相い助け合って、各地域各職域に支部をつくり、それが枝葉となり、根を張り、幹を太らせて、白陵という巨木が、末永く聳えることを心から願っております。

弁護士となっても、人の親になっても、経験をいくらつんでも、他人から教えられることの方が遥かに多い。常に、謙虚に、また好奇心を持って、新しい分野を恐れず、開拓者精神を持って、このブログの掲載も長く、少しでも、他人から教えられたことを広められるよう、日々これ努力あるのみだと思い直した。

また、自分自身はほとんど空っぽの入れ物と評した伊丹十三の「女たちよ!」を思い出した。

何か新しい知識を得られることは楽しい。まるで新しいおもちゃを手に入れたときのような高揚感もある。その新しい知識を使いこなし、人から感謝されるときなどの嬉しさといったら、なかなかたとえようがない。しかし、その知識も誰かからの受け売りであることがほとんどなのだ。法律や判例を読み込み、いかに多くの書物を読み込み、そのうえで自分の言葉でつむぎだしたとしても、その「自分の言葉」ですら、誰かから教わった何かそのものか、それを基本に少しのスパイスを効かせたものに過ぎないなのだ。多くの先人のうえ、自分が成り立っているということを常々忘れずに、日々を頑張ろう。