日本人のLL.Mへの海外留学について思うこと

僕の海外生活の始まりは、米国でのLL.Mだった。初めての英語での生活。アパートを探し、子供たちの学校を探し、特に十分な金銭的なサポートが得られるわけではないなか、最低限の予算を持って、色々なところを回った。

確信したことは、(少なくとも私が在籍していた2013年から2014年ころは)日本人の英語のスピーキング力、そして何よりも存在感が他国のLL.Mの学生に比べ、弱いとよく言われていることだ(特に、日本人男性)(なお、実際に、英語のスピーキング力や存在感が弱い・薄いかは知らない。そういうようによく言われている評判はアメリカにいたときも、コロンビアにいたときも、ブラジルにいたときも聞いていた)。それは、どこのLL.Mに関しても、その評判は多少の差はあれども大して変わらないということだ。仮に、ハーバードであったとしてもだ。

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ブラジル – 税務:近年の法改正(TFJ/PTR)

2016年9月14日、Normative Instruction RFB 2016年1658号が公布された。これはブラジル連邦歳入庁(RFB)により定められたものだ(なお、この変更は10月1日に施行される)。このRFB令は、RFB令2010年1037号を修正するものであって、従前優位な課税管轄や税優遇(tax privileges)に関する取扱いを変更するものである。

2016年1658号は、変更を加えていたのはもっぱら以下の点である。

  • Curacao(キュラソー島)、St. Martin(セント・マーチン島)およびIreland(アイルランド)は所得税による課税がされないまたは20%を下回る税率での課税であり、更には法人の株主等の構成員情報へのアクセスを禁止する地域(これを特別課税管轄 – TFJ)として上げられていた。オランダ領アンティルやセントクリストファー・ネイビスはこれに含まれないことが明らかとされた。
  • 税優遇特区(PTR)につき、オーストリア法に基づく持株会社の場合はその地域での実質的な経済活動の内容にかかわらず、これに含まれることとされることとなった。

注意すべきなのは、TFJやPTRの意義自体は立法上手当てされているにもかかわらず、現在の立法はRFB作成のこれらに関するリストについて言及されておらず、立法とこれらリスト上の管轄との整合性が文言上一致していなかったという点である(ブラジルらしいといえば、ブラジルらしい点の一つに挙げられよう)。

このため、RFBは長年の間、これらのリストを更新等するたびにこれらをガイドラインとして使用し続けてきた。このような実務からして、上記RFB令による変更は今後の実務の変更を促すものとして考えられるだろう。

ブラジル – パラリンピック閉会式を見て

ブラジルでパラリンピックの閉会式を見た。午前の飛行機で、サンパウロからリオデジャネイロ入りをして、深夜のバスでサンパウロに戻るという0泊1日の強行軍だ(もしくは車中泊のみともいう)。

としても、100を超える国々の人々が一同に会するこの式典を見て感動した。その思いをいまここで残しておこう。

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ブラジル – 弁護士試験の内容(択一)

OAB(Ordem dos Advogados do Brasil)という機関が試験問題を作成し、弁護士となるための試験を運営している。弁護士となるためにはという一般論についてはこちら、また2016年初頭の弁護士状況についてはこちらで記載してきたが、ここでは、当該弁護士試験の内容の一部を紹介してみる。

なお、現行の法制度上、ブラジル法上の弁護士となるためには、ブラジルのロースクールに原則として5年間通学しなければならないことから、日本人弁護士が、日本の大学等を卒業した後、司法試験・司法修習をクリアした後に、ブラジルのロースクールに更に5年通学し、ここでの資格を取るのは、通常のキャリアに照らしてなかなか難しいといえるだろう。

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謙虚に生きること

数年ぶりに司法修習時代にお世話になった教官と連絡を取った。諸般の事情を考慮し、教官と同じ道は選ばなかったのだが、メールを読んで、修習時代にこのひとを尊敬していた自分に誤りはなかったのだろうと思いなおした。このような人に僕もなりたい。

その教官が常に掲げていたことが、人や事件に謙虚になることだった。司法研修ではその教官から犯人性の事実認定(誰が犯人かを認定する手法)についてよく教わった。DNA鑑定で間違いないといっているのだからといって、そのひとが犯人だなんて断定はみじんたりとも思ってはならない。「DNA鑑定についてお前は詳しいのか」「当該対象となったDNAの採取過程にお前は付き合わせたのか」「書面に書いていることが全て正しいのか」「書面を書いたひとは誰だか知っているのか」「お前は現場にいないんだ。事件は現場で起こっていたんだぞ。もう過去の出来事なんだぞ。それを丁寧に紐解くのがお前の仕事だし、私の仕事でもあるんだ。」。間接事実の積み上げによる認定は、足し算ではない。事実の一つ一つを丁寧に組み合わせる掛け算と足し算と割り算と引き算なんだ。具体例・経験談を交えて何度も教わったあの期間は非常に貴重だった。特捜経験もあり、在外研究もし、英語も上手な立派なキャリアであるのに、誰よりもその物言いや態度はいつも腰が低かった。久々のメールでもそうだった。

さて、ひるがえって私はどうなのか…。

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ブラジル – サンパウロ連邦州裁判所(連邦刑事・連邦民事)

さてさて、あまり企業法務と関係ないところだが、連邦刑事裁判と社会保障裁判を見学しに連邦州裁判所の見学をしてきた。Rua Ministro Rocha Azevedo 25にある連邦州裁判所だ。パウリスタ大通りに近いこの裁判所は、入り口が狭く、裁判所らしからぬ入り口と外見は窓がほとんど見当たらずコンクリートの塊のような建物である(10階までが連邦刑事で、11階から15階までが連邦民事で社会保障を取り扱う部署が含まれていた)。なお、社会保障裁判の制度については、こちらが日本語で書いてある文献としては比較的詳しい(Web上に公開されている書籍が、ページの順番が乱れていた…)。

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ブラジル – 契約法実務・基礎編:販路拡大に関する契約(販売代理店契約)

ブラジルで契約書のレビューをお願いされることがある。法律事務所に勤める以上、当然といえば、当然なのだが、どの契約書をどのように見ておけばいいのか、日本法や米国法の常識は通じるのか等不安に思うことが多いほか、特にブラジル特有の特殊な規制や考慮しておいたほうがいい条文等があるのかないのかはよく不安になったものだ。いまでは経験をいくばくか踏み込んできたもので、見慣れたもののレビューならば比較的早く終えることが出来るようになったものの、当初は大変苦労したものだ。ということで、ここでは販売代理店契約について。

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ブラジル – リオデジャネイロ・労働裁判所(2)

以前ブラジルのリオデジャネイロ州・リオデジャネイロ市にある労働裁判所について触れた。ところ、今回は、裁判官学校や高等労働裁判所について触れてみたいと思う。

労働裁判所は(その歴史的沿革から)従前行政側の機関であったということもあり、通常の民事裁判所や刑事裁判所とはまるでその仕組み・構造が異なる。裁判所ですら、古い建物は労働雇用省と併設される形で設立されていることも多いと伺っている(リオデジャネイロ・労働裁判所はブラジル国内で一番古い労働裁判所ということもあって、労働雇用省と同じ建物であった)。なお、(労働法遵守のための)労働検察官という立場もあり、労働雇用省の管轄下と思いきや別途の組織下であるらしい。

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ブラジル -相続

人の死には、大事なイベントの一つである。

私の大好きな映画の一つであるキングスマンでも、コリン・ファース演じるスパイであるハーリー・ハットが「紳士の名前が新聞に載ってもいい日は、生まれた日、結婚した日そして死んだ日の三回のみである」(A gentleman’s name should appear in the newspaper only three times: When he’s born, when he marries, and when he dies.)と述べている。そのうち、「死」には相続としてその財産分配方法等に法律が関連するのである。

ということで、(キングスマンの映画は英国スパイで、リオデジャネイロのシーンは出てくるものの、ブラジルにはほとんど関係ないが…)ここではブラジルの相続について触れてみたいと思う。なお、相続の問題といっても、個人企業がまだまだ多いブラジルではM&Aの文脈でもよく問題になる。当該保有している持分等が両親からの相続による取得だったものの、当該相続手続が適切に行われていなかったといった具合にだ。ということで、企業法務のことを中心に記載しているこのブログだが、相続についても触れていこう。食わず嫌いせずに。

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ブラジル – リオデジャネイロ・労働裁判所

ブラジルのリオ・デジャネイロにある労働裁判所(Tribunal Regional do Trabalho 1a Região)および高等裁判所等に行ってきた。ウェブサイトはこちら

「1a」とは英語でいう1stに等しい意味だが、もともとリオ・デジャネイロがブラジルの首都であった関係で、一番最初に出来た労働裁判所という意味があり、1stと付されている。なお2aはサンパウロにある。

さてさて、見学してきた労働裁判所の様子を説明しておくこととしよう。ブラジルにいる日本企業も、また日本企業の出資する企業も、多くの労働紛争を抱えているのだから(統計上おおよそ10人に1人が労働裁判を抱えている計算と言われている)、これをご覧いただいている日本人の誰かのご参考になるのではないかと信じて。

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