ブラジル – 民法改正(Limitadaにおける取締役解任方法の変更)

2019年法13792号(「本改正」)が2019年1月4日施行され、Limitadaにおける取締役の解任方法が変更された。

従前では、Limitadaにおける取締役の解任は、原則として、少なくとも持分の3分の2の賛成が必要とされており、現地ローカルパートナーとの比較的持分が均衡しているケース(51:49等)では、現地ローカルパートナーの取締役を排除できず、現地の事業がスタックするという悩みがよく見受けられた。

本改正により、定款に別段の定めがない限り、持分権者が取締役となっている場合において、持分の過半数の決議により、かかる取締役を排除することが可能となった。

ブラジル子会社のガバナンス運営に影響を与える本改正による具体的排斥事例はまだ見当たらないが、今後の運用が期待される改正であることには間違いないだろう。

 

ブラジル – 担保物権(基礎)

ブラジル担保法制・担保権(security interest)について触れてみる。ブラジルの不動産に関する担保には、抵当権(Hipoteca)や譲渡担保(Alienação Fiduciária)といったものが代表的なものとして挙げられるところ、これらについて触れてみるとする。

担保権に関する英語と日本語の訳をうまく使い分けることも難しい。例えば、M&Aの契約(株式譲渡契約)上の表明保証の文脈で、以下のような実例があるところ、どう訳すのが適切かどうかふんふん悩むというのが、私の経験上よくあった。

Seller is the lawful owner of all the Company’s Stock, free and clear of all security interests, liens, encumbrances, pledges or other charges.

(仮訳)売主は、いかなる担保権、リーエン、負担、質権またはその他の担保権の設定がない状態で、本件会社株式の全部の合法的所有者である。

と、仮訳をささっと書いてみたが、lienを「リーエン」と訳するのが適切なのか、日本法上「リーエン」も「負担」などという用語も存在せず、どちらかといえば先取特権等にした方がいいのではないか、いやはや、そもそも訳として成立していないのではないかや、chargesとsecurity interestsを同じ「担保権」と訳してしまっているのだがそれで問題ないかと悩みはつきない。

ということで、まずは英法における担保権について日本法と比較しながらごく簡単な説明を加えたうえで、ブラジル担保法制について触れていくこととしよう。

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ブラジル:Non-compete(競業避止義務)条項の有効性

日本法上、取引基本契約やJV契約等において、競業避止義務を負わせる規定を入れることはよく検討される。競業避止義務は、通常無制限に有効なものではなく、労働法や競争法等の制約を受けることがあり、当事者の地位や制限する内容・期間等とあわせて検討されることが通常だ。

それでは、ブラジルではどうなのか…。とりあえず、ここでは話をシンプルにするために、競争法の話を除外し、契約法・労働法の観点から考えてみたいと思う。

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ブラジル – 契約:何語で契約書を作成するか?

ブラジルの法律は細かい。雑なつくりなのだが、思わぬところに規制が書かれていたり、また、規制が書かれていても、その効果が不明確であったりすることがある。そんな話は去年制定された国営会社に関するコンプライアンスの法律(2016年法13303号  – Lei de Responsibilidade das Estatais)にもあったのだが、ここでは、もっと基本的な法律でもそのような話のご紹介を…。

契約書を何語で作成するのかについて、ブラジル法上ルールがあるのか?ということ…

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ブラジル – 契約法実務・基礎編:販路拡大に関する契約(販売代理店契約)

ブラジルで契約書のレビューをお願いされることがある。法律事務所に勤める以上、当然といえば、当然なのだが、どの契約書をどのように見ておけばいいのか、日本法や米国法の常識は通じるのか等不安に思うことが多いほか、特にブラジル特有の特殊な規制や考慮しておいたほうがいい条文等があるのかないのかはよく不安になったものだ。いまでは経験をいくばくか踏み込んできたもので、見慣れたもののレビューならば比較的早く終えることが出来るようになったものの、当初は大変苦労したものだ。ということで、ここでは販売代理店契約について。

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ブラジル – 消費者保護法制の日本との相違点・具体例

ブラジルにも消費者保護法制はある。消費者は事業者に比し保護されるべきものだ。事業者は消費者に対しよく説明しなければならない。といったおおまかなコンセプトは日本と同じだ。ただ、各論に入ったりすると、違いがあるので、「同じ」消費者保護法制があると言い切ることはできない。

その具体例の一つが消費者に対する契約だ。ということで、ここで取り上げてみる。

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ブラジル – 裁判:裁判見学(サンパウロ州高等裁判所)

ブラジル・サンパウロ市にて、サンパウロ州高等裁判所の裁判を見学してきた。サンパウロ州高等裁判所はセ広場そば(セ・カテドラルのそば)、USPのロースクールのそばにあり、立地としては旧市街の真ん中にあるといえよう。旧市街は、現在経済状況の悪化に伴い治安が悪化しており(と言われており)、また建物や公共施設の老朽化が進んでいるということもあり、夜間を徒歩で歩き回ることはお勧めできないが、日中の徒歩での歩き回りは(歩きながら携帯電話を使わないといった一定の注意を払えば)問題ないように感じている。

というところで、そんな州高等裁判所の見学状況について説明する。

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ブラジル – Corporate:定款記載時の注意

日本では、事業目的は定款に記載しなければならない(日本会社法第27条)。ということで、日本の株式会社の定款においては、将来の事業の柔軟な拡張を視野に入れ、幅広な定款を記載する例がいくつか見受けられる。しかし、ブラジルでは必ずしも同じように考えてはいけない。

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ブラジル -契約法・実務では…

日本企業で、ブラジルに出資する会社、販路を広げたい会社にとって、契約は非常に大事である。何よりもブラジルは訴訟社会であり、また、時間の流れも(日本に比べ)ルーズであり、デモ・政治が不安定なことから、(口頭ではなく)契約書を締結しておく必要性も非常に高い。

そこで、ブラジル国内における契約書作成・締結にあたって、実務的な質問を2つほど取り上げたいと思う。


I – ブラジルでの製品販売契約書はポルトガル語で作成する必要がありますか?また、ポルトガル語の翻訳を用意する必要はありますか?

ブラジル法上、上記契約につきポルトガル語で作成しなければならない義務はありません。また、翻訳を用意しなければならないということもありません。

なお、許認可の登録関連で監督官庁等への提出が必要となる場合は、翻訳とともに公証を受けなければならない場合がありますが、単なる販売契約で、そのような提出が必要となる事態は通常考えがたいです。

II – 仮に、ポルトガル語で作成する法律上の必要がないとしても、実務上の何らかのデメリットはありますか?特に、大企業と中小企業が契約を英語で締結し、(母語でない)英語であるがために(通常語学能力が大企業に比べ長けていない)中小企業側に裁判上有利に解釈されるということはありますか?

後々訴訟になった場合に、上記英文契約をポルトガル語に翻訳し、証拠として提出する必要が出てくる可能性があります。裁判所は、ポルトガル語以外の言語の書証の場合、翻訳を要求するのが通常です。また、母語でない言語という一事情をもって(また、これを考慮要素として)、中小企業側に有利な解釈をしたという裁判例は現在のところ見当たりません。


この論点に関する日本法の小話

  • このIIに付随して、日本の最判平成28年3月15日メリルリンチ対旧武富士(TFK)事件を取り上げよう。旧武富士(現TFK)が、金融取引で巨額損失を被ってメリルリンチ日本証券(ML)等に約290億円の損害賠償を求めたケースである。
  • 一審の東京地裁と最高裁では、TFKの請求が全部棄却され、メリルリンチ側の全面勝訴で終わった。ただ、この事件では、控訴審の東京高裁が約145億円の支払を命じていたので、メリルリンチ側の逆転勝訴等と報道され、注目された。その結論の分かれ目は、メリルリンチが説明義務を尽くしたか否かであった。
    • このとき、東京高裁では、説明義務違反の有無は、本件ディフィーザンス取引の組成、スキームに照らし、損失の可能性を具体的に説明し、TFK担当者らが説明を理解できていたのかどうかという観点から判断するのが相当であるところ、MLが、TFKに対して行った、それぞれの説明は時期が遅すぎるとか、英文のものを交付しただけで和訳を交付していないことは不十分である等として、説明義務違反があったと判断したのである。
    • なお、この東京高裁の判断は最高裁でひっくり返っており、和訳を交付していないことは説明義務違反の考慮要素にはならないとされている。(本件仕組債がMLの販売経験が不十分な新商品であったにもかかわらず、金融取引についての詳しい知識を有していないTFKの担当者である取締役兼執行役員兼財務部長その他の職員らに対して本件英文書面の訳文が交付されていないことは、国際的に金融事業を行い、本件取引について公認会計士らの意見も求めていたTFKがリスクを理解する支障になるとはいえない。とされている…。公認会計士ら外部の責任も問題となりうるように思われる。)

ブラジルでビジネスをはじめようとする日本企業の皆様の少しでもお役に立てれば。

ブラジル – 担保概論

日本でも担保権設定については、各種案件によりさまざまな手法がとられるが、ブラジルでの担保権設定においても同様のようである。ここでは、各担保設定に関する細かい議論には立ち入らないものの、全体を俯瞰するような記載を残しておきたいと思う。

I – ここ最近2-3年の担保権設定に関する話題

2014年8月7日に連邦政府が規則656号により、不動産担保設定に関する新たなルール(Letras Imobiliás Garantidas – LIG)が設けられたということである。この規則は、法2015年13097号に含まれている。

LIGは、ヨーロッパ圏のcovered bond(カバード・ボンド・社債のうち住宅ローン債権等の資産の裏づけのあるもの)に類似するといわれており、主に以下の性質を有する。

  • 金融機関により発行されるものであること
  • 不動産に関する債権(平たくいえば、住宅ローン)に関するものであること
  • 先順位(senior)無担保債権者と同順位に取り扱われること(パリパス)

上記に加えて、カバード・ボンドとの違いとしては、以下の特徴が挙げられる。

  • LIGに関する資産プールにつき、第三者への関与がないこと
  • 一定の政府発行証券(Titulos do Tesouro Nacional)による裏づけが得られる場合があること

II – 資産に対する担保権設定の手法

(1) 不動産に対する担保権設定

不動産は土地およびその定着物であるが、これらに関連する主な担保権設定手法としては、抵当権設定および信認関係(フィデューシャリー)に基づく譲渡である。

  • 抵当権設定:ブラジル法上、抵当権は不動産上に存するリーエンであり、その付着物も当該土地に抵当が付された場合にはこれに含まれる。
    • 「リーエン(英語:lien)」は、一般に先取特権と訳されることが多い。但し、英語でいうLienは、一般に「法定」と「約定」の先取特権双方を意味することが多いことに対し、日本法の先取特権は、通常「法定」の先取特権を意味する。抵当権は法定で付されるというものよりは約定で付されるものが多いイメージということもあり、上記一般の翻訳と異なり、また単にカタカナをあてていること自体は私の主義(翻訳には出来る限り、日本語の語彙をあてる)には反するのだが、仕方なくLienの訳語として、リーエンを採用している。
    • もちろん、ブラジル法上の抵当権と日本法上の抵当権も似ているものの、概念が必ずしも一致しているわけではない。
  • 信認関係(フィデューシャリー)に基づく譲渡:期限までの支払いを約したうえで、債務者から債権者への一定期間の所有権の移転を行う。当該支払い後、債務者は当該不動産や資産の所有権を取り戻すことができることとなる。
    • 日本法上の不動産質権(第356条)とは違い、所有権の移転も行う。
    • ある種所有権留保特約付売買契約(Purchase agreement with title retention)と似ているのではないかとも思われる。

これら担保権設定においては、双方とも、書面(債権額・支払期限・利率および担保物を特定するに必要な情報の記載があることが必要)によることが必要であって、不動産登記局への登録が必要である。

また、信認関係に基づく譲渡の場合は、更に、強制執行手続および対象不動産の価値も記載する必要がある。

(2) 動産に対する担保権設定

  • 質権設定:一定の例外はあるものの、動産に担保権を設定することができる。なお、これを設定するためには、占有を移転させる必要がある(この点、日本法の質権設定と同様)。また、担保物の種類により異なる質権がある(農作物質権・工業/産業質権・証券/債権質権・車両等質権等)。
  • 信認関係(フィデューシャリー)に基づく所有・譲渡:代替可能資産に関する法的所有権の移転は、金融資本市場において可能とされている。これらは第三者対抗要件のため、登録されなければならず、書面にて作成されなければならない。

これら担保権設定においても、書面(債権額・支払期限・利率および担保物を特定するに必要な情報の記載があることが必要)によることが必要である。加えて、債権者・債務者双方による契約締結が必要とされている(加えて、二人の証人があれば望ましい)。

設定に加えて、対抗要件具備(Perfection)のためには、関連登記局への登記が必要である。加えて、質権は、占有移転も必要な点は重ねて注意されたい。