日本でも担保権設定については、各種案件によりさまざまな手法がとられるが、ブラジルでの担保権設定においても同様のようである。ここでは、各担保設定に関する細かい議論には立ち入らないものの、全体を俯瞰するような記載を残しておきたいと思う。
I – ここ最近2-3年の担保権設定に関する話題
2014年8月7日に連邦政府が規則656号により、不動産担保設定に関する新たなルール(Letras Imobiliás Garantidas – LIG)が設けられたということである。この規則は、法2015年13097号に含まれている。
LIGは、ヨーロッパ圏のcovered bond(カバード・ボンド・社債のうち住宅ローン債権等の資産の裏づけのあるもの)に類似するといわれており、主に以下の性質を有する。
- 金融機関により発行されるものであること
- 不動産に関する債権(平たくいえば、住宅ローン)に関するものであること
- 先順位(senior)無担保債権者と同順位に取り扱われること(パリパス)
上記に加えて、カバード・ボンドとの違いとしては、以下の特徴が挙げられる。
- LIGに関する資産プールにつき、第三者への関与がないこと
- 一定の政府発行証券(Titulos do Tesouro Nacional)による裏づけが得られる場合があること
II – 資産に対する担保権設定の手法
(1) 不動産に対する担保権設定
不動産は土地およびその定着物であるが、これらに関連する主な担保権設定手法としては、抵当権設定および信認関係(フィデューシャリー)に基づく譲渡である。
- 抵当権設定:ブラジル法上、抵当権は不動産上に存するリーエンであり、その付着物も当該土地に抵当が付された場合にはこれに含まれる。
- 「リーエン(英語:lien)」は、一般に先取特権と訳されることが多い。但し、英語でいうLienは、一般に「法定」と「約定」の先取特権双方を意味することが多いことに対し、日本法の先取特権は、通常「法定」の先取特権を意味する。抵当権は法定で付されるというものよりは約定で付されるものが多いイメージということもあり、上記一般の翻訳と異なり、また単にカタカナをあてていること自体は私の主義(翻訳には出来る限り、日本語の語彙をあてる)には反するのだが、仕方なくLienの訳語として、リーエンを採用している。
- もちろん、ブラジル法上の抵当権と日本法上の抵当権も似ているものの、概念が必ずしも一致しているわけではない。
- 信認関係(フィデューシャリー)に基づく譲渡:期限までの支払いを約したうえで、債務者から債権者への一定期間の所有権の移転を行う。当該支払い後、債務者は当該不動産や資産の所有権を取り戻すことができることとなる。
- 日本法上の不動産質権(第356条)とは違い、所有権の移転も行う。
- ある種所有権留保特約付売買契約(Purchase agreement with title retention)と似ているのではないかとも思われる。
これら担保権設定においては、双方とも、書面(債権額・支払期限・利率および担保物を特定するに必要な情報の記載があることが必要)によることが必要であって、不動産登記局への登録が必要である。
また、信認関係に基づく譲渡の場合は、更に、強制執行手続および対象不動産の価値も記載する必要がある。
(2) 動産に対する担保権設定
- 質権設定:一定の例外はあるものの、動産に担保権を設定することができる。なお、これを設定するためには、占有を移転させる必要がある(この点、日本法の質権設定と同様)。また、担保物の種類により異なる質権がある(農作物質権・工業/産業質権・証券/債権質権・車両等質権等)。
- 信認関係(フィデューシャリー)に基づく所有・譲渡:代替可能資産に関する法的所有権の移転は、金融資本市場において可能とされている。これらは第三者対抗要件のため、登録されなければならず、書面にて作成されなければならない。
これら担保権設定においても、書面(債権額・支払期限・利率および担保物を特定するに必要な情報の記載があることが必要)によることが必要である。加えて、債権者・債務者双方による契約締結が必要とされている(加えて、二人の証人があれば望ましい)。
設定に加えて、対抗要件具備(Perfection)のためには、関連登記局への登記が必要である。加えて、質権は、占有移転も必要な点は重ねて注意されたい。