ブラジル – 民法改正(Limitadaにおける取締役解任方法の変更)

2019年法13792号(「本改正」)が2019年1月4日施行され、Limitadaにおける取締役の解任方法が変更された。

従前では、Limitadaにおける取締役の解任は、原則として、少なくとも持分の3分の2の賛成が必要とされており、現地ローカルパートナーとの比較的持分が均衡しているケース(51:49等)では、現地ローカルパートナーの取締役を排除できず、現地の事業がスタックするという悩みがよく見受けられた。

本改正により、定款に別段の定めがない限り、持分権者が取締役となっている場合において、持分の過半数の決議により、かかる取締役を排除することが可能となった。

ブラジル子会社のガバナンス運営に影響を与える本改正による具体的排斥事例はまだ見当たらないが、今後の運用が期待される改正であることには間違いないだろう。

 

ブラジル – 新大統領ジャイル・ボルソナロ氏

ブラジル大統領選が終わり、10月28日、右派社会自由党のジャイル・ボルソナロ氏が左派労働者党のフェルナンド・アダジ氏を破り、2019年1月1日より、ブラジル次期大統領となることが決まった。選挙を経ずに、大統領へ就任したミシェル・テメル氏への支持率は非常に低かったところ(調査媒体によるが、テメル氏の支持率わずか2%とするものも見受けられる)、ボルソナロ氏に対する不満が多々見られるにせよ、テメル氏時代よりは国民の支持率の高い政権が近々誕生するであろう(いつまで比較的高い支持率が維持できるかは問題であるが、少なくとも1月1日に発足して支持率2%ということはないだろう…)。

そして、今後何が起こるのかということを予想するのが大事な局面になるが、2003年から2016年の13年間にわたり左派労働者党が握っていた政権が、右寄りの政権に渡されたということは間違いない。ほか、ボルソナロ氏が選挙中主張していたこととして記憶に残ることは、以下のとおりである。

  • 銃の所有・所持に関する規制の緩和
  • 小さな政府への変更(政府の「不用品」の削減・経済への介入の低減)
  • パリ条約の離脱
  • 汚職撲滅
  • 犯罪取締強化
  • 社会保障・年金改革

また、ボルソナロ氏の経済面に関するブレーンともいわれるパウロ・グエデス氏の動向も気がかりだ(同氏は、国営企業の年金基金が関係する不透明な資金のやり取りで、連邦検察当局の捜査対象となっているが、市場は同氏の起用に対し好意的な模様)。

1月就任後もしばらく(100日程度)の間はいわゆるハネムーン期間であり、マスコミも含め暖かく見守る期間が続くことが想定されるが、この間に制定される政策からは目が離せないだろう。

Jair_Messias_Bolsonaro

(ジャイル・ボルソナロ氏の顔写真(こちらより))

ネタに尽きないブラジルだ…。

Latin America – M&A の状況 (2017年を振り返る)・M&A王者の法律事務所はどこか?

ブラジル大統領選挙を踏まえ、いささか動きが鈍いブラジルのM&Aリーガル状況を含む、ラテンアメリカのM&Aの状況について触れてみる。なお、本稿における事実関係については、Latin Lawyerの第2四半期のレポート(こちらから入手可能)に専ら依拠している。

ラテンアメリカのM&Aの規模でいうと、2017年でいうと、おおよそ年間130十億米ドル規模であり、その半分がブラジル関連である(Latin Lawyer Special Reportによる)。なお、全世界でいうと、Thomson Reutersの記事によると、(年間ではなく)2018年上半期で、2.5兆米ドル規模である。

Latin AmericaのM&Aのリーガル・アドバイザーを見ていると、1つ・2つのM&Aチャンピオン法律事務所とでもいうべき事務所が存在する。アルゼンチンでいうとMarval O’Farrell & MairalかBruchou Fernández Madero & Lombardi、ブラジルでいうとMattos Filho Veiga Filho Marrey Jr e Quiroga Advogadosか(最近若干2番手というイメージが強くなっているが、依然として日本企業に対するプレゼンスでは非常に強い) Pinheiro Neto、チリでいうとCarey、コロンビアでいうとBrigard & Urrutia、メキシコでいうとCreel García-Cuéllar Aiza y Enríquez、ペルーでいうとRodrigo Elías & Medrano Abogadosということになろう。これら法律事務所はいずれも外資系ではなく、国内独立系の法律事務所である。また、上記で挙げた法律事務所のM&Aにおけるリーガル・サービスが絶対No.1と言いきるつもりはないが、これら事務所は各法域においてM&Aの法分野における確固たる名声をいずれも築きつつある状況である。

なお、Latin Lawyerの確認した1000超の2017年のM&A取引において、外資系法律事務所の関与はおおよそ5分の1程度とされているものの、注意すべきは大型案件の多くにおいてそれらの関与が見られる点である。500百万米ドル超の大型案件においてはおおよそその73%において、外資系法律事務所が関与しているというのであるから驚きである。効率がよい営業活動をしているのか…。日本の法律事務所が、クロス・ボーダーM&A分野において、外資系法律事務所と闘っているのと、あわせてブラジルの法律事務所が、外資系法律事務所と闘っているのを見るのは参考になる。

 

 

 

 

ブラジル – 大統領選(#Ele não)

社会自由党のジャイル・ボルソナロ氏か、労働党のフェルナンド・アダジ氏か、右か左かという両極端且つブラジル人の代表を選ぶにはなかなか難しい状況が続いているが、いずれにせよ、10月28日の決選投票ではどちらかが選ばれる。

ボルソナロ氏は、その過激な発言から、ブラジルのドナルド・トランプと言われ、銃規制の緩和を叫び、女性軽視発言やLGBTに対する理解の低さを示す発言から反発する人も多いと聞く。

他方、従前大統領を排出していた労働党に対しても、長年の景気低迷や治安の改善が見られない状況、そして何よりも汚職・政治腐敗のイメージが強く、それに対して強く反発する人も多いと聞く(前職大統領のジルマ・ルセフ氏の落選もそれを象徴していると言えるだろう)。

Last Week Tonight with John Oliverが、このような状況を皮肉って報道していたが、どうなるものやら。これが現実でないならば笑い話で済むところが、現実なのが恐ろしいところだ(かかる番組で紹介されている、X-menのウルヴァリンを模した男の動画など選挙に関するものというよりもジョークにしか見えないし、ルーラ氏・アダジ氏の名を裏表に記載したくるくるする看板もどうして収賄で12年間の実刑判決を食らった男の後継者と宣伝したがるのだろうかよくわからない(それだけルーラ氏の人気があることの表れなのだろう…)…)。

どちらが選ばれようとも、どちらの所属党も議会で過半数が取れておらず、共同して今後の政権運営をしていかなければならないゆえ、極端なことはできないのではないかといったブラジル人の友人の意見を聞くが、どうなることやら…。

なお、facebookやtwitterで#Ele nãoのハッシュタグが先月ころより流行っている。当初は過激な発言を繰り返しているボルソナロ氏を指しているのかと思っていたが、先日ブラジル人の数人に話を聞いたところ、どいつもダメだと、そういう意味で今はみんな使っているんじゃないかということだった(少なくとも#Ele nãoを使用しているからといって、アダジ氏を支持していることを意味しているわけではないということ)。

 

ブラジル – 担保物権(基礎)

ブラジル担保法制・担保権(security interest)について触れてみる。ブラジルの不動産に関する担保には、抵当権(Hipoteca)や譲渡担保(Alienação Fiduciária)といったものが代表的なものとして挙げられるところ、これらについて触れてみるとする。

担保権に関する英語と日本語の訳をうまく使い分けることも難しい。例えば、M&Aの契約(株式譲渡契約)上の表明保証の文脈で、以下のような実例があるところ、どう訳すのが適切かどうかふんふん悩むというのが、私の経験上よくあった。

Seller is the lawful owner of all the Company’s Stock, free and clear of all security interests, liens, encumbrances, pledges or other charges.

(仮訳)売主は、いかなる担保権、リーエン、負担、質権またはその他の担保権の設定がない状態で、本件会社株式の全部の合法的所有者である。

と、仮訳をささっと書いてみたが、lienを「リーエン」と訳するのが適切なのか、日本法上「リーエン」も「負担」などという用語も存在せず、どちらかといえば先取特権等にした方がいいのではないか、いやはや、そもそも訳として成立していないのではないかや、chargesとsecurity interestsを同じ「担保権」と訳してしまっているのだがそれで問題ないかと悩みはつきない。

ということで、まずは英法における担保権について日本法と比較しながらごく簡単な説明を加えたうえで、ブラジル担保法制について触れていくこととしよう。

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ブラジル – 個人情報保護法成立(8月23日追記)

ブラジルで個人情報保護法が成立しそうである。

従前より、ブラジルにおいて個人情報保護法に相当する分野横断的な法律は存在せず、消費者保護法や税法当各種業法において一定の制約があるに過ぎなかったと説明してきた。

このようなところ、2018年7月10日、ブラジル議会上院は、分野横断的な個人情報の取扱いに関する法案(2018年法案(PLC)第53号)を可決した。現在、本法案は大統領による承認待ちの状態であり、かかる承認後、官報公告の日から18カ月後に施行される予定である。

ヨーロッパのGDPRに類似し、域外適用や違反につきブラジル国内のグループ売上の2%の罰金(最大1回5000万レアル(約15億円))が課せられる可能性があるなど、日本企業への関心も高いところである。

当初7月中の大統領承認が予定されていたものの、2018年7月31日現在、当該大統領承認は8月中旬ころまで延期されたとのニュースを得た。大枠で大統領の承認は得られるであろうとのことだが、行政予算の厳しいなか個人情報保護委員会(Autoridade Nacional de Proteção de Dados(ANPD))といった新しい監督官庁の設立を大統領が認めるかというところは依然不透明であり、引き続き動向を見守る必要がある。

久々の投稿になってしまったが、今後も時間あるときにアップデートしていきたい。


(8月23日追記)

8月14日、上記大統領承認が得られた。上記ANPDに関する点を含め、一部大統領による拒否権が行使されたものの、大筋上記法案どおりに立法化された(2018年法13709号)。8月15日付で官報公告(こちら)されており、2020年2月には施行される予定である。

ブラジル:Non-compete(競業避止義務)条項の有効性

日本法上、取引基本契約やJV契約等において、競業避止義務を負わせる規定を入れることはよく検討される。競業避止義務は、通常無制限に有効なものではなく、労働法や競争法等の制約を受けることがあり、当事者の地位や制限する内容・期間等とあわせて検討されることが通常だ。

それでは、ブラジルではどうなのか…。とりあえず、ここでは話をシンプルにするために、競争法の話を除外し、契約法・労働法の観点から考えてみたいと思う。

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ブラジル – 契約:何語で契約書を作成するか?

ブラジルの法律は細かい。雑なつくりなのだが、思わぬところに規制が書かれていたり、また、規制が書かれていても、その効果が不明確であったりすることがある。そんな話は去年制定された国営会社に関するコンプライアンスの法律(2016年法13303号  – Lei de Responsibilidade das Estatais)にもあったのだが、ここでは、もっと基本的な法律でもそのような話のご紹介を…。

契約書を何語で作成するのかについて、ブラジル法上ルールがあるのか?ということ…

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ブラジル – 労務:おさらいと基本(その2:「労働者 / empregado」の意義)

ブラジルの労働法については、いままで何回も触れてきたところではあるが、改めて、基本的なところの復習ということで、今回は、「労働者/employee」の異議について考えてみようと思う。

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ブラジル – 現在の政権の状況・動きをどうにらむか

2016年8月31日、政府会計を不正絵操作した背任罪で職務停止となっていたルセフ・ジルマ大統領の罷免が決まった。同年5月ころの職務停止の間に、代行を務めていたミシェル・テメル氏が正式に大統領になった(任期は2018年末まで)という日にブラジルに滞在しており、各種報道がなされていたことが懐かしい。

そう思っていたら、2017年5月17日、連邦最高裁判所が、テメル大統領が、2010年以降、多額の賄賂を受け取っていたという証言記録を公開した。この証言は、司法取引に応じた大手精肉業者(JBS・ジョエスレイ・バチスタ/Joesley Batista会長ら)からのもの。

政治腐敗問題から脱却し、一刻も早く財政再建へ経済問題対応へと向かってほしいところだったのに…。この国の現状を改めて記録しておく。

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