ブラジル – 今後の景況感(2015年度JETRO調査)

2015年10月26日~11月29日までにかけて、中南米7カ国に進出する日系企業(日本側による著口説、間接の出資比率が10%以上の企業)に対し、これらの経営状況やビジネス環境の状況を把握するために、JETROが調査を行った。なお、この調査は、1999年より実施されており、2015年度で第16回目となる。

この調査結果は、こちらから見ることができる(日本語版英語版スペイン語版)。776社以上に回答を依頼し、400社より有効回答を得たものだが、なかなかラテンアメリカのなかにおける日系企業のユニークさを示す資料であり、是非とも本文を読んでおいていただきたいのだが、このうち、ブラジルに関する調査結果に監視、特に私自身が興味深いと思った点を雑多に記載する。

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ブラジル – ブラジルの裁判官・検察官

ブラジル法の弁護士になるための流れについては、こちら

ここでは、ブラジルでの裁判官・検察官のキャリアについて記載したいと思うが、その前に、「法曹一元」という言葉について説明をしておきたい。

I – 法曹一元

法曹一元とは、端的に言ってしまえば、弁護士経験者から裁判官・検察官を任用する制度、または弁護士に限らずそれに付随する法曹経験者から裁判官・検察官を任用する制度をいう。法曹一元は、在野法曹(もっぱら弁護士)が司法運営に責任を持つ(裁判官キャリアの一つ)ということが明確になり、円滑で能率的な司法運営が期待できるという点が長所として挙げられている。加えて、弁護士は、国民とより直接のつながりを持っており、裁判官を国民的基盤に基づいて任用することで、司法部の魅力が高まるとも言われている。


日本(大陸法系の国のひとつ)では、法曹一元(司法に携わる弁護士・裁判官・検察官の法理解)が、現在のところ、大学および/または法科大学院(日本版ロースクール)での法学部教育に加え、司法試験ならびに司法試験合格後の司法修習といったところで一部実現されている。なお、いわゆる純粋な法曹一元制は、英米法系(コモン・ロー)の国々で採用されており、大陸法系(シビル・ロー)の国々では、キャリア裁判官・キャリア検察官として弁護士経験を必要とせず、直ちに、裁判官・検察官に任用されるキャリア制度がとられていると言われている。

この点、日本は、(敗戦後、米国法の影響を強く受け、)裁判所法第42条第1項により、判事の資格は、10年以上の法曹・法律学者としての経験が必要とし、法曹一元を前提としているような規定ぶりを置くものの、同時に、裁判所法第43条は司法修習を修了したものから直ちに判事補を採用することができるとし、10年判事補として経験を積んだ者も判事の資格を有するとし、こちらのルートから判事になる者がほとんどであり、実質キャリア制度を採用しているといえる現状である。1988年に、弁護士任官制度が導入されたものの、実施件数は非常に少なく、2016年現在のところ、裁判官の人数の割合にし、数%にも満たない数字である。また、判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律に基づき、判事補及び検事が、在野に2年ほど出向し、弁護士として業務を営むという制度があり、法律事務所のみならず、一部企業がこれを受け入れるという体制が出来つつある。


 

II – ブラジルでの裁判官・検察官

ブラジルで裁判官・検察官になるためには、ブラジル法の弁護士となるためと同様、ブラジル国内の認められたロースクールを卒業する必要がある。もっとも、ブラジルには、法曹一元という制度がロースクール制度(5年間のロースクール)限りで担保されているに過ぎず、その余は、別個の試験を受ける必要がある(裁判官になるための試験と検察官になる試験は別個であり、これらを受けるためにも弁護士のための試験(いわゆる司法試験)の合格は必要条件ではない)。これら個別の試験に合格すること、所定の要件、例えば、裁判官の場合は数年以上の法律関連の業務に携わることが、ブラジルで裁判官や検察官になるために必要となってくる。

この点、ブラジルでは、一般的に公務員の給料は、民間のそれと比べて格段に良い。弁護士事務所と比べても良いといえよう。伝え聞いたところで、正確性には担保できないものの、裁判官の初任給で20,000レアル/月を超える金額をもらえるということを伺った(これは、時点がクリアでないので、比較の対象として正しいかどうかもよくわからないのだが、シニアの弁護士での月額の売上にも相当する!ブラジルでのシニアの弁護士での売上等についてはこちらで以前触れた)。また、何よりも、ブラジルでは、公務員に対する年金が非常に手厚いということも触れておこう(以前勤務していたときの給料と同額程度を死ぬまでもらえる、そしてその配偶者は仮に当該裁判官が先に死亡した場合にはその配偶者が死ぬまでその金銭を受領する権利は続くといったようなことを、ブラジル人裁判官より伺った・・・)。

これに対し、日本の裁判官の給料はさして飛びぬけてよいものではない。Wikipediaからの表の抜粋となり、申し訳ないが、(見やすいということもあり)ここで紹介しておく。

Judge Japan

初任の裁判官は、判事補12号として、そのキャリア(月額22万8700円)をスタートさせ、勤続10年で判事8号(月額52万6000円)となるのが一般的である。もちろん、日本の裁判官に対しては、福利厚生も手厚いと伺っており、その細かな内容については、しがない弁護士では知ることもないのだが、ブラジルのように飛びぬけて手厚い保護を受けているようではないように見受けられる。

また、ブラジルでは、一人の裁判官が非常に多数の裁判を抱えているということも珍しくなく、数千件単位で事件を抱えている。それを処理していくため、裁判官一人に対し、多くのスタッフ(20名を超えるような)が割かれているということも付け加えておこう。

同じ裁判官といっても、国を超えると状況も全然異なるようだ。ブラジル・日本の弁護士の差よりもその差は大きいような気がする。

ブラジル – 弁護士事情・州ごとの人数(2016年)

ブラジルの弁護士には、OAB(Ordem dos Advogados do Brasil)という監督官庁がいる。

  • なお、2011年10月26日のブラジル連邦最高裁において、同弁護士会が実施する弁護士資格試験が有効である旨の判断が下されている。これは、法学士のジョアン・ボランチ(João Volante)氏が、OABの試験に合格しなくても弁護士活動ができるべきとして、憲法の保障する職業選択の自由に反する旨主張し、訴訟を提起したものに対する判断だ。

ということで、OABによる司法試験が行われているのであるが、OABのウェブサイトに各州の登録人数が記載されており、同サイトによれば、2016年5月23日時点の各州の弁護士人数は以下のとおりである。現在ブラジル全土で97万6297人であり、サンパウロ州では30万人弱である。

  • なお、一部マニアのひとしか興味がないだろうが、1933年から1970年のブラジル弁護士の人数は以下のとおりである。1970年時点で、日本の近年2015年に相当するほどの弁護士数をかかえていることにも驚きだが、そこから、2016年の46年ほどで20倍以上にも人数が膨れ上がっていることにより大きな驚きがある。
    • 1933年:6796
    • 1934年:8161
    • 1942年:13000
    • 1950年:15566
    • 1960年:30066
    • 1970年:37719

Brazil 20160523

上記表下部に記載されているとおり、上記ウェブサイト上の表は毎日午前0時1分に更新される。

ブラジル -契約法・実務では…

日本企業で、ブラジルに出資する会社、販路を広げたい会社にとって、契約は非常に大事である。何よりもブラジルは訴訟社会であり、また、時間の流れも(日本に比べ)ルーズであり、デモ・政治が不安定なことから、(口頭ではなく)契約書を締結しておく必要性も非常に高い。

そこで、ブラジル国内における契約書作成・締結にあたって、実務的な質問を2つほど取り上げたいと思う。


I – ブラジルでの製品販売契約書はポルトガル語で作成する必要がありますか?また、ポルトガル語の翻訳を用意する必要はありますか?

ブラジル法上、上記契約につきポルトガル語で作成しなければならない義務はありません。また、翻訳を用意しなければならないということもありません。

なお、許認可の登録関連で監督官庁等への提出が必要となる場合は、翻訳とともに公証を受けなければならない場合がありますが、単なる販売契約で、そのような提出が必要となる事態は通常考えがたいです。

II – 仮に、ポルトガル語で作成する法律上の必要がないとしても、実務上の何らかのデメリットはありますか?特に、大企業と中小企業が契約を英語で締結し、(母語でない)英語であるがために(通常語学能力が大企業に比べ長けていない)中小企業側に裁判上有利に解釈されるということはありますか?

後々訴訟になった場合に、上記英文契約をポルトガル語に翻訳し、証拠として提出する必要が出てくる可能性があります。裁判所は、ポルトガル語以外の言語の書証の場合、翻訳を要求するのが通常です。また、母語でない言語という一事情をもって(また、これを考慮要素として)、中小企業側に有利な解釈をしたという裁判例は現在のところ見当たりません。


この論点に関する日本法の小話

  • このIIに付随して、日本の最判平成28年3月15日メリルリンチ対旧武富士(TFK)事件を取り上げよう。旧武富士(現TFK)が、金融取引で巨額損失を被ってメリルリンチ日本証券(ML)等に約290億円の損害賠償を求めたケースである。
  • 一審の東京地裁と最高裁では、TFKの請求が全部棄却され、メリルリンチ側の全面勝訴で終わった。ただ、この事件では、控訴審の東京高裁が約145億円の支払を命じていたので、メリルリンチ側の逆転勝訴等と報道され、注目された。その結論の分かれ目は、メリルリンチが説明義務を尽くしたか否かであった。
    • このとき、東京高裁では、説明義務違反の有無は、本件ディフィーザンス取引の組成、スキームに照らし、損失の可能性を具体的に説明し、TFK担当者らが説明を理解できていたのかどうかという観点から判断するのが相当であるところ、MLが、TFKに対して行った、それぞれの説明は時期が遅すぎるとか、英文のものを交付しただけで和訳を交付していないことは不十分である等として、説明義務違反があったと判断したのである。
    • なお、この東京高裁の判断は最高裁でひっくり返っており、和訳を交付していないことは説明義務違反の考慮要素にはならないとされている。(本件仕組債がMLの販売経験が不十分な新商品であったにもかかわらず、金融取引についての詳しい知識を有していないTFKの担当者である取締役兼執行役員兼財務部長その他の職員らに対して本件英文書面の訳文が交付されていないことは、国際的に金融事業を行い、本件取引について公認会計士らの意見も求めていたTFKがリスクを理解する支障になるとはいえない。とされている…。公認会計士ら外部の責任も問題となりうるように思われる。)

ブラジルでビジネスをはじめようとする日本企業の皆様の少しでもお役に立てれば。

ブラジル – e-Commerce

I – ブラジルにおけるインターネット関連法

ブラジルにおけるインターネット関連法はいくつも挙げられるが、主なものは以下のとおりである。Brazilian Internet Management Committee (CGI)といった(マルチステークホルダーから構成される)委員会組織が、インターネットサービスに関する監視・監督、標準化に関する提案やIPアドレスの割当、ドメイン名の登録に関する公的な役割を担っている。なお、インターネット上のプライバシーに関する特別な組織は存在しない(もちろん、これに関する関連法案はある)。

  • 消費者保護法
  • 民法
  • 著作権法
  • 知的財産法
  • インターネット法(法2014年12965号)
  • サイバー犯罪法(2012年法127373号)
  • e-Commerce法(2012年令7962号)

II – 法の適用に関する考え方(準拠法)

消費者に関連するインターネットの利用(最終的な受益者がブラジルに本拠を有する個人であるならば)の場合、ブラジル法が必ず適用されることとなる。そして、消費者保護法の適用により、当該消費者はブラジル国内の本拠において、訴訟を提起することができる。仮に、利用規約等消費者との契約において、専属管轄条項等を設けたとしても、(当該条項は無効であり)ブラジル国内の本拠における訴訟提起を妨げることは許されない。

III – インターネット上の契約・その成立要件とは?

ブラジル民法および消費者保護法上、契約の成立要件として、書面性は原則として要求されず、口頭であっても構わない。民法上からいうと、以下の3点については考慮しておく必要がある。

  1. 契約の目的が合法的であること(たとえば、売買が法例上禁止されている違法薬物の売買であると、無効とされる)
  2. 当事者能力を有するものの間での契約であること
  3. 一定の契約においては特別の要式が要求されること(たとえば、土地の売買においては、Public deed によることが必要とされ、これによらない取引は許されない)

上記のとおり、たいした要件は要求されないものの、ブラジルの文化として訴訟が非常に多いことから、事業者としてはどの当事者とどのような契約をいつ行ったのかの記録はしかと残しておく必要があることは言うまでもない。

なお、一方的な内容の契約は消費者保護法上執行力を有しないとされ、消費者に有利なように解釈されるので、その点も考慮しておこう。

IV – インターネット事業者側の情報保持義務

インターネット法第15条により、インターネットサービス事業者はユーザーの(プラットフォームへの)アクセスレコードを6ヶ月保持しなければならないとされている。この記録は秘密離に保管されなければならず、管理可能な機密性が維持された環境下に置かなければならない。これが開示されなければならないのは、原則として有効な裁判所による決定または命令による場合のみである。

第三者への情報開示には、ユーザーの明示の同意が必要となり、インターネットサービス事業者側が当該同意を有効に得られたものであることの証明責任を負うとされている。

  • 具体的には、どのような環境下で情報を維持しなければならないのか?
    • 消費者保護法上の事業者側に課せられた善管注意義務に従い、インターネットサービス事業者は情報を合理的な方法に基づき管理・維持しなければならない。ユーザーIDの管理やWebsite Certificationやデータの暗号化等も、この義務にのっとる形で行わなければならず、少なくとも業界のスタンダードともいえるやり方にそって行うのがベターであるといえるだろう。
    • インターネット・サービスの利用規約においては、事業者側の責任を限定またはゼロにするような内容を含むことがある。しかし、ブラジルの消費者保護法は、このような責任限定条項は、当該条項が消費者が個人でない場合であって、そのような責任限定が合理的な場合に限られるということにつき留意しなければならない。
  • 暗号化情報については?
    • 暫定規則2200-2/01号によれば、暗号キーはユーザーによって作成されたものであって、ユーザーに帰属するものとされているということに注意が必要である。

V –  ドメイン名

  • Registro.brでの登録
    • Registro.brが「.br」を含むドメイン名の管理を行っている。このドメイン名については、First come, first servedベースで処理されているので、希望のドメインがある場合は早めに確認したほうがいい。
    • この確認に際していうならば、Registro.brにより出された通知RES/2008/008/Pによれば、ドメイン名はブラジル連邦政府における納税者登録を終えた会社に与えられるものとされている。
    • なお、外国企業であって何らブラジルでの登録をしていない企業の場合は、①ドメイン名を管理するブラジル居住者の選任および12ヶ月以内のブラジルでの事業開始の誓約をもって、テンポラリーのドメイン登録ができる。もし、12ヶ月以内にブラジルでの事業開始ができなかった場合には、このテンポラリーのドメイン登録は取り消されることとなる。
  • ドメイン名に関する争い
    • もし、商標等知的財産権侵害のドメイン名を発見した場合、どうすればいいのだろうか?
      • これを争う方法としては、行政手続と司法手続の二通りがありうる。行政手続は、SACI-Admを通じたものである(なお、2010年10月1日以前に登録されたドメイン名に関する争いは同機関を利用できず、司法手続によるのみしか争い得ない)。

VI – インターネット上の広告

ブラジル消費者保護法は、虚偽広告および広告における商品・サービスに関する重要な情報の欠落を禁じている。また、子供等に対する過激な表現を用いた広告も禁じている(これに関していえば、2014年決議第163号が関連する)。

また、CGIが、e-mailマーケティングに関するソフト・ローを提示していることにも注意が必要だ。

更に加えていえば、ブラジルにおける広告は、National Council for Self-regulation of Advertising(CONAR)による自主規制についても注意しておくことが慣用であることも付言しておく。なお、この自主規制もソフト・ローの一種であるが、実質的にはハード・ローに近い運用がされている。

加えて、2014年法務省通知第306号により、慣習により認められている場合を除き、景品の無償配布についても一定の許認可が必要とされているということにも留意する必要がある。

日本 -資金決済法「通貨」・LINE事件

2016年5月18日付日本経済新聞に以下の記事が出ていた。

無料対話アプリのLINE(東京・渋谷)のスマートフォン(スマホ)のゲームで使うアイテム(道具)をめぐり、関東財務局が資金決済法上の「通貨」に当たると認定していたことが18日までにわかった。通貨と認定されると、未使用残高が一定額を超えた場合に半額を法務局などに供託する必要がある。ゲーム利用者への影響はないという。

千葉県浦安市で開かれたLINEカンファレンス

(千葉県浦安市で開かれたLINEカンファレンス)

資金決済法は、事前に代金を支払って商品やサービスの購入に使うプリペイドカードや商品券などを「前払式支払手段」と位置づけている。前払い式支払い手段では発行会社の破綻に備え、利用者が購入後に使っていない残高が1000万円を超える場合、半分を法務局などに供託することを義務付けている。

同局の認定により、LINEは未使用残高の半分を供託する必要があるが、同社が銀行などと保全契約を結ぶ方法でも代替できる。LINEは「当局の要請で検査の内容や結果などは開示できない」としながらも「(当局の)指摘については誠実に対応する」としている。

I – 事件の経緯

  • 2008年9月30日:LINE株式会社(以下「LINE」)前払式支払手段(第三者型)発行者登録(関東財務局長第00607号)
  • 2012年11月19日:LINE『LINE POP ~ブラウンのクッキー~』のサービスを公開
  • 2012年12月1日:上記ゲームにつき、1000万DL達成
  • 2013年1月24日:上記ゲームにつき、2000万DL達成
  • 2016年4月6日:LINEの運営する『LINE POP』などのゲーム内の一部アイテムが、資金決済法の定める通貨に該当し、「前払式支払手段」に当たるとし、「規制内容に抵触する疑いがある」として、関東財務局が立入検査を行った旨の報道
    • 『LINE POP』というオンラインゲームには、ルピーという通貨があり、ルピーという通貨によって「宝の鍵」を購入し、「宝の鍵」 によって宝箱を開けることによって、ゲームを有利に進められるアイテムを入手することができる。ここで問題となっているのが、「宝の鍵」も二次仮想通貨にあたり、資金決済法に沿った運用が必要だったのではないかという点である(もしそうであるならば、LINEは、一定の金額を供託しなければならないことになる)。
  • 同日:「ゲーム内で販売されるアイテムが前払式支払手段に該当するか否かは、判断基準が明確ではなく、専門の法務担当ならびに必要に応じて弁護士に相談し判断している」
    「関東財務局の立ち入りは前払式支払手段発行業者に数年に一度定期的に行われているもので、今回の疑いとは無関係」とのLINEのコメントあり

    • これに伴い、これに関する報道はすぐに収束状況になった。
  • 2016年5月18日:上記新聞記事(同日以前に関東財務局による「前払式支払手段」との認定あり)

II – 問題点とその整理

本件は、LINEの運営するゲーム内の一部アイテム(「宝の鍵」)が、資金決済法上にいう「前払式支払手段」(資金決済法第3条第1項・下記赤字・太字は筆者による追記・変更)に相当するかが問題となった。「前払式支払手段」とはテレホンカードや商品券、プリペイドカードの類であるが、電子マネーのように有体物に付着しない、単なるデータであってもこれに該当する。前払式支払手段には、(1)発行者とその子会社等に対してのみ使用できる自家型と、(2)第三者に対しても用いることができる第三者型の二種類があるものの、残高が1000万円以上の場合、前者は「届出」、後者は「登録」をしなければならないとされている。

資金決済法第3条第1項

この章において「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。

一 (1) 証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。)により記録される金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。)(価値の保存)(2)応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、(対価発行)(3) その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの(代価の弁済=権利行使)

第1に、「宝の鍵」の数量については、ゲーム中にデータとして保存されていることから、これにつき価値の保存がなされていることについては争いがない。

第2に、「宝の鍵」は、財産的価値を有する「ルビー」(これについて財産的価値を有するということ、これ自体が「前払式支払手段」に相当することについては争いがないと思われる)を支払うことによって入手できる以上、対価を得て発行されるということについても争いはないように思える。だが、仮に、この「宝の鍵」が、「ルビー」との交換以外であっても容易に入手できるのであれば、対価発行の要件も争えそうだ。だが、私はこのLINE POPのゲームをやったことがなく、この点がよく分からない。

しかし、権利行使があるといえるのだろうか(第三の要件の具備が争点)。

一般に、ゲーム内のコインでガチャによって得られたアイテム等は「権利行使」の要件を満たさないといわれている。すなわち、これらアイテム等は既にゲーム内で完結して使用するアイテムであって、これらアイテム等は更に何かを得るために使用する類のものではないと考えられているからだ。したがい、この争点に対する判断は、「宝の鍵」が宝箱を開けるアイテムなのか、それとも宝箱の中のアイテムを入手するための「権利行使」手段なのかといういわば評価の問題に帰着する。

たとえば、「一万ペリカ(商品券のようなもの)」というものを使用し「ビール(ユーザーの目的物)」を入手する場合に、「ビール」を入手したら「一万ペリカ」が消滅してしまう場合には、「権利行使」に値するといった評価ができよう。「1万ペリカ」を入手するために、現金1000円を支払い、「帝愛商品券1万ポイント(これまた商品券のようなもの)」を購入し、これをもって支払わなければならない場合であっても、この評価に影響を与えることはないと思われる。ペリカ保持者を保護する必要性は依然として存するし、ペリカ保持者と帝愛商品券保持者双方ともに保護する必要性を否定するものではないからだ。これに対し、「帝愛商品券1万ポイント」の利用方法は、「一万ペリカ」を介しての「ビール」しかありえない状況であれば、「一万ペリカ」自体はいわば「帝愛商品券1万ポイント」の権利行使過程でしかなく、それ独自の保護を与える必要はないといったことも議論できそうだ。

だが、上記同様だが、私はこのLINE POPのゲームをやったことがなく、この点も肯定したと思われる関東財務局の判断につき特に異論を述べられる立場にない…(なら、なぜこのブログを書いているのだと言われそうだが、要するにどのように「宝の鍵」を入手して、使用できるのかという事情がこれら3要件の認定に影響を与えるということが言いたいのだ)。

 

継続的にサービスを続け、新規ユーザーの獲得・既存ユーザーの維持をしなければならないオンラインゲームの特性上、ゲームの機能のアップグレード・変更は日常茶飯事である。LINE POPのゲームも「宝の鍵」の入手方法や使用方法についてもきっとどこかで変更があったのだろう。LINE内部にもインハウスの弁護士がいると聞くが、どのように対応したのだろう。また、関財の調査が入ったときもどのように応対したのだろうか、気になり、これを妄想しながら、今晩は寝ることとしよう。

 

M&A league – Latin Lawyer

Latin America M&A League

ラテン・アメリカでのM&A法律事務所はどこが有名なのだろうか。その確認に有用なツールの一つがLatin Lawyerである。2016年においては、5月上旬ころに、各ラテンアメリカの法律事務所につき、昨年2015年のM&Aの実績を発表した。

  • ブラジル
    • 4年連続で、Mattos Filho法律事務所が件数・取扱金額ともに1位であった(22件・87428百万米ドル)。2位以下には、Machado, Meyer, Sendacz e Opice Advogados(19件・20397百万米ドル)、Pinheiro Neto Advogados(15件・11544百万米ドル)、BMA(14件・20397百万米ドル)、Demarest Advogados(11件・11040百万米ドル)、Veirano Advogados(11件・9009百万米ドル)、Tozzini Freire Advogados(8件・11870百万米ドル)、Lefosse Advogados(8件・11544百万米ドル)といったところが並ぶ。
  • コロンビア
    • M&A件数で、Gómez-Pinzón Zuleta Abogadosが2015年の首位となった(13件・8001百万米ドル)。昨年首位であったBrigard & Urrutia Abogadosは取扱金額のみでの1位にとどまり、件数では2位であった(7件・8254百万ドル)。ほかには、Posse Herrera Ruiz、Philippi Prietocarrizosa Ferrero DU & Uríaといったところが上位に名を連ねる。
  • アルゼンチン
    • Marval, O’Farrell & Mairalが件数・取扱金額ともに1位であった(10件・6736百万米ドル)。ほかは、Bruchou, Fermández Madero & Lombardi(5件・3890百万米ドル)、Allende & Brea Abogados(9件・5299百万米ドル)、 Hope, Duggan & Silva、Pérez Alati, Groundona, Benites, Arntsen & Martinez de Hoz、Salaverri Dellatorre Burgio & Wetzler Malbránといったところが名を連ねる。
  • ペルー
    • Rodrigo, Elías & Medrano Abogadosが件数・取扱金額ともに1位であった(8件・1946百万米ドル)。ほかには、上記コロンビアにも名があがったPhillippi Prietocarrizosa Ferrero DU & Uría(7件・金額数は6位以下ということもあり不明)、Estudio Echecopar member firm of Baker & McKenzie International(6件・同じく金額不明)が件数上位に挙がっていた。
  • メキシコ
    • Creel, García-Cuéllar, Aiza y Enriquez SCが件数・取扱金額ともに1位であった(14件・17204百万米ドル)。ほかには、Mijares, Angoitia, Cortés y Fuentes, SC(9件・4162百万米ドル)、Baker & McKenzie (Mexico)(件数は11位以下のため不明・15000百万米ドル)、Ritch, Mueller, Heather y Nicolau, SC(7件・4177百万米ドル)というところが上位に名を挙げていた。
  • チリ
    • Carey(17件・8380百万米ドル)は従前取扱金額も1位であったが、今回の調査ではBaker & McKenzie (Chile)(5件・16675百万米ドル)にその座を譲り渡したものの件数1位は維持した。そのほか上位に名を上げているのは、Philippi Prietocarrizosa Ferrero DU & Uría (Chile)やClaro & Cía、Barros & Errázuriz AbogadosやCariola, Díez, Pérez-Cotapos & Cía Ltdaといったところである。

ラテン・アメリカの近年M&Aエリアで活発な法律事務所を探すことに一助になればと思い、ここに各地域の上位の名前を挙げた。もちろん、これら事務所がベストな法律事務所と言い切るつもりはないが、経験豊富さを示す一つの資料としてあげた。ご参考になれば。

また、2017年にもおそらく5月ころ同じように各ラテンアメリカ諸国法律事務所の2016年の取扱件数・金額を公表されると思われる。機会があればこれも引き続きウォッチしていきたいと思う。

ブラジル – M&A:民事再生・会社更生との兼ね合い・債権回収

ブラジルにおける事業再生手続としては、ブラジル倒産法(2005年2月9日法11101号)に規定されている。なお、事業再生というと債権回収といった後ろ向きの問題(守り)を思い浮かべることがあるかもしれないが、事業再生中の会社の買収といった前向き(攻め)にも対応できる問題である。ブラジルの経済が不況であるといったり、政局が不安定であるということで、後ろ向きな気持ちになりがちなところ、ここは攻めの姿勢を見せるべく、M&Aとの関連で事業再生について語っていければと思う。

I – 法令の目的と範囲

  • 目的
    • 経営不振事業の再建
    • 債権回収
  • 対象手続 *1
    • (1) 司法上または(2)司法外の再生手続
    • (3)清算型手続(破産手続)

*1  日本と異なり、ブラジルでは、一つの法律(ブラジル倒産法)で、民事再生手続・破産手続をカバーしている。

  • 範囲
    • 国有企業や官民合弁企業(ペトロブラス等)や金融機関は適用外(法第2条参照)

ブラジル法の適用傾向として、破産しても構わないような中小企業に再生手続が、破産困難な大企業に破産手続が適用される事例が多いと伺っている。

II – (1) 司法上(裁判上)の再生手続

  • 債務者のみにより申し立てられることが可能である。
  • (管財人による監督に服するものの)対象会社の経営陣が引き続きその地位にとどまる
  • 申立てがなされ、当該申立てに対する裁判所の許可が下りた段階で、原則として、債権の実行が180日間停止される(すなわち、債権者側としては回収ができなくなる)。
    • 例外としては、租税債権や、先物外国為替取引より生じる取引等が挙げられる。
  • 債務者提出による再生計画に関しては、これを実施するためには、原則として、4つの異なるクラスの債権者群からの承認がそれぞれ必要である。
  • 再生手続申立ての公表後、15日以内に債権者は債権の届出をしなければならず、日本と比べ非常に短期であるという点は要注意である。
  • 一般に、再生手続が開始されてから終了するまでには2年ほどかかるといわれている。

日本の民事再生手続との比較

  • 日本法上、民事再生手続は、(主として中小企業の再生に用いられることを想定している手続だが、個人であっても法人であっても、また大企業であっても利用できる手続であり、)原則として債務者が主体となって進めていく再建型手続である。
  • 担保権者は原則として手続に取り込まれておらず、手続外で担保権者との交渉が必要になるし、失権効も会社更生手続に比べると弱い(いわゆる「知れたる債権者」については失権しない)。
  • 計画内外での事業譲渡につき裁判所の代替許可を得ることにより株主総会の特別決議が不要(民事再生法第43条第1項・第8項)
  • 株式の取得につき裁判所の許可が必要(民事再生法第166条)

 

III – (2) 司法外の再生手続

  • いわゆるプレパック/プレパッケージ型(一定の手続を裁判所に申し立てる前に、スポンサー先や事業譲渡先が決まっている場合のこと)といわれる再生手続である。取引先の信用不安の軽減や事業価値の劣化の抑制が見込めるというメリットがあると言われている。
  • 上記司法上の再生手続と同様、租税債権等一定の債権については、適用がない。
  • 最大の特徴としては、債務者は、対象となる債権者を制限することができる点や、上記のような法律上の執行停止期間は設けられないということが挙げられる。
  • 再生計画については、各クラスの債権額の60%超の同意が必要とされる。

日本のプレパック/プレパッケージ型との比較

  • 日本の会社更生法では経営陣の退陣が前提であったことから実例は少なかったが、2008年末に裁判所が運用を変えたということから、このプレパック・プレパッケージ型の運用に期待がかかっている。
    • そもそも、会社更生法が大きな会社での運用、民事再生法が小さな会社や個人での運用というのが想定されていた。このところ、会社更生法では、上記のとおり旧経営陣の経営からの排除および裁判所の申立て受理要件のハードルの高さから使いやすいものではなかった。
      • 2000年4月に施行された民事再生法は、債務者企業の経営陣h亜原則として会社の経営権と財産の管理処分権を維持しつつ事業再生への取り組みを継続することを認めている。
      • DIP型会社更生手続の運用導入。2008年12月にNBL誌に「会社更生事件の最近の実情と今後の新たな展開」という当時東京地裁民事8部の裁判官(難波孝一氏)執筆による論文が大反響を起こしたものである。

IV – (3) 清算型手続(破産手続)

  • 債務者・債権者のいずれの申立てであっても可能
  • 破産決定により、一定のクローバック期間が設けられ、決定以後の債務者に対する強制執行手続等が禁止される。
    • クローバック期間に関して、追加で言及するならば、90日間の遡及というのが一つのメルクマールになっているので、債権者側としてはこれに注意されたい。クローバック・リスクとも言われ、管財人による債権回収行為の否認により回収金が取り戻されるリスクである。

日本での破産手続との比較

  • 債務者・債権者のいずれの申立によりであっても可能(破産法第18条第1項)
  • 否認権
    • 詐害行為の否認(第160条)
      • (1)破産者が破産債権者を害することを知ってした行為、(2)破産者が支払の停止または破産手続開始の申立があった後にした破産債権者を害する行為、(3)破産者が支払の停止等があったのちまたはその前6月以内にした無償行為およびこれと同視すべき有償行為を否認することができる
    • 偏頗(へんぱ)行為の否認(第162条)
      • (1)破産者が支払不能になった後または破産手続開始の申立があった後にした行為、破産者の義務に属せず、またはその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前30日以内になされたものについて、否認することができる。
      • したがって、本旨弁済等の偏頗行為については、原則として支払不能となったかどうかを基準として、それ以降のものが否認されることとなっている。
        • 例えば、旧法での運用だが、たとえ本旨弁済等であっても、否認権の行使が認められた例として、以下のものが挙げられる。
          • 第三者が破産会社の詐欺により詐取された金員の変換を請求し、破産会社がこの事実を認め利得の返還として同額の支払いをした場合においても、同支払が破産債権者を害する意図のものになされたときは、この支払いは否認しうる(最判昭和47年12月19日)
          • 借入金を特定債務の弁済に充てることにつき当該債権者、破産者、貸主間に合意があり、新規借入債務の態様が従前の債務より重くないという事情がある場合であっても、借入金による弁済は不当性を有し、否認しうる(大阪高判昭和61年2月20日)

ブラジル – 大統領の罷免手続きその後

ブラジル時間本日2016年5月12日午前6時前ほどに、ルセフ大統領(Dilma Rousseff)の罷免手続に関し、上院採決が終わった。前日午前10時から始まったこの手続は、81人の上院議員のうち出席した各員が15分ほど演説する形式(出席議員は71名で、50名が賛成、20名が反対、1名がどちらにも組しない意見・沈黙)を取り、なかなか遅々として進まなかったが、21時間にも及ぶ審議がなされ、また、夜通し行われ、今朝方ようやく結論が出た。

ご存知のとおり、ブラジル議会では、ルセフ大統領が政府会計の不正操作に関わったなどとして去年12月から弾劾に向けた手続きが進められてきており、この議会上院は、ルセフ大統領に対する弾劾法廷を設置するかどうかの採決だった。これは1992年のFernando Collor de Mello大統領時代に行われて以来の24年ぶりの大事件でもある。

その結果、賛成の議員が55人、反対が22人となり、賛成多数で弾劾法廷の設置が決まった。弾劾法廷の設置後、ルセフ大統領に正式に通知され、大統領の職務が180日間停止されることになる。弾劾法廷による裁判は、8月のリオデジャネイロオリンピックの時期(8月5日開幕)まで続くとみられ、この間、テメル副大統領(Michel Temer)が大統領代行を務めることになる。なお、テメル副大統領の所属するブラジル民主運動党(PMDB)は、今回の罷免手続最中の3月に連立政権を離れているものの、ブラジル最大の政党であることにはいまだ変わりはない。

I – 何が上院で議論されていたのか?

(上記のとおり、政府会計の不正操作が罷免手続の端緒であったものの)今回話されていたものは、もっぱら経済の状況についてであった。ブラジルはここ10年で最大の不況に陥っており、失業率は2015年には9%にも達していたし、物価上昇率(インフレ指数)も非常に悪化していた。

採決状況はテレビでも放映されていたところ、このうち、有名なサッカー選手でもあったロマーリオ(Romario)上院議員が出席し、(かなり太ったなと思いつつも)ブラジルは危機的な状況にあり、そのこと等を踏まえ、今回の弾劾裁判設置に賛成票を投じる旨述べたのが一番印象的であった。恥ずかしながら、知っている上院議員が彼しかいなかったのも、印象的であったことの一因というのはここだけの内緒としておこう。

II – 採決。そのとき国民は?

私自身はサンパウロ市に住む一般市民であったが、前日から深夜にかけてパウリスタ大通りを歩いて帰宅途中、政府側・反政府側双方がデモをしているのを見た。3月やその後あった大規模なデモに比べれば、大分小規模に落ちており、多くの人々は採決が可決されていることを想定しているようであったと感じた。

III – 今後は?

今後は弾劾裁判が始まり、最大180日間続き、オリンピック期間までには終わりそうもないというのが大方の予想である。これは最終的には表決により決められるが、2/3以上の賛成があればルセフ大統領はこれをもって正式的に罷免されることとなる。