“may” vs. “reserve(s) the right to…”

英文契約をドラフト又はこれにコメントする機会が多いが、細かなところで気になることがある。標題のものもそうだ。「同じ言葉は同じ意味で使う」という契約書ドラフトの基本からすると、(逆はまた真ならずとも)「違う言葉は違う意味で使う」とすべきなのだろうが、契約書のドラフト実務からすると、この基本がいつも通用するとは限らないのが実情だ。

例えば、最近よくドラフト・コメントする株主間契約でいくつか先例を見てみると、以下のような例を含む契約を見つけた(一部改変している)。

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英文契約書のススメ(履行場面の文言について)

ブラジルまたはブラジル法のトリビア的知識ではなく、英文契約書の基本について、自身でも整理しつつ記載してみる。日本語でも同様のことだが、契約書の用語と日常的に使われる用語は異なる。ちょっと具体例を挙げて考えてみたいと思う。これらの例と記載は、いずれも『A Manufal of Style for Contract』(Kenneth A. Adams)より引用または参照しているものであって、マニアやプロフェッショナルはそちらでしっかりと確認していただきたい。

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And vs. Or – および・ならびに、そして、または・もしくは

I – はじめに…日本語のドラフティングにおいて

日本語の契約書でよく注意されるのが、「および」「ならびに」の関係、そして「もしくは」「または」の関係である。前者はいずれも”and”、そして後者はいずれも”or”を意味するが、そのレベルが異なって使用される。前者・後者のいずれにおいても、それぞれの冒頭の語が小レベルとして用いられる。例えば、(A、BおよびC)ならびに(DおよびE)といったようにである。

本記載では、Adams on Contract Drafting(2016年5月8日付)の記載を紹介しつつ、”and”と”or”の問題について取り扱ってみたいと思う。

II – 取り上げる課題(Opinion of the U.S. District Court for the Northern District of Ohio in Alloy Bellows & Precision Welding, Inc. v. Jason Cole, No. 1:15CV494, 2016 WL 1618108, at *1 (N.D. Ohio Apr. 22, 2016))

これは、Cole(被告)がPrecision Welding, Inc.(原告)のために勤務していたものの、その後競合他社に移籍したことに関し、原告が、被告に対し、契約上の守秘義務および競業避止義務に違反する旨を主張し、当該移籍の差し止め等を求めた事例である。

ここで問題となった契約の記載は以下のとおりである(仮訳・太線・下線は筆者による加筆)。

Either during your working relationship with Alloy Bellows, or for a period of two (2) years after your working relationship and/or severance period ends with Alloy Bellows, you agree and accept that you shall not, (I) directly or indirectly engage in any business that completes (sic) with Alloy Bellows in any way in North America ….

  • (仮訳・以下同じ)Alloy Bellowsとの勤務関係の継続期間または同期間終了後2年間、および/または退職金等支払い期間終了後のいずれの期間においても、(I)直接または間接に、北アメリカにおける同氏との事業に何ら関与しないことについて、合意し、この条件を承諾した…

これに対する、裁判所の意見は以下のとおりである。

Cole argues that because the above language is written in the disjunctive, a plain reading means he was prohibited from competing with Alloy Bellows either while he worked for them or after he stopped working for Alloy Bellows, but not both. Since there is no allegation he competed with Alloy Bellows while he worked for them, Cole contends he did not violate the express terms even if he competed with Alloy Bellows after he left its employ.

  • (被告)Cole氏の主張は、「上記文言は離接語(「または」といった用語を意すると思われる)を用いて記載されているのだから、当該意味は、Alloy氏との競業禁止は、同氏との勤務関係が継続している間、またはその期間終了後のいずれかにかかるのであって、その双方の期間ではないことは明らかである」というものであった。そして、勤務関係の継続期間において、違反がなかったことについて争いがないということを踏まえ、仮に期間終了後競業を行ったとしても、同氏は、契約上の期間に違反はなかったと主張した。

Plaintiff counters that the language above is conjunctive and any other reading is “absurd.” Furthermore, Cole’s attempts to find a “clever” way around the Non-Compete indicates Cole understood it to be inclusive, forbidding competition both while employed and for a period of two years thereafter.

  • これに対し、原告の反論は、「上記文言は接続後(「および」といった用語を意すると思われる)であり、そのほかの解釈は『不合理』なもの」とするものであった。さらに、(被告)Cole氏の「ずる賢い」競業避止義務の回避方法は、同氏が競業避止期間が勤務関係継続期間およびその後2年間双方含まれるものであったことを理解していることを意味しているとも主張した。

The Court finds the above language in the Non-Compete further militates against the issuance of an injunction order. The use of “either, or” is disjunctive, and generally is use to state a choice between two things i.e.- “Sam will either exercise or rest today.” However, in some context it may include both choices – i.e., “You may buy bread at either Giant Eagle or Safeway.” The intent of the parties is critical on this issue, but that is a question of fact that cannot be determined at this juncture. Therefore, Plaintiff has not proven by clear and convincing evidence a substantial likelihood of success on the merits of its Breach of the Non-Compete agreement and its motion for injunctive relief is denied on this basis as well.

  • これら主張を踏まえ裁判所は、競業避止義務条項の文言は差し止め命令を許容するに不利な方向に働くと判示した。
    • 「either」や「or」は離接語であって、一般的に2つのなかから1つを選ぶ場合に使われるものである。例えば、サムは今日運動か休息かのどちらかをする予定である、といった具合にだ。しかし、いくつかの場合、離説語が双方の選択を意味する場合もある。例えば、パンはGiant EagleまたはSafewayで買うことが出来ます、といった具合にだ。これらどちらかを意味するかという問題において、当事者の意思は重要な要素であるものの、本件離説語においては決定的な事実が見当たらない。したがって、原告が「明確かつ確信を抱くに足りる証拠」を競業避止義務違反に関する本案勝訴の見込みがある程度に示せておらず、差し止め命令の申立はこれをもって棄却とする。

III – ケネス・アダムの分析を踏まえ

裁判所の「離脱語」の読み方は、通常と若干異なるようで、andも含め、契約書の書き方にはより慎重さ(more prudent)が必要とされそうだ。アダムの分析にも書かれているが、「the natural interpretation of I didn’t like his mother or his father is I didn’t like his mother and I didn’t like his father.」と否定文の場合のorは「および」の意を汲むことが多い。ところが、当該事件の裁判所はどうやら違うようだ。

日本の裁判例でざっと探したところ、「および」「または」の解釈につき争いとなった事例は見当たらなかったのだが、上記米国の裁判はもちろんのこと、日本の裁判でも契約の内容を証明する証拠として、契約書が最重要証拠として取り扱われていることはいうまでもない。

“Shall”

Shallは、不明確な用語なので、一方当事者に義務を課す条項と分かるもの以外には、使わないほうがいいといわれている。著名なBlack’s Law Dictionaryでは、”has a duty to; more broadly, is required to…”といった意味で使うのが好ましいとされている。ほかの用語(willやmust)との使い分けも考えながら、Shallを使ったほうがいいだろう。

(具体例1)将来にわたった義務の期間を示すような場合には、willを使うのがいいといわれている。

× This Agreement shall terminate on December 31, 3015.

○ This Agreement will terminate on December 31, 3015.

(具体例2)既存の義務であるものの、当該契約自体から生じるものではない場合(典型的には、第三者契約の場合)には、mustを使うのがいいといわれている。

If X must create and deliver a report under X’s letter agreement with Z, then the Y shall reimburse X for all costs that X incurs in connection with creating and delivering that report.