ブラジル – 個人情報保護法成立(8月23日追記)

ブラジルで個人情報保護法が成立しそうである。

従前より、ブラジルにおいて個人情報保護法に相当する分野横断的な法律は存在せず、消費者保護法や税法当各種業法において一定の制約があるに過ぎなかったと説明してきた。

このようなところ、2018年7月10日、ブラジル議会上院は、分野横断的な個人情報の取扱いに関する法案(2018年法案(PLC)第53号)を可決した。現在、本法案は大統領による承認待ちの状態であり、かかる承認後、官報公告の日から18カ月後に施行される予定である。

ヨーロッパのGDPRに類似し、域外適用や違反につきブラジル国内のグループ売上の2%の罰金(最大1回5000万レアル(約15億円))が課せられる可能性があるなど、日本企業への関心も高いところである。

当初7月中の大統領承認が予定されていたものの、2018年7月31日現在、当該大統領承認は8月中旬ころまで延期されたとのニュースを得た。大枠で大統領の承認は得られるであろうとのことだが、行政予算の厳しいなか個人情報保護委員会(Autoridade Nacional de Proteção de Dados(ANPD))といった新しい監督官庁の設立を大統領が認めるかというところは依然不透明であり、引き続き動向を見守る必要がある。

久々の投稿になってしまったが、今後も時間あるときにアップデートしていきたい。


(8月23日追記)

8月14日、上記大統領承認が得られた。上記ANPDに関する点を含め、一部大統領による拒否権が行使されたものの、大筋上記法案どおりに立法化された(2018年法13709号)。8月15日付で官報公告(こちら)されており、2020年2月には施行される予定である。

ブラジル – エンターテイメント関連法

さて、ブラジルのエンターテイメント関連法ということで、前五回ほど連載というかブログを掲載してきた。ついに、エンターテイメント関連法と言う分野のなかの本丸のところについて掲載していく。といっても、たいした記載はないのだが…(汗)、たいした大きな規制はないというところを書きたいがために、規制があるメディア・広告関連といったところを書いていたところもあり、(大風呂敷を広げたにもかかわらず、おちの部分である本稿がたいしたものではないことにつき)どうかご容赦いただきたい。

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ブラジル – エンターテイメント関連法

ブラジル法上のエンターテイメント関連法ということで、広告関連法の続編についてとりあげたいと思う。なお、インターネットの広告に関しては、以前こちらで述べたこともある。前回述べた広告関連法の総論を踏まえ、虚偽広告の事例とトレードマーク・著作権との関係について触れておきたいと思う。

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ブラジル – エンターテイメント関連法

さてさて、続きで、ブラジル法上のエンターテイメント関連法ということで、広告関連法についてとりあげたいと思う。なお、インターネットの広告に関しては、以前こちらで述べたこともある。以前述べた部分との重複もあるが、ここで広告全般について触れておきたいと思う。

  • I – メディア関連法(総論名誉毀損プライバシー
  • II – 広告関連法(総論(今回)・各論)
  • III – エンターテイメント関連法
  • IV – アート関連法

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ブラジル – エンターテイメント関連法

さてさて、前々回からの続きで、ブラジル法上のプライバシー侵害の問題に関し、取り上げてみたいと思う。いざ書き始めてみると、書きたいことが次から次へと沸いてきてしまい、まとまりがなくなってきてしまい、ここに全て書ききるのが難しいなと思いつつも、このIV章までは頑張って書ききりたいと思う。頑張れ!自分!

  • I – メディア関連法(前々回前回(名誉毀損)・今回(プライバシー))
  • II – 広告関連法
  • III – エンターテイメント関連法
  • IV – アート関連法

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ブラジル -エンターテイメント関連法

さてさて、前回の続きで、ブラジル法上の名誉毀損に関し、取り上げてみたいと思う。

  • I – メディア関連法(前回・今回(名誉毀損)・次回)
  • II – 広告関連法
  • III – エンターテイメント関連法
  • IV – アート関連法

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ブラジル -エンターテイメント関連法

ブラジルのエンターテイメントといえば、サッカーを思い出すひとが多いかもしれない。サッカーのテレビ放送は毎日のように行われ、夕方からはサッカー観戦に走るひとも多い。バーやレストランにあるテレビで放映されているのもサッカーの試合であることがほとんどだ。仮に、家にテレビがなかった(我が家はテレビを契約していない)としても、外から聞こえる爆竹と叫び声で、「あぁ、今日もサッカー観戦があるのだな」と実感する。と言う流れで、本日は、ブラジルのエンターテイメント法関連について触れてみたいと思う。

  • I – メディア関連法(今回・次回)
  • II – 広告関連法
  • III – エンターテイメント関連法
  • IV – アート関連法

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ブラジル – 腐敗防止法・責任主体の範囲

前回述べたとおり、腐敗防止法の違反を犯した場合、当該違反者たる法人のみならず、親会社・子会社にもその責任が及ぶ。それを図で示すと以下のとおりである。

I – ブラジル腐敗防止法・責任主体の範囲(同法4条2項)

Anti-Corrupt

Xが腐敗防止法違反を犯した場合、上記図にいう「Sis」を除く全ての法人に責任が及ぶ可能性がある。なお、ここでいうコンソーシアムとは、もっぱら損益分配に関する定めを有する契約関係(JVや組合等)を指している。

II – 上記を踏まえて、具体的な問題意識を探る

Anti-Corrupt (2)

(1) 仮想事案とその問題意識

  • 当事者
    • ブラジル企業(X)との間で、JVを組成しようとしている日本企業(PA1)がある。PA1は、米州統括会社(PA2)を米国に設立しており、その100%子会社として、ブラジル統括企業(A)をブラジル国内に設立している。
    • ブラジル企業(X)は旧ブラジル財閥系同族企業(P1)の一部であり、P1は事業ごとにP2、更にはその下に子会社を設立し、業務・人事関連を整理しており、Xは、(とある製品を製造・販売する)α事業を主に展開しており、α事業では、ブラジル国内ではトップとは言えないまでも、非常に強いブランド力と販売網を有している。
  • 案件の背景
    • 日本企業(PA1)グループは、日本国内のみならず欧米をはじめ世界各所でα事業を営んでいるものの、ブラジル国内では一切これに関する製造を行ったことが一切なく、日本国内で製造したα事業の製品を輸入・販売する代理店を通し、α事業に関与したことがある程度であった。もっとも、ブラジルの高い関税やブラジル市場の豊富な人口・購買力の強い中間層の増加にかんがみ、ブラジル国内での製造・販売にP2またはXの代表取締役との話し合いの結果、Xの100%買収ではなく、Xとの間にJVを組成し、当面の間はXが主軸となって、JV事業を進めていくM&A計画を作ろうということとなった。
      • なお、余談になるが、この代理店の販売方式次第では(PA1グループにブラジル国内の売上が生じているとして)α事業に関する水平的結合として、ブラジル独禁法の届出義務が生じることもある。
    • 当該M&A計画では、Xのα事業を事業譲渡の形で、JVに移し、そのJV株式の49%(議決権)をAが買収するということとなった。また、その後一定の条件を満たした場合は、Aが議決権ベースでJVの過半数以上または100%の議決権取得とするということも重要な条件であった。
  • 問題
    • 買収側である日本企業としては、Xのα事業に対し、デューデリジェンスを行うこととなったのだが、上記腐敗防止法の責任範囲にかんがみて、Xの他事業および親会社や子会社までデューデリジェンスを行うべきであろうか。
    • デューデリジェンスを行うかは別論としても、JV契約や議決権買収に関する契約(Share Purchase Agreement / Quota Purchase Agreement)においていかなる手当てを行うのが適切であろうか。

(2) 考えられる対応方針

(予算と時間、当該事業や売主サイドの親子会社グループ内の関係等にかんがみて、)腐敗防止法違反リスクの確認のため、親法人等に関するデューデリジェンスが行えるのであるならば、行うべきであろう。無論、デューデリジェンスは警察等公権力の行使をもって行うものではないのだから、XおよびP1グループ売主側の協力が必要不可欠である。もっとも、この腐敗防止法は現在のところ施行されて間もない新しい法律であり、親法人が行った腐敗行為の結果子法人が責任を負った事例について大きなニュース報道になったこともない。したがって、売主側に真摯にリスクを伝え理解を訴えるとともに、出来る範囲での協力をお願いしていくことになるのであろう。

例えば、α事業が公的資金の補助を受けて行われるという場合には(腐敗防止法違反が発覚した場合には、当該補助が受けられなくなる可能性があるので)なおさら強い協力を求めていくのであろう。

また、JV契約での補償(Indemnification)条項の検討(なお、腐敗防止法の責任の時効は5年だが、起算点が発覚したときまたは行為が終了したとき(継続的な行為の場合)とされており、契約当初までに違反行為を知りえなかった場合には補償期間を5年としても足りないとされる可能性がある点は要注意)や、プット・コールオプション、JVに新たな加入者が入ってくる可能性にかんがみて、First Regusal Rightの設定の検討は欠かせないであろう。加えて、ブラジルでは比較的一般的なエスクローによる支払いによる場合であっても、その支払いタームを工夫する必要も出てくるだろう。

 

ブラジル – コンプライアンス・腐敗防止法

I – はじめに

ブラジル腐敗防止法(Anti-Corruption Law / 12.846 de 1 de agosto de 2013 – Dispõe sobre a responsabilização administrativa e civil de pessoas jurídicas pela prática de atos contra a administração pública, nacional ou estrangeira, e dá outras providências)は、2013年8月2日に公布され、2014年1月29日より施行された。

2002年より外国公務員贈賄に対する刑罰規定は有していたものの、同腐敗防止法により、法人に対する処分や、行為者のみならず親会社、子会社、関係会社等の連帯責任の規定のほか、内部統制・リーニエンシーによる処分の減免に関する規定が設けられた。

II – 諸外国の規制状況

(1) 法制度状況の歴史

  • 1977 米国・連邦腐敗行為防止法(FCPA – Foreign Corrupt Practices Act)の制定
    • ロッキード事件が制定の背景にあるのだが、その後、米国は国連・OECD等においても各国の取り組みを要請していた。
  • 1997 OECD外国公務員贈賄防止条約
    • 日本を含む33カ国(オーストラリアを除く当時のOECD加盟国28カ国とブルガリア、チリ、アルゼンチン、ブラジル、スロバキア(当時非加盟))により署名。なお、オーストラリアはその後、98年に署名。この条約はその後99年2月に発効。
  • 1998 日本・不正競争防止法内において、外国公務員への贈賄に対する刑事罰を導入(同年、OECD外国公務員贈賄防止条約を批准)
  • 2000 ブラジル・OECD外国公民贈賄防止条約を批准
  • 2002 ブラジル・外国公民贈賄に対する刑事罰を導入
  • 2004 日本・外国公務員収賄罪に国外犯処罰を導入
  • 2013 ブラジル・腐敗防止法の制定

(2) OECD条約

日本もブラジルも、OECDの調印および批准を踏まえ、国内法を整備した経緯もあり、各国の法律を理解するうえで、OECD条約の理解は欠かせない。

OECD条約では、締約国は、国際商取引において商取引又は他の不当な利益を取得し又維持するために、外国公務員に対し、金銭上又はその他の不当な利益を申し出、約束し又は供与することを、自国の法令の下で犯罪とするために必要な措置をとることとしている。

当該措置の対象範囲としては、属地主義(国内犯については行為者の国籍を問わず処罰)が原則とされ、属人主義は各国の法制度にゆだねる形とされている。日本は、上記のとおり2004年法改正により、国外犯処罰の規定を設けている。

また、同条約により、外国公務員に対する贈賄行為は、締結国間の犯罪人引渡条約における引渡犯罪とみなされている(同条約第10条)。

(2) 米国・FCPA

  • 適用主体
    • 米国での証券発行体(上場企業・ADRの発行者等)
    • 国内関係者
    • その他の者(米国領域内で州際通商の手段を利用して贈賄を行った場合)
      • 例えば、米国内の銀行口座に賄賂が送金された場合や、賄賂に関する会議の参加者やメールの受領者が米国内にいた場合も含まれるし、また米ドルで賄賂や賄賂資金を送金した場合も含まれうる。
    • 上記に掲げる者と凶暴した者(この場合、アメリカ国外で行われた場合であっても、構わない)
      • 米国企業がパートナーとして参加しているJVに日本企業が参加し、その合弁企業が外国公務員に対して贈賄行為を行った場合も含まれうる。
  • 行為
    • 営業上の利益を得る目的で、外国公務員に対して、腐敗の意図を持って行う利益の供与を禁止している。この「利益」には、金員や物品に限らず、接待、贈答、旅行等も含まれる。
      • 処罰対象から除かれる行為その1:合理的かつ善意なもの(reasonable and bona fide)
      • 処罰対象から除かれる行為その2:手続円滑のための少額の金員の支払い(いわゆるファシリテーション・ペイメント)
  • 罰則
    • 法人:200万ドル以下の罰金
    • 自然人:25万ドル以下の罰金または5年以下の懲役(併科あり)
    • 上記に代わる罰則として、違反行為により生じた利益または損害の2倍まで罰金を科すことが可能(Alternative Fines Act)

(3) 日本

  • 適用主体
    • 自然人および法人
      • 日本国内での行為
      • 日本国外での日本人の行為
  • 行為
    • 国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせもしくはさせないこと、またはその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせもしくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、またはその申込みもしくは約束をしてはならない
      • 上記にいうファシリテーション・ペイメントは、「営業上の不正の利益」という要件を満たさないと争うことは可能
  •  罰則
    • 法人:3億円以下の罰金
    • 自然人:5年以下の懲役または500万円以下の罰金(併科あり)
    • 両罰規定
      • 法人に対する過失推定(最判昭和40年3月26日)

III – ブラジル

(1) ブラジル刑法

  • 適用対象
    • 自然人
  • 行為
    • 国際的な商取引に関し、外国公務員の職務上の作為もしくは不作為を得ること、または職務の遂行男を遅延させることを目的として、
    • 外国公務員または第三者に対して、
    • 不正な便益の約束、供与または提供を行うこと
  • 罰則
    • 1年以上8年以下の禁固および罰金
      • 外国公務員による作為・不作為・遅延が実際に生じた場合に加重される可能性あり

(2) ブラジル腐敗防止法

  • 適用対象
    • 法人
      • 親会社、子会社、関係会社、コンソーシアム(JV等を組成する場合)にも及ぶ
  • 行為
    • 国内公務員もしくは外国公務員またはそれらの関係者に対し、
    • 不正の便益の供与または約束等をすること
      • そのほかにも、同法上違反行為に対する資金提供等の援助、違反行為に係る便益・利得の隠蔽、入札手続等における不正行為、当局による調査・査定等の妨害行為も含まれる。
      • 無過失は抗弁とならない(日本の不正競争防止法上は抗弁となる)
      • 内部統制システムの整備やリーニエンシーによる減免あり
      • 時効期間は5年間(起算点が違反行為が明らかとなったときまたは行為が終了したとき)
      • ファシリティ・ペイメントは許容されない
  • 罰則
    • 行政処分
      • 制裁金:前年度総売上高の0.1%~20%
      • 違反事実の公表
    • 司法処分
      • 違反行為により取得された資産等の没収
      • 事業の全部または一部の停止
      • 強制解散
      • 補助金等の公的資金授受の停止(1~5年)