ブラジル – 担保物権(基礎)

ブラジル担保法制・担保権(security interest)について触れてみる。ブラジルの不動産に関する担保には、抵当権(Hipoteca)や譲渡担保(Alienação Fiduciária)といったものが代表的なものとして挙げられるところ、これらについて触れてみるとする。

担保権に関する英語と日本語の訳をうまく使い分けることも難しい。例えば、M&Aの契約(株式譲渡契約)上の表明保証の文脈で、以下のような実例があるところ、どう訳すのが適切かどうかふんふん悩むというのが、私の経験上よくあった。

Seller is the lawful owner of all the Company’s Stock, free and clear of all security interests, liens, encumbrances, pledges or other charges.

(仮訳)売主は、いかなる担保権、リーエン、負担、質権またはその他の担保権の設定がない状態で、本件会社株式の全部の合法的所有者である。

と、仮訳をささっと書いてみたが、lienを「リーエン」と訳するのが適切なのか、日本法上「リーエン」も「負担」などという用語も存在せず、どちらかといえば先取特権等にした方がいいのではないか、いやはや、そもそも訳として成立していないのではないかや、chargesとsecurity interestsを同じ「担保権」と訳してしまっているのだがそれで問題ないかと悩みはつきない。

ということで、まずは英法における担保権について日本法と比較しながらごく簡単な説明を加えたうえで、ブラジル担保法制について触れていくこととしよう。

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ブラジル -不動産法・DDを行う際に見つかる問題点の具体例

ブラジルでの不動産を含む企業買収(M&A)は、不動産制度が日本と異なるうえ、対象企業自体が創業一族に保有されているのに過ぎず、公私混同されているケースも多々見受けられる。日本でのM&Aに比べ、「ぎょっ」と思わせる問題点があることもあり、ここで、その具体例をいくつか紹介してみたいと思う。

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ブラジル -不動産法(4):不動産に関する権利関係等

ブラジルでの不動産買収は、郊外土地に関する外資規制があるもののほか、その制度自体が日本とは異なることから、日本人からすると「あれ?」と思わせることが多い。ここでは、その不動産の買収に関して、おおまかに整理を加えていきたいと思う。

I – 不動産登記局(Cartório de Registro de Imóveis)

日本にも法務局(商業登記法や不動産登記法に関する登記を管理する部署があり、総称して登記局と言われることが多い)があるが、そのうち不動産登記を扱う部署がブラジルにもある。それがここでいう不動産登記局であり、1973年12月31日法6015号に基づくものである。

所有権の登記は、少なくとも、(1)当該対象不動産の概要(土地・建物)、(2)所有者の氏名および特定できる情報、(3)当該不動産に付着する権利(抵当権・質権等)の記載がなされる。

II – 不動産に関係する権利関係

(1) 地上権(Direito de Superfície)

地上権は、所有権の一種であり、土地所有者が、一定の期間につき、他者に土地に建物を建てる等土地の使用権原を与える内容を含むものをいう。地上権の性質としては、大要以下のとおりである。

  • 約因(consideration)は不要
  • 地上権者は、当該土地に侵入する第三者に対し、立ち退き等請求することができる
  • 地上権者は、当該土地に発生する税金等に対し、責任を負う
  • 地上権者と地上権設定者は、相互に先買権を有する
  • 地上権自体に対し、抵当権等設定することは可能

日本の地上権設定

  • 最長最短の期限の制限なし
  • 第三者対抗要件のため・日本民法177条(地上権設定の登記必要)
  • 地主の承諾の有無に関らず譲渡可能(譲渡禁止特約を設けたとしても、債権的効力のみ-永小作権との違い)
  • 地代は地上権の要素ではない
  • 地主の買取権・地上権者の収去権(日本民法269条第1項)
  • 地上権につき担保することも可能だし、賃貸することも可能

 

(2) 永小作権(Enfiteuse)

永小作権は、所有権の一種であって、土地所有者が、小作人に対し、一定の土地をしようする権原を与えるとともに、一定の小作料を対価として支払うよう義務付けるものである。

  • 有償が原則であり、永続とされている
  • 小作料の支払いは、小作人より土地所有者へ直接なされる必要がある
  • 当該永小作権の内容にもよるが、一般的には、永小作権により、小作人は耕作等を行い果実を収受することが可能

日本の永小作権設定

  • 地代が要素である
  • 永代小作権は不可
  • 譲渡禁止特約を設けることができるが、その場合登記必要(日本民法272条)
  • 賃貸借の主な規定の準用(日本民法273条)

 

(3) 地役権(Servidão)

一定の目的に従って、ある土地の便益のために、他人の土地を利用する権利をいう。永久のものも、無償であっても設定可能である。

(4) 果実収受権(Usufruto)

当該土地の果実等を収受する権利をいう。その一代限りのものも、また一定の期限のものも、また無償であっても設定可能である。果実収受権者の死亡または権利放棄、期限の徒過、当該不動産の滅失または当該果実収受権に関する不履行等により消滅する。当該権利は譲渡不可である。

(5) 使用権(Direito de Uso)

上記果実収受権に似ているが、当該果実収受権者の生活の必要のために供される点が異なる。

(6) 居住権(Habitação)

一時的に無償で誰かの居住区または施設に居住することのできる権利。

(7) 不動産質権(Anticrese)

制度としてはあっても、ブラジル法ではあまり利用されることがないとのこと。

 

 

 

 

ブラジル – 不動産法:外資規制

ブラジルにおける不動産取得につき、外資規制があることについては、以前その概略につき、本ブログに投稿した。今回は、もう少し詳しく触れることとしよう。

外資規制の対象となる土地は、以下のとおりであり、ここでは郊外と国境付近について触れることとしよう。

  • 郊外
  • 国境付近
  • 軍所有地(46年法9760号・第2章・第205章)(大統領より権限の委譲を受けた財務省による承諾が必要)
  • アマゾン地域(01年決定52号・Corregedoria Geral de Justiça do Estado do Amazonas)(原則として、郊外土地と同様の制限を受けるが、現在国会において特別な制限をかけることが議論されている)

I – 郊外

(1) 郊外土地規制の歴史

1971年連邦法5709号および1974年規則74965号により、外国人(個人および法人を問わない)による郊外の土地取得は、一定の制限が課せられている。同法第1章(セクション)の第一文には、ブラジル企業であっても、過半数の株式が外国人に保有されている場合は、この制限を同様に受けるとされている。数年後、1988年ブラジル憲法(第171章(セクション)を含む)が制定され、そのなかでも、ブラジル資本の会社との区別が明示するようになっていった。

また、1993年連邦法8629号により、郊外土地の賃貸借関係についても、同様の規制が課せられるようになった。

これらに関し、連邦政府のジェネラルカウンセル事務局は、意見書GQ-22号を出している。当該意見書によれば、連邦憲法は、ブラジル資本の会社に関して与えられている一部の特権については、外国人に支配されているブラジル企業に対し憲法上の制約を課すことを許すとしている。なお、この意見書は法的拘束力は有しないとされている(なぜなら、同意見書については、法的に正式な公告手続が経られていないからである)。

その後、1995年連邦修正憲法第6号(EC6/95)により、上記意見書に関する連邦憲法第171章(セクション)につき廃止されたのだが、1995年から2年後の1997年に、連邦政府のジェネラルカウンセル事務局は、新たに意見書GQ-181号を提出した。この意見書は、(上記連邦憲法第171章の廃止にもかかわらず)意見書GQ-22号をより強固にさせるものであり、外資規制の維持を謳ったものであった。当該意見書は、意見書GQ-22号とは異なり、法的拘束力を有するものであり、1998年12月17日大統領より認可され、1999年1月22日官報での公告がなされた。

その後、2010年8月19日大統領は新たに意見書LA-01号を認可し、当該意見書もまた2010年8月23日官報での公告がなされた。この意見書では、より外資規制が幅広にされており、直接・間接に外国人に保有されるブラジル企業であっても、郊外の土地取得に関する外資規制は適用される旨述べている。

なお、当該新意見書LA-01号は官報公告日に効力発生しており、2010年8月23日までに行われたことに関しては適用されない。

(2) 規制の概要

土地の取得であろうと、土地の賃貸借であろうと、外国人(個人、法人を問わず、また直接のみならず、間接保有するブラジル法人)の郊外土地に関しては、一定の制限があるということは上記に述べたとおりである。

まず、外国人投資家は、1人の外国人等の郊外土地所有については、最大一筆まで許される。但し、当該土地のエリアが、ブラジル都市計画機関(Instituto Nacional de Colonização e Reforma Agrária(INCRA))により定められている3つを超える区画(Módulos de Exploração Indefinida(MEI))を保有しないことが必要である。

前記新意見書LA-01号によれば、この3区画を超える場合、郊外土地の外国人投資家等による取得・賃借は71年法5709号により規制されることとなり、当該取得等に先立って、INCRAによる事前許可を受ける必要がある。

上記71年法5709号による規制の概要は以下のとおりである。

  • 郊外土地は、農業や酪農、産業・都市計画その他のプロジェクトの実行のために存するのであって、これらプロジェクトは国土省(Ministry of Land Development)および産業・外国取引省(Ministry of Development, Industry and Foreign Trade)の事前の許可を得なければならないのであって、また当該プロジェクトは土地取得等を行う会社の事業目的に則したものでなければならない。
  • 外国人投資家等に保有される郊外土地は、各自治体において4分の1を超えてはならない。
  • 同一国の外国人投資家等に保有される郊外土地は、各自治体において、上記外国人投資家等に保有される郊外土地のうちの40%を超えてはならない。
  • (外国人投資家等に保有される)50を超える区画(MEI)が、一続きの地域において存在してはならない(71年法5709号)。また、93年法8629号に従い、100を超える区画が存在してはならない場合もあるので、この法にも別途注意をする必要がある。

これらの規制は、外国企業が郊外土地を買収する場合にはもちろんのこと、外国企業が郊外土地を保有するブラジル企業を買収する場合にも同じように適用される。

なお、これらの法令の要求に従わない郊外土地の取得については、当該行為を無効とさせられうるので注意が必要である。

II – 国境付近

国境より150キロメートル圏内の土地については、ブラジルの国防上重要地帯とされている。郊外土地であって、国境付近である場合は、上記I郊外土地規制のほかに、この国境付近地帯に関する土地規制も重複してかかることとなる。

この点、外国人投資家等(ブラジルに本居を構える外国人、ブラジルにて事業を行う法人、過半数の資本が外国人による保有されているブラジル企業を含む)が、国境付近土地の取得、賃借、抵当権設定、地上権等の地役権の設定等を行うためには、Conselho de Segurança Nacionalの事前の許可を得なければならない。

この法令の要求に従わない場合、当該売買等の行為が無効とされうるのに加えて、当該取引価額の20%を罰金として科せられる可能性がある。

ブラジル – 不動産法(3):境界画定

はじめに – 土地の問題は複雑(日本をかえりみよう)

日本法でも境界画定の話は難しい。土地境界については、公法上の土地境界と私法上の境界画定の二つがあるからだ。公法上の制度として登記が定める土地境界を「公法上の土地境界」とよび、所有権などのいわば私権対象としての土地の境界を「私法上の土地境界」という。これが一致していれば、管理監督・譲渡等も容易なのだが、一筆の土地の一部を譲渡することも可能だし、取得時効の成立も可能であるので、これらが必ずしも一致しているとは限らないのである。

日本の場合は、土地購入の際の契約書添付の測量図や重要事項説明書、そのほか公図や隣接地の売買契約書、実測図、分筆図面、境界標識(境界石・杭)の状況等が参考となる。加えて、境界確認に際しては、当該土地の利用状況(現在・過去)も大事である。

これらの資料収集・現況調査には土地家屋調査士に調査依頼するのが通例だと認識している。これら資料をもって当事者で協議のうえ、境界線の協議が成立した際には、土地家屋調査士に依頼し、境界標識(不動標識)を設置し、その内容を同士立会いのもと、境界確認書として文書にしておくといった流れになろう。もしこれで、協議が整わない場合は、裁判所に調停を申し立てるか、最終的には境界画定訴訟を起こすことになる。なお、私法上の境界は(所有権確認訴訟の対象であって)境界画定訴訟の対象になりえず、現在の判例・通説は、公法上の境界こそが境界画定訴訟の対象となるとされている(不動産登記法78条・79条)。

なお、この境界画定訴訟の性質には、確認訴訟説・形成訴訟説・形式的形成訴訟説の3説が有名なところであるが、この訴訟は公法上の境界を定めるものであり、実質的には非訟事件であるとする形式的形成訴訟説が通説といわれている(大審院大正12年6月2日判決)。

(私法上で所有権の和解できればいいじゃないかという反論されるかたも予想されるので)このような公法上の話をするのかというと、所有権について和解をしていても、その和解の内容に従った境界が確定されていなければ、和解内容に沿った土地の一部の分筆および所有権移転の登記をすることができないからである。

ブラジルでは… その問題点から解決方法の一部まで…

残念ながら、土地の登録がしっかりとされていない場合が多々ありうるし、現存する建物と登録上の土地との存在関係も問題になりうる。例えば、ある建物を譲渡しようとする場合に、当該建物がどこに建っているかわからないと、登録ができないということになりうる(登録ができないとなると、もし、それが賃貸物件であった場合には、第三者への対抗等で問題が容易に生じうることになってしまうし、その後の売却等を考えても得策ではないことは明らかである)。

この場合には、まず、建物がどこにあるのか、日本でいう土地家屋調査士のような専門家に依頼し、どこに建っているのか確認する必要がある。もし、これが一筆の土地のうちに、一個の建物がのっている場合は、話は比較的容易である。特定のうえ、その建物がのっている一筆の土地を登録すればよいのだから。

では、複数の土地のうえに、不可分な複数の建物(しかも、譲渡を受けたいというのはその建物の一部)がまたがっている場合にはどうすればいいのだろうか。複数の解決方法が考えられるが、そのひとつが商業用コンドミニアム(日本でいうとマンション・アパートメントやオフィスビルディングを想定してもらえるとイメージがわかりやすいように思う)を組成するというのもひとつアイディアだ。このようにすれば、建物一部の賃貸・登録が可能である。また、(範囲を特定したうえで、必要な範囲に限り)日本の地上権類似の設定をかぶせるというのもひとつの解決方法だ。

ブラジル – 不動産法(2):賃貸借契約

ブラジルにおいて、不動産を賃貸借する場合のお話。

ブラジルにおける不動産賃貸借に関する法律は、法8245号である。

ブラジルにおける不動産賃貸借は、比較的短期なものが多い。これに対し、日本における場合と同様に、長期の契約を望む日系企業による買収の場合に、賃貸人(土地所有者)・売主(現賃借人)・買主(将来の賃借人)間で議論が起こるケースがままある。

  • 契約の更新

賃貸借契約の登録は、賃借人が賃貸人に対し、契約更新を訴えるための訴訟(açao renovatória)を提起できるための必須条件ではない。このような訴訟を提起するための条件としては、

  • 当該賃貸借が、非居住目的であること(すなわち、商業・工業目的であること)
  • 当該賃貸借契約が、書面によるものであること(すなわち、口頭契約では、要件を満たさない)
  • 賃貸借期間が定まっていること(期間の定めなき契約の場合では、要件を満たさない)
  • 賃貸借期間が、少なくとも5年以上であること、これに加え
  • 賃借人が、少なくとも3年続けて同一の事業を当該土地において行っていること

ということが要件とされる。但し、ブラジルの判例の蓄積からすると、この賃借人の更新する権利は限定的に解釈されることが多く、初回の更新に関する訴訟は可能性がそこそこあっても、2回・3回以降の更新についてはなかなか難しいというのが現状である。

  • 賃貸借契約の登録

賃貸借契約の登録は、先買権(Right or first refusal)等賃貸借契約上の一定の権利を行使するために必要とされている。もっとも、損害賠償請求を行う場合にはこの限りではない。

ブラジル – 不動産法(1)

ブラジル不動産法は、日本企業がブラジル企業を買収するに際し、よく問題点になるひとつだ。ひとつ、郊外の土地取得については外国人等(外国企業を含む)に対する制限が存在すること、もうひとつ、日本とは異なりブラジルでは長期間の不動産賃貸借契約は通常でない(2015年末時点の経験上、長くても5年と言われたことがある。)ということ、という2点が大きいだろう。

これに関しよく聞かれる質問の二つに対し、以下のとおり、概要を記す。

  • 外国投資家による土地取得に際し、政府・関連機関からの許認可の取得は必要とされるか?

まず、都市圏における外国投資家による土地取得については、沿岸地域といった政府関連機関が保有している土地の取得(この場合は大統領の許諾を原則として必要とする)といった特殊な場合を除き、特に法的規制は存在しない。

これに対し、郊外の場合にはこの限りでなく、会社または個人であって、海外に居住または本拠を構える者は、郊外の不動産を取得することが許されない(但し、個人であって、ブラジルへ移民することを企図する者については、一部例外がありうる)のである。

なお、なお、外国為替・対内直接投資等に関する規制についてはこちらもあわせて。

  • 郊外の不動産を保有する企業を、海外企業が買収する場合には、どうすればいいのか?

上記規制は、外国投資家による直接保有であるので、これが海外企業によるブラジル企業の買収の場合にも適用があるのかは議論があるところである。しかし、連邦法5709/71号および意見書AGU LA-01/2010を勘案する限り、当該買収により、ブラジル企業の過半数が外国企業または外国人に保有されることとなった場合には、上記規制は等しく適用されることになると考えるのが現在のブラジル実務である(2016年1月現在)。

ということで、一定の対策が必要となるのだが、郊外土地不動産の登録(National Institute of Colonization and Agrarian Reform – INCRA)に関し、登録解除といったことを行うことがひとつの提案として挙げられるものだ。この登録解除のためには、いくつかの要件があるが、主なものとしては、①当該土地が農業や放牧等の目的で使用されているものではないこと、および②その当該土地が市区町村の拡大に伴い都市圏内に存在するといえるようになっていることというものが挙げられる。

これを認められるようにするためには、①当該土地が市区町村の拡大に伴い都市圏に存在するとことを称する関連市区町村からの証明書、②当該関連市区町村の関連する法規の写し、および③当該土地が上記(①)目的による使用を受けていない旨の専門家等による意見書の提出が少なくとも必要とされている。

また、これに関する手続は長くかかることが通常予想され、当該土地が都市圏内に存在するということが判明したのちであっても、おおよそ3ヶ月から6ヶ月ほどかかるのが通常と言われている。