ブラジル – 許認可関連:RADAR(輸出入)

ブラジルの許認可関連のうち、今回はRADAR(ポルトガル語でいうと「ハダール」といった発音になる)について触れてみようと思う。

RADARは、Ambiente de Registro e Rastreamento de Atuação do Intervenientes Aduaneiros(Ambient of Registration and Tracking of Activities of the Customs Agents) の略称である。輸出入業をブラジルにて行う前に、本許認可の取得をする必要があり、端的にいえば、これは、SISCOMEX (Integrated System of External Commerce) へのアクセスを許可してもらうための連邦歳入庁からの許可である。

I – SISCOMEX

SISCOMEXは、海外取引の全情報を集約しているシステムの一種であって、当該システムは、外国取引局(SECEX)に加え、連邦歳入局(SRF)とブラジル中央銀行(BACEN)により監督されている。なお、自然人・法人にかかわらず、海外取引を行うことを企図しているものは、RADARの許可を取得することが可能である。

SISCOMEXに関連する商品の輸入の税については、こちらを参照。

II – RADARの目的

RADARは上記のとおり、SISCOMEXにおける輸出入業者への許認可を含む概念だが、このシステムにおいて、外国取引・関税等会計・財務情報がいつでもIRSによって監督可能となる。また、関税当局の手続を迅速なものとし、詐欺等を防ぐ効果もあるだろう。

III – RADARの種類

RADARは大きくわけて4種類のものがある。

  • Simplified Radar
    • このRadarは18ヶ月間有効であって、固定資産を輸入する会社や商社とともに特定の物品の輸入を営む会社や、最大15万USドル(四半期ごと)程度の小規模の輸出入を行う者のため発行されるのが通常である。
  • Ordinary Radar
    • 一般的に、輸出入業を営む会社が取得するのがこのRadarである。
  • Restricted Radar
    • 海外取引を以前に行ったことがある個人または法人であって、コンサルティング目的や控除目的のために発行される許認可のひとつである。
  • Special Radar
    • 政府関連機関のために発行される許認可のひとつである。

上記からわかると思うが、一般の民間取引で問題となってくるのは、Simplified か Ordinaryのどちらかである。単純に言ってしまえば、Ordinaryは取得に時間がかかるので、(1) Simplifiedを取得させてアップグレードという形を取るか、(2) 時間はかかっても構わないので、Ordinaryを最初から取りに行くのかという選択等を検討することになる。

 

 

ブラジル – 労務(2):雇用関係 – 1

I – 「従業員」の定義

労働法(Consolidação das Leis do Trabalho – CLT)は、「従業員」について以下のとおり定義している。

「従業員」とは、①個人であって、②会社、その他法人または個人(「会社等」)に対し、継続的に何らかのサービスを提供するものであって、③当該会社等の直接指揮下にあり、④その対価として、報酬を受け取るものを言う。

II – 雇用関係

(1) 雇用契約(一般)

労働法によれば、雇用契約が雇用関係を規律する。雇用契約は、書面であっても、口頭であっても構わないが、労働法でカバーされないエリア(またはそれが不明確なエリア)(例えば、試用期間、チ残業代、秘密保持義務、競業避止義務、任意の手当ての定め、控除に関する定め、従業員の故意等による使用者の財産の損壊に関する責任の取り決め、使用者の資材・システムを利用した場合のプライバシーの放棄等)については、書面化して保存しておくことが便宜であって、そのように実務は運用されている。

以前述べたように、原則として期限の定めのない雇用とされており、期限の定め(最長2年)は一定のごく例外自由の場合に認められているに過ぎない。もっとも、試用期間については、最大90日または労働協定で認められている範囲内で許される(書面にされている等法令の要件を満たす必要はあることに注意が必要)。

試用期間終了後、雇用の継続がなされていた場合、当該雇用関係は無期限のものとされる。

(2) 雇用契約(変更)

上記のとおり、雇用契約の成立自体は書面でも口頭でも構わないにもかかわらず、雇用契約の変更は、書面でなされなければならず、原則として従業員の不利益な変更は許されないとされている。したがって、不利益な変更は、従業員の書面による同意があったとしても、当該従業員が叛意した場合、これを覆される可能性がある(ただし、時効期間内の場合に限られる)。

もっとも、労働協定による場合はこの限りではないので、もし事業の状況等にかんがみて、減給や労働時間の増減等の変更を行う場合は、労働協定によることになるであろう。

(3) 使用者・雇用主の変更

原則として、雇用主の変更(いかなる類の取引いかんによらず)自体は雇用関係に影響を与えない。したがって、対象会社の新規株主や新支配株主は、原則として、既存の雇用関係を遵守しなければならないということになる。

対象会社の新規株主等買主側は、過去分の労務関係の債務の全てについて責任を負わなければならないが、一定条件のもと、売主側も引き続き当該労務関係の債務について責任を負うことがあるということには注意が必要である。したがって、買主側はもちろんのこと売主側にとっても、労務に関する潜在債務の確認は必要不可欠であり、デューデリジェンスの項目の際、または株式等譲渡契約の交渉の際に検討しなければならない項目のひとつである。

(4) 外国会社の場合、ブラジル企業の従業員がブラジル国外で働く場合の特殊事情

ブラジル国内において労務が提供される場合、ブラジルの労働法が適用される。これは当該労務が外国会社に提供される場合であっても、当該従業員が外国人である場合であっても変わりはない。

また、ブラジル企業の従業員が、ブラジル国外で働く場合であっても、当該従業員は、ブラジル法上(法7064/82号)のもと、一定の権利(管轄地の定めは当該労務が提供されている場所にしなければならない等)が保護されていることにも注意が必要である。

(5) 時効

従業員により、労務関連の訴訟を起こすためには、労務関係終了後2年に加え事前通告期間以内になされなければならない。労務訴訟が提起された場合、最大5年分の賃料を求めること(例外として社会保障費の請求がある。これについてはなんと30年分のものを求めることが許される)が許される。

労務というよりは税務の問題になってしまうが、社会保障給与税(給与税・Payroll tax)については、5年の時効である。

長くなってきたので、続きは、雇用関係 – 2に譲ることとする。

ブラジル – 労務(1):概要

ブラジルの労務関連の法的関係は、主に連邦憲法および労働法(Consolidação das Leis do Trabalho – CLT)により規律される。監督官庁は、市の労働局および連邦労働省である(なお、これらは移民問題についても取り扱っている)。

  • 特徴
    • 従業員等(取締役・執行役員・マネージャークラスも含まれる)の保護よりの法制度
    • 従業員は、期限の定めなく雇用されるのが原則であり、パートタイム労働者や契約社員は例外
    • 労働組合の権限は大きい(労働組合と合意すれば、減給が可能等)
    • 積極的な司法制度
      • 細かい条文・通達の類
  • 雇用関係の権利関係で注意すべき事項
    • 最低賃金(連邦と州とで、違う規制があった場合、より高い金額が適用される)
    • 専門職最低賃金(最低賃金よりも、こちらが高かった場合には、こちらの金額が適用される)
    • 労働時間管理
    • 年次有給休暇
    • クリスマスボーナス
    • 社会保障費関連(Fundo de Garantia por Tempo de Serviço – FGTS)
    • 危険作業等に関する手当て(あれば)
    • ほかにも労働組合との合意事項(ミールバウチャー(昼食手当て)・住居手当・教育手当て・利益配当等)
      • これら労働組合との合意事項は、一度なされたならば(合意解約等特段の事情のない限り)義務的であって、従業員のみならず、取締役、執行尾役員等管理職にも適用される(ただし、当該合意事項が明示的にこれらを除外していた場合はこの限りではない)。

 

ブラジル – 法令アップデート2016

いじめ問題(Bullying)について。アメリカでも、2014年・2015年と、労務問題で上位に来ていた職場内いじめ問題。ここ、ブラジルでも最近では大きな問題になっている。

法13185/2015号の一部を読み解きながら、この問題・いじめ問題について考えてみる。

I – 本法の対象:いじめ(法第1条はしらがき)

Criação do Programa de Combate à Intimidação Sistemática (“Bullying”)

abrangência: todo território nacional

  • combate (m) – combat, fight or battle
  • intimidação (f) – bullying

すなわち、いじめ(Intimidação)が構造上問題として生じている状態を「いじめ(Bullying)」として定義している。循環論法に陥っているような定義に見えるが、英語のBullyingを敢えて法文上の定義用語として用いているところはひとつ特徴といえるのかもしれない。なお、本法の適用範囲は全国である。「いじめ」の細かい定義は、同条第1項・第2項に記載されているので、別項を設けて改めて検討することとする。

II – 本法の目的(法第4条)

  • Prevenir e combater a prática da intimidação sistemática (bullying) em toda a sociedade;
  • Capacitar docentes e equipes pedagógicas para a implementação das ações de discussão, prevenção, orientação e solução do problema; (âmbito das escolas públicas e privadas)
  • Implementar e disseminar campanhas de educação, conscientização e informação;
  • Instituir práticas de conduta e orientação de pais, familiares e responsáveis diante da identificação de vítimas e agressores; (âmbito das escolas públicas e privadas)
  • Dar assistência psicológica, social e jurídica às vítimas e aos agressores
  • Promover medidas de conscientização, prevenção e combate a todos os tipos de violência, com ênfase nas práticas recorrentes de intimidação sistemática (bullying), ou constrangimento físico e psicológico, cometidas por alunos, professores e outros profissionais integrantes de escola e de comunidade escolar. (âmbito das escolas públicas e privadas)

本法の目的は、法によれば、①(社会全体を通じての)いじめ問題の防止・②いじめ問題に関する教育上の取組みの促進(公立・私立双方の教育機関を含む)・③上記促進に伴うキャンペーンの実施等・④家族等に対するガイドラインの策定・被害者・加害者の特定等(公立・私立双方の教育機関を含む)、加えて、⑤被害者および加害者に対する精神的、社会的、法的サポート、⑥生徒・教師・その他学校関連のメンバーによるあらゆる種類のいじめ問題の早期発見・防止(加えて法第6条によれば、教育機関・クラブ活動・休暇中の活動等におけるいじめの問題に関する管理・監督等についても教育機関の義務とされている)等とされている。

  • 目的⑤からすれば、雇用主は、加害者・被害者に対する何らかの責任が生じるのだろうか?
    • 答えとしては、雇用主に法的責任は生じうるということになる(CLT第482条参照)。
  • 目的⑥からすれば、クラブ活動といったものについても雇用主の責任は生じるということになるのだろうか?
    • 答えとしては、これについてもYesということになろう。

III – 「いじめ」の定義

todo (i) ato de (ii) violência física ou psicológica, intencional e repetitivo que ocorre (iii) sem motivação evidente, praticado (iv) por indivíduo ou grupo, (v) contra uma ou mais pessoas, com o (vi) objetivo de intimidá-la ou agredi-la, (vii) causando dor e angústia à vítima, (viii) em uma relação de desequilíbrio de poder entre as partes envolvidas

すなわち、(1)行為であって、 (2)物理的・精神的暴力行為であって、故意且つ反復継続して行われるものであって、(3)明らかな(合理的な)理由なくして行われるものであって、(4)個人・グループにより行われるか否かを問わず、また(5)個人・グループに対して行われるものか否かを問わず、(6)客観的に当該被害者に対してなされ、(7)その結果、何らかの物理的・精神的被害が生じているものであって、(8)被害者・加害者間に不均衡な力関係が存在するものをいうとされている(法第1条第1項)。また、サイバー上のいじめも含まれるとされている(法第2条付則条項)。

IV – 裁判例

  • TRT-3, MG, 00181201405103004-RO
    • 「いじめ」問題があったとされ、雇用主に対する損害賠償請求が認められた事例
      • 損害賠償請求がなされるためには、雇用主の故意または過失が認められなければならないとされている(ブラジル民法186条)

 

 

 

ブラジル – 環境法関連(1)

ブラジルにおいて環境法の適用を受けるか否かは、その場所、建設、施設等の設置・拡張・修繕等事業の実施において異なり、その確認は手間がかかる。もっとも、これに遵守できない場合には、行政上、民事および刑事上の処罰等一定のサンクションを受けることになるため、容易に看過できない問題である。

I – 許認可関連(具体例とともに)

例えばということで、ここでは、セメントに関する問題を取り上げてみることとすると、Ceará州とSergipe州とでセメント事業を行っている場合、双方の州法における許認可を必要とされる。ブラジルでは、連邦のみならず、州法の許認可、はたまた市区町村レベルの許認可も必要とされる場合があるので、ひとつひとつの段階について丁寧な調査が必要である。

また、許認可についても、初期段階・機材設置段階・事業段階と3段階で別々の許認可があるので注意が必要である(連邦規則99274/90号および連邦環境委員会(National Environmental Council – CONAMA)決議237/1997号)。

  • 初期段階(LP):フィージビリティ・テスト段階で必要とされる許認可である
  • 機材設置段階(LI):これにより事業の開始またはプロジェクトの始動が許可される。詳しくはこちら(ポルトガル語)。
  • 事業段階(LO):事業活動に関する許認可と等しく、上記二つの許認可条件に従っていることが、本許可の条件となっていることがほとんどである。

これら三つの許認可に加えて、特定の事項に関しては、スポットで許認可を与えられていることがあるので、これについても目配せしておく必要がある。

また、全ての許認可については期限があることにも要注意である。一度許認可が与えられたとしても、事業主は定期的にこれら許認可を更新しなければならない。CONAMA決議237/1997号によれば、LOに関しては、期限が切れる120日前に更新を行わなければならないとされている。CONAMA決議04/2012号によれば、LPやLIに関しては、期限が切れる60日前に更新を行わなければならないとされている。

II – 環境法上の責任

故意または過失(”dolo” or “culpa”)による環境法違反は、行政法上・刑事法上の処罰の対象となりうる。

故意等か否かにかかわらず、環境法違反による責任は、民法上は連帯責任となることについても注意が必要である(無過失責任 – regardless of fault)。加えて、環境法上の問題については、法人格否認の法理が幅広く適用されうる関係もあり、環境法上の責任問題は他の法人格に及びうるということにも注意しなければならない。

 

ブラジル – 税務:ISS – Import

税務全体の概要はこちら

さて、今日は、サービス輸入税に関する市税であるISSと輸入の関係について、検討を加えることとする。

ブラジル連邦憲法第156条には、市区町村へ税に関する権限の一部を委譲する旨の規定がある。

Art. 156. Compete aos Municípios instituir impostos sobre:

(…)

III – serviços de qualquer natureza, não compreendidos no art. 155, II, definidos em lei complementar. (Redação dada pela Emenda Constitucional nº 3, de 1993)

(…)

§ 3º Em relação ao imposto previsto no inciso III do caput deste artigo, cabe à lei complementar: (Redação dada pela Emenda Constitucional nº 37, de 2002)

(…)

II – excluir da sua incidência exportações de serviços para o exterior. (Incluído pela Emenda Constitucional nº 3, de 1993)

第156条(柱書) 市区町村は課税徴収権限を以下のとおり保有する

  • 第3号 第155条第2項に含まれないサービスの全てであって、補則法により定められているもの

第3項 第3号の定めにいう補則法は以下のとおりのものとする。

  • 第2号 サービスの輸出へは適用されないものとする。

上記憲法の定めを受けて、制定されている補則法(補則法116/03号)の関連場所は以下のとおりである。

“Art. 2 O imposto não incide sobre:

I – as exportações de serviços para o exterior do País;

(…)

Parágrafo único. Não se enquadram no disposto no inciso I os serviços desenvolvidos no Brasil, cujo resultado aqui se verifique, ainda que o pagamento seja feito por residente no exterior

第2条 以下の事項については課税されない。

第1号 海外諸国へのサービスの輸出

(補則条項)第1項に定めるサービスとは、ブラジル国内により提供され、同国内に生じるサービスであって(serviços desenvolvidos no Brasil, cujo resultado aqui se verfique)、支払いが海外でなされるか否かを問わない。

ここでいう「サービス」はどこまで含まれるのか?一般的に言えば、サービスによる便益が生じる地ということになろうが、事件例からすると違う解釈もありそうだ。いくつかの具体例がある(リンクが見つかったものはあわせて、ハイパーリンクをつけておくことにする)。

なお、ISSにかかる税率は、サービスまたは地域により異なり、2%から5%である。

ブラジル – 税務:概要

ブラジルの税は何度も言うが複雑極まりない。しかしながら、概観を敷衍するために、以下のとおり、税の種類ごとにわけて、整理してみた。PIS/COFINS(ピスコフィンズ)は何度も出てきてしまっており、整理の仕方に工夫の余地はありそうだが、それは今後の課題としよう。

(1) 業務に関する直接税

(2) 間接税等

  • 製品製造税(IPI):連邦付加価値税(VAT)
  • 商品およびサービスの流通税:州付加価値税
  • サービス税(市区町村によるもの)

(3) 商品輸入税

  • 輸入税
  • PIS/COFINS
  • IPI
  • ICMS

(4) サービス輸入税

  • 源泉所得税(WHT):外国に支払われる所得にかかる連邦税
  • 経済領域介入負担金(CIDE):ロイヤルティーの支払いおよび技術サービスにかかる連邦税
  • PIS/COFINS – Import:サービスの輸入にかかる連邦税
  • ISS – Import:サービスの輸入にかかる市税
  • IOF – Foreign Exchange:外国から武ブラジルへの資金移動またはブラジルから外国への資金移動にかかる連邦税

(5) 金融取引

  • IOF/Credit(借入)
  • IOF/Foreign Exchange(為替):上記(4)も参照
  • IOF/Insurance
  • IOF/Bonds

(6) 資産税

  • 不動産譲渡税(ITBI)
  • 都市建物土地税(IPTU)
  • 車両保有税(IPVA)
  • 相続贈与税(ITCMD)

ブラジル – 税務(2):法人所得税等

法人所得税等利益(Profits)に対する租税

ブラジル企業の利益は、法人所得税(IRPJ)および社会貢献税(CSLL)を課せられることになる。

I – 税額の算定

これらの税の金額は、実質利益法(Real Profit system – lucro real)または推定利益法(Presumed Profit system – lucro presumido)のいずれかの算出方法により、算定されることになる。

  • 実質利益法は、課税利益を、暦年の実際の収入から税額控除可能な経費を差し引いた金額とする方法。
    • 実質利益法による会社については、年次または四半期ごとに課税利益を算出することになる。年次による場合は毎月IRPJおよびCSLLの前払いを要求されることになるという点も注意が必要だ。
    • 税務上の繰越欠損金の期間に制限はないものの、繰越期間における課税利益の30%までが限度とされている。
  • 推定利益法は、課税利益を、法人の総収入額の一定の割合とする方法。
    • 推定利益法については、税額控除が認められないという点に注意が必要である。
    • また、推定利益法が利用できる法人は限定されており、1年の総収入が7800万レアル以下の会社のみがこれを利用できるという点、金融機関はこれを利用できないという点にも注意が必要である。

II – 税率

  • IRPJは、15%に加え、月額の課税利益のうち20000レアルを超える部分については10%の課税がなされる。
  • CSLLは、9%である(ただし、一部金融機関については15%が適用されることがある)。

 

社会負担金等(PIS/COFINS – ピスコフィンズ):収益(Revenue)に対する租税(売上税とも呼ぶひともいる)

社会負担金等(Social Integration Program “PIS”とSocial Security Financing Contribution “COFINS”)は、月次の収益に対し、課せられる税金である。

I – 税額の算定

ここでも税額の算定方式は二種類ある。累積方式(Cumulative)かまたは非累積方式(Non-Cumulative)である。

  • 累積方式は、税額控除は認められない。上記の推定利益法を採用している会社に適用される方式。
  • 非累積方式は、法律で定められた一定の収入に関して税額控除が認められる。上記の実質利益法を採用している会社に適用される方式である。

II – 税率

  • PISは0.65%(累積方式)または1.65%(非累積方式)
  • COFINは3%(累積方式)または7.6%(非累積方式)

商品・サービスの輸出より生じる収益は、当該商品・サービスに対する支払いがブラジルへ流入しているといえる場合、PIS/COFINSの課税対象にはならないとされている。仮に、非累積方式を選択した場合、このような例外は利息等の利益にも、また、(投資目的の)キャピタルゲインにも適用される。

 

ブラジル – 税務(1):基礎用語

ブラジルの租税関連は非常に複雑と聞く。訴訟の件数も非常に多いし、ブラジル進出の日本企業もよくこの問題を抱えているし、M&Aにおいて対象会社が訴訟を抱えている場合も非常に多い。

さて、そのようなブラジルの租税は、憲法および租税法(Tax Code, complementary laws, ordinary laws)を中心に、連邦上院議院決議、州法、各市町村レベルの条例といったものにより規制されている。

まず、税法に入る前に、税に関する用語(英語の理解を含む)の整理からはじめておこう。

  • 収益(Revenue)と利益(Profit)に関する簡単な理解
    • この二つの関係を式で表すと次のようになる。
    • Revenue – Expense = Profit
  • 売上(Sales)と収益(Revenue)に関する簡単な理解
    • 収益(Revenue)は、会社に入ってくるものをすべて示し、その大部分は売上(Sales)だが、厳密には受取利息(Interest income)や受取配当金(Dividend income)といった売上とはならない収益も含まれている。
    • なお、売上高のことをSales revenueと呼ぶこともある。
  • 利益に相当するProfit・Income・Margin・Earnings・Returnといった英単語の理解
    • Profit/Incomeは、おおよそ同意義で使われることが多いように思われる。Gross income、Gross profitどちらも同じ意味として、売上総利益と考えるべきだろう。
    • Earningsは、いつも複数形で使うことに注意が必要。よくでる単語としては、Earnings Per Share(一株当たり純利益)である。
    • Returnは、ROA(Return on Assets・総資産利益率)、ROE(Return on Equity、株主資本利益率)、ROI(Return on Invested Cappital・投下資本利益率)などの利益率を表現する際に頻繁に使われる。Returns to Stockholders(株主への利益還元)といった、投下したものに対する回収といったニュアンスで使用されることが多い。
    • Gross marginというと売上総利益率といったニュアンスを覚える。
  • 費用に相当するCost・Expense・Expenditureといった英単語の理解
    • PL上に計上されるものがExpense(費用)
    • BS上に計上されるものがCost(コスト、または在庫)
    • CF上に計上されるものがExpenditure(固定資産投資のためのキャッシュの支出)
      • 10億円の機械に設備投資(Capital expenditures – CAPEX)をすると、有形固定資産(Tangible fixed assets)としてBSに10億円が形状されます。その後、耐用年数にわたって減価償却されていくことで、PLのExpensesとして減価償却費(Depreciation expenses)が計上されていくことになる。
      • CAPEX vs. Revenue expenditure
        • 固定資産として、いったんBSに計上するもの(CAPEX)
        • すぐにPL上に費用として計上されるもの(Revenue expenditure)・修繕費等
  • 減価償却に相当するDepreciation・Amortizationといった英単語の理解
    • 有形固定資産の減価償却費はDepreciation
    • 無形固定資産の償却費はAmortization
  • 製品・商品の違い
    • 製造業の「製品」Manufactured products
    • 小売業・商社・卸売業の「商品」Merchandise

 

 

ブラジル – M&A(2):デューデリジェンス

目次

  • デューデリジェンス・プロセス
  • Limitadaの買収
  • S.A.の買収(上場・非上場の場合)
  • 独占禁止法との関係(企業結合規制)
  • 株主間契約との関係(その規定の具体例とともに)

デューデリジェンスは、ビジネス分野、財務、会計、そして法務の分野でそれぞれ行われることが通例である。

  • ブラジル – M&Aの関連当事者

この点、日本では中堅会計事務所と呼ばれるところが財務・会計分野での業務を担当することも多いのだが、ブラジルでは圧倒的に四大監査法人が行っている場合が多い(私の個人的肌感覚で言うと95%以上)。

2015年-2016年にかけて、ブラジル経済が不安定ということもあり、「売り」のビッド案件が非常に多くある状況で、その傾向は2017年ころまでも続きそうだ。そうなると、ビッドの交通整理をするための、フィナンシャルアドバイザー(これも四大監査法人が担当することがある。もちろん、一方当事者のアドバイザーと兼業ということはありえないので、その点はご安心を)が入る。

1stビッドで、ノンバインディングのオファーレターを提出し(この時点ではビッドを買ったとしても、複数の買い手候補者がいるのが通例)、2ndビッドで、バインディングのオファーレターを提出する(このビッドを買った時点で、唯一の買い手候補者となるのが通例)という流れだ。

  • 法務デューデリジェンス

法務のデューデリジェンスというと、以下のパートに分けられることが多い。

  • 会社概要
  • 財務関係書類(銀行とのローン契約等)
  • 契約関係
  • 許認可
  • 訴訟
  • 税務
  • 労務
  • 環境
  • 不動産
  • IP
  • 保険
  • コンプライアンス(賄賂等腐敗防止法関連を含む)

ブラジルのTOPと言われているローファームでは、これらを全て逐一各分野のエキスパートに仕事を分配する(たとえ、小さな案件であっても)。なので、デューデリジェンスにかかわる法律事務所の陣容はかなり膨れ上がる。各分野には最低2人以上のエキスパートが振り分けられることが多いことからすれば、おのずと総計は20人以上となるだろう。(なお、費用の点については、複数の法律事務所より見積もりを取るとともに、キャップを設ける等よく事前に相談しておいたほうがいいだろう。)

なお、ここでいうエキスパートと言っても、インターン生を含む。ブラジルの法律事務所では、インターン生を多く抱えているのが通常なのだ。インターン生とは、ロースクールの学生であり、パートタイムジョブである(学習に専念すべきということで、法律上の制限として一日6時間以内の就業といった制限が課せられている)。

イニシャルレポートを最短で(資料の提出があってから)1~2週間ほど、最終レポートの提出は1~2ヶ月ほど見るのが通常のスケジュールであろう。また、ブラジルの法令は複雑で、なかなか遵守が難しいということもあり、多くの法令の問題点が見つかることがあることから、DDレポートは(日本企業のそれに対し)分厚くなることが多く、100頁を超えることがほとんどであろう。

  • 対象会社の現状(2015年・2016年雑感)と、それを踏まえての対応策

ブラジルの会社は、いまだにオーナー会社が多く、場合によりDDのQ&Aの対応に慣れていないことが多く、法令の問題点が多く見つかることも多い。日本語での対応など出来るわけもなく、英語での対応もおぼつかない例が少なくない。契約交渉段階で、別紙のドラフト作成は大抵事情の詳しい対象会社側(又は売主側)にゆだねられることが多いのだが、この提出が非常に遅れ、それが原因のため、交渉が破談となるケースも見受けられる。

また、スケジュールの策定も非常に大事なポイントだ。対象会社・売主側とのスケジュールに関する温度間の差に関し、買主側は、(当初のキックオフのときに確認したら満足するのではなく、)FA等を通じて逐次把握しておいたほうがいいし、法律事務所等外部アドバイザーにそのような点についても逐次質問しておいたほうがいい(資料の出の状況はどうか、Q&Aセッションの状況はどうか、協力的か非協力的かといったニュアンスも含む)。DD期間が始まったら、法律事務所・会計事務所と交えて、またはそれぞれ別個に、週時での電話会議等口頭での報告を求めるのも一案だと思う。